Episode:122
「なんだあれ、デカいな」
イマドの言う通りかなり大きな人形が、こっちへ向かってくる。
「型、わかるか?」
「ううん、初めて見るわ……」
黒が基調で、カニのような姿をしている。外骨格はどうやら、鋼鉄らしい。
「思うんだけどよ、人形ってワリに人間型じゃねぇの、多くねぇか?」
「最近の、みんなそうかも……」
場違いな言葉に、一瞬戦闘を忘れかけた。
けどたしかに戦闘力が高いものほど、人間からはかけ離れた形になってる。
「しゃぁねぇな。とりあえず合成獣じゃなくて機械みてぇだから、その路線か?」
「たぶん、そうだと――え?」
鋼鉄のカニが、不意にその爪のついた腕を振り回した。近くにいた兵士がまともに食らって、吹き飛ばされる。
次いでその人形は、手近な建物や車両に突進し始めた。
「……暴走、してねぇか?」
「してる……と思う……」
呆れてものが言えないというのは、まさにこのことだろう。
「なぜだ、なぜちゃんと動かん!」
「その、なにせプロトタイプですので……」
指揮官や上級士官もうろたえてる。
「誰かこいつを――うわぁっ!」
カニがまた兵士めがけて爪を振り上げたのを見て、あたしはとっさに呪文を唱えた。
「フルグラトル・ラースっ!!」
対魔法防御が施してあったらどうしようかと思ったけど、幸いそれはなかった。
中規模の雷魔法で、間一髪のところで動きが止まる。
「効いたみたいだな」
「うん」
そのとき鋼鉄のカニの目が、あたしたちを見た。
「なに……?」
「ちょっと待て、あのクズ鉄、俺らターゲットにしたんじゃね?」
カニの目が赤っぽくなったのに、あたしも同じ感想を抱いた。
ぎしぎしという音を立てながら、カニがツメを振り上げて一歩こっちへ出る。
「くるぞっ!」
「でも、どうしよう? ここじゃ……」
こんな大きい相手と戦おうと思ったら、広い場所でないと周囲の建物まで巻き込んでしまう。
けど周囲の建物の中には、人がたくさんいる。
「ちっ、まいったな……そだ、駅前の広場、ここからすぐじゃねぇか?」
「あ、うん。じゃあ場所移動して……」
イマドと一瞬視線が合った。
あたしの考えてることが伝わってる、そう確信する。
何の合図もなしに、あたしたちは同時に駆け出した。
左右に分かれながら、タイミングを合わせて低位の雷系呪文を放って、一瞬だけこいつを食い止める。
「ったく、こんなとこでランニングするとは、思わなかったぜ」
カニの向こう側をすりぬけながら、イマドがぼやいてるのが、なぜか聞こえた。
「喋ると、息が続かなくならない?」
すり抜けて合流してから、思わずそう返す。
後ろではまた兵士を巻き込みながら、鋼鉄のカニがこちらへと向きを変えたようだった。
「このくらいでネあげてたら、学院の訓練で死ぬぜ?」
「それはそうだけど」
ちらっと見ると、追いかけてきているのは例のカニだけだった。ロデスティオ兵は巻きこまれるのが怖くて、追って来れないらしい。
ただ、追いかけてくるスピードはけっこう速い。