Episode:108
「で、それが今日の予定だったでしょ?
だからそれにかこつけて出動して、いろいろ根こそぎ潰そうってことらしいのよ」
「――とんでもない連中ね」
母さんが毒づく。
けどこれで、最後のパズルの欠片がはまった。
つまりちょっとのことでは動かないクリアゾンの代わりに、ダグさんとガルシィさんのチームを仲違いさせて抗争を起こさせる。そしてそれを口実に、スラムの目障りな人たちを片付けるつもりだったのだ。
「ともかく急がないと、大変なことになりかねないわ」
「それはそうね」
あたしも同感だった。
『治安維持』と言えば聞こえはいいけど、この場合は下手をすると、強盗集団よりタチが悪い。
なにしろロデスティオ軍の規律の乱れは有名だ。進軍した先で一般市民に暴力を振るうことも日常茶飯事で、母さんは見つけるたびに叩きのめしてた。
それがシティの人たちさえも嫌う、スラムへ進軍?したら……。
「まったくいつもはほったらかしなのに、今回に限って連中も何考えたのかしらね?
それにコーニッシュ大佐とやら、とんだ食わせ者だったわ。穏健派でならしてると思ったら、この騒ぎだもの」
「どういうこと?」
母さんが尋ねる。
「この命令だしたの、コーニッシュ大佐だそうよ」
「リオネルが……?」
昨日と同じように顎に手を当てて、母さんが考えこんだ。
きっと信じられないんだろう。
「そりゃ、あなたは大佐を直接知ってるみたいだから、信じたくないんだろうけど。
でも軍に行ってる子が、出動の情報と一緒に流してくれたから、間違いないわ」
「………」
しばらくの沈黙の後、母さんが口にしたのはぜんぜん別の言葉だった。
「部隊が来るのに、どのくらいかかりそう?」
「小1時間ってとこかしら?」
どこでどう情報を手に入れたのか、迷うことなくレニーサさんが答える。
「――そう。それじゃ黒幕のとこへ行ってる暇はなさそうね。
せっかくの獲物を逃がすのは癪だけど、しょうがない、防衛戦に回りましょ。
さ、行くわよ」
せっかく遊びに行こうとしたら寸前で邪魔が入った、そんな母さんが言った。
「ちょ、ちょっと、あなたたちだけで?!
もう少しすればクリアゾンの面々やらちびちゃんたちのグループが揃うから、それまで待ちなさいよ」
「へーきへーき、このメンツだったらビルの1つや2つ、軽く壊せるから」
しかもどういうわけか、イマドの襟首をつかむ。
「メシ……」
「しのごの言わないの!」
引きずられてく彼を追いかけて、あたしも部屋を出た。
隣の部屋へ抜けて、それから店のほうへ出る。
「どこへ行くんだ?」
「そりゃ、治安部隊叩きのめしにに決まってるじゃない」
「あんたたちが? それに子供まで連れてくのか?」
店にはもう、クリアゾンの人たちが集まっていた。ボスの顔も見える。
「あんた、何考えてるか知らないが……これは俺たちの問題だ。出る必要はない」
「そうもいかないのよ〜♪」
きつい調子のボスの言葉に、母さんはけろりと答えた。