Episode:109
「ディアスはここの出で、あたしはいちおうその連れ合いだもの」
それから一転、鋭い笑顔になる。
シュマー家の歴戦の猛者をも震え上がらせる、凄絶としか言いようのない微笑み……。
「悪いけど、あなたたちが束になってかかっても、あたしたちは倒せないわよ」
しん、と店の中が静まり返った。
「というわけで、最前線に出させてもらうわ。
だいいち連中の起動兵器と渡り合えるのは、現役で傭兵やってるあたしたちぐらいでしょ?」
「まぁ、そうだろうが……。
だが、この子たちまで連れてくことはないだろう。子供の戦力なんざ、タカがしれてる」
言われて悲しくなった。
あたしの戦闘能力は……普通じゃない。
「言いたいことは分かるけど、そう言わないで。あたしだって一応親なのよ。連れてかないで済むなら、そうしてるわ。
けどこの子たち――並じゃないのよ」
ボスが複雑な表情になった。
きっと母さんの言葉の裏を読み取ったんだろう、腕組みをしながらため息をつく。
「……そしたらお嬢ちゃん、これを持っていきな」
「え? でもこれ、大切な……」
ボスがあたしに差し出してくれたのは、昨日の短刀だ。
だけどこれは、亡くなった娘さんの思い出が詰まってるんじゃなかっただろうか?
あたしが躊躇っていると、ボスがふっと笑った。
「これはな、持ってる人間に幸運をもたらすって言われてるんだ。
娘が死んだときもそうさ。俺はこれを持ってでかいヤマを片付けて、意気ようようで……。
けど欲しがってた娘は、ちょっとしたことで殺されちまった」
視線が下へ落ちる。
「さっさと娘に渡してりゃ死ななかったんじゃないか。くだらないとは思いながら、いつもそう思うのさ。
だからお嬢ちゃん、持っていくといい」
「――わかりました」
短刀を受け取る。
「さ、もたもたしてらんないわ。さっさと行って片付けるわよ」
この話はこれで終わり、そんなふうに母さんが言う。
「俺たちもすぐに行くからな」
「あ、そしたらその前にちょっと頼まれてよ♪」
ぞくりとする。
あの母さんの、子供みたいな悪戯っぽい表情……。
「ここの人たちには、当然知らせるんでしょ?」
「もう使えるだけの人間使って、知らせてる最中さ。
もっとも知らせたとこで、家にこもってるくらいしかテはないんだがな」
「それなんだけどね――」
なんだかボスと相談を始める。
「――確かにそれだったら、イケそうだな」
「でしょ? そしたら頼むわね。あたしはリオネルに連絡入れたらすぐ出るわ。
――レニーサ、通話機借りるわよ」
慌しく母さんが奥へ行消えた。
「メシ……★」
隣ではイマドがまだぼやいている。
あまりにも可哀想だった。
「あのね……携行食でよかったら、あるけど?」
「――それでいい」
きっとよっぽどお腹がすいてるんだろう、いつもならちゃんとしたものを食べたがるイマドが、あっさり妥協する。