Episode:105
翌朝。
「ルーフェイア、起きなさいっ!」
「なに? 敵襲?!」
母さんの言葉に跳ね起きて、とっさに枕元に置いていた太刀を掴む。
それからようやく気付いた。
「あ、違った……」
寝ているところへの母さんの声で勘違いしたけど、ここは戦場じゃない。
「――あんた、しっかり染みついてるわねぇ」
「だって……」
あの頃はこうじゃなければ、それこそ死にかねなかった。
「まぁいいわ。寝起きがいいのは、いいことだし。
それよりね、例の黒幕わかったわよ」
「ほんとに?」
いい加減な父さんと母さんの組み合わせで、よく分かったものだと感心する。
「――あんた、今あたしのこと『いい加減』とか思わなかった?」
「だって、そうじゃない」
父さんと母さんが周囲を引っかき回す名人なのは、嫌というほどよく知ってる。
戦場にいる時だって相当だし、これが実家にいる時となると、もうみんなして振り回されまくってしまって、ため息の連続だ。
「ったくもう、人がせっかく探ってきてあげたのにそんなこと言うなら、教えてあげないわよ」
「母さん……」
子供みたいな拗ねかたしなくたって。
いつものことだけど、さすがに呆れて黙ってしまう。
「あら、本気にしたの? 大丈夫、ちゃんと説明するわよ」
そういって母さん、手をひらひら振って笑った。
「昨日の話の続きなんだけどね、やっぱりコーニッシュ邸じゃなかったのよ、あの屋敷。
同じ軍は軍なんだけど、マルダーグ大佐のお宅だったのよね」
「マルダーグ大佐……?」
少し考える。
確か記憶じゃ、コーニッシュ大佐と並んでロデスティオ軍の実力者だったはずだ。
ただコーニッシュ大佐が穏健派と言われるのに対して、この大佐はタカ派じゃなかっただろうか?
「けど夕べ、その誰かとファミリーのボスが一緒にいるって、言ってなかった?」
「そぉよ」
考えようによってはとんでもない話を、母さんが楽しそうに肯定した。
「でもそうしたら、コーニッシュ大佐が犯罪組織と結託してるっていう噂は……?」
確か昨日、情報通のゼロールさんはそう言ってたはずだ。
それとも、まさかとは思うけど……。
「それこそ、濡れ衣だと思うわ」
あたしが考えたのと同じことを、母さんも言う。
「証拠があるの?」
「確たるものはないけどね。
でも、マルダーグ大佐のほうがファミリーとツルんでるのは間違いないわ。それにね、その大佐ときたら、出世に邪魔なリオネルを目の敵にしてるって言うし」
「そうなんだ……」
確かにそういうことだったら、「ライバルに濡れ衣を着せて」っていうのは常套手段だろう。
「ともかくその大佐とファミリーのボスとが、今回の黒幕じゃないかなって思うわけ。
でね、これから屋敷ごとどうかしちゃおうかなって」
「屋敷ごとって……」
それこそ器物損壊、不法侵入じゃないだろうか?




