Episode:119
「向こうさんもお気の毒ってやつか。タイヘンだな〜」
イマドが少しだけ同情したような声を出した。
あいかわらず向こうは大混乱だ。
「えぇい、何をしているか! 早く人形を出せっ!」
業を煮やしたのか、さっきとは別の上級士官がそう叫んだ。
「ともかく構わん、片っ端から叩き壊せ!」
――なんてめちゃくちゃな。
およそ軍人とは思えない命令に呆れる。
でも治安維持部隊の兵士たちはそれを真に受けたらしくて、次々と人形が前へ出てきた。
こうなると……どう考えても一般の人やシーモアたちには荷が重くなる。
思ってるうちに一機が連射砲を撃って、慌ててスラムの人たちが部屋の中へと引っ込んだ。
――あの人たち、なにもしてないのに。
ひどく腹がたってくる。
「あのね、ここ以外の状況って分かる?」
向こうの部隊を見据えながら、あたしはイマドに聞いた。
「ちょっと待ってくれな。
――向うはぜんぜん平気だってさ。あと、ほかの細い道なんかはクリアゾンの人が出て、防衛線張ってくれたらしいぜ。
とりあえず、お前はそこをしっかり守ってろって。で、なんか突破されたら写影増やすとか、お前のお袋言ってるぞ?」
「………」
最後の一言は余計だ。
とりあえず牽制に魔法を放っておいて、あたしはざっと頭の中で戦力を計算した。
シーモアとナティエスの武器は、基本的に飛び道具だ。当然遠距離からが向いている。あたしとイマドは近接武器で精霊も使ってるから、これもポジションは決まりだろう。
――できれば、もうちょっと人数がほしいんだけど。
守り切れないことはないけど、この人数差だと手加減ができない。ただの防衛戦なら、できる限り死傷者は出したくなかった。
「ルーフェイア!」
考え事をしていたあたしを心配したんだろう、イマドが叫ぶ。
でも、戦場で育ったあたしの感覚は、しっかり周囲を捉えていた。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」
振り向きながら呪文を唱える。
「ケラウノス・レイジっ!」
魔法が決まって、人形が倒れた。
「さっきのとは違うな」
「うん、このほうが後継機で、新しいの」
もっとも後継機というのは呼び名だけで、中身はまったく違う。その辺はロデスティオ軍の傭兵隊にいたとき、たまに部隊に配備されたからよく知っていた。
長年使われていた旧式の頭でっかちとは違って、これは見かけもスマートだ。
「滅多に回してもらえなかったけど、これがあると戦闘が楽だったの」
「……んなもん、一撃で倒すなよ」
「そう言われても……」
こんなの相手にモタついていたら、それだけ戦闘が不利になる。
「2人とも、なに和んでんのさ!」
「和んでるわけじゃ、ないけど……」
まだ戦闘自体が、差し迫った状況になっていない。
「ともかく、この通りはうちらでどうにかしないと――っと、やっと援軍が来たね」
シーモアの言葉どおり、向こうからガルシィさんやダグさんが来るのが見えた。
――どうしよう。
人数が増えたのは嬉しいけど、ヘタに前線へ出てこられたらかえって危ない。