Episode:103
「あの、別にいいんです……」
「そんなこと言うなって」
「こらっ!」
ボスが一喝した。
「困らせるんじゃないって言ってるだろうが。
だいいちお前たち、金なんてつまんないものばっかり渡すな。もうちょっと気の利いたものにしろ」
「へ、へぇ……」
この人にかかると、熊のような人まで借りてきた猫みたいだ。
「ちょっと待ってろ、今俺が手本を――ん? なんだ、今日に限ってロクなもんが入ってないな」
ベルデナードを配下に治めるというボスが、必死にポケットをひっくり返している様は、なんだか可笑しくてつい笑ってしまう。
「お、笑った笑った。うんうん、可愛いな」
ボスも嬉しそうに笑った。
「いい子だいい子だ。
にしても、なんで今日は何も入ってないんだ? ライターじゃダメだしなぁ……」
「――あ」
上着の内ポケットがちらりと見えて、思わず声を上げる。
「ん? あ、これか?」
ボスも気が付いて、それを出して見せてくれた。
「これに目をつけるとは、大したもんだな」
もの自体は、ただのナイフというか、短刀だ。
でもこれ……。
「ローム時代のものですよね?」
「ほう、よく知ってるじゃないか」
ボスの顔がふっと曇った。
「あの、すみません。あたし何か……」
「いや、お嬢ちゃんのせいじゃないよ。ただちょっと、思い出してね」
一呼吸おく。
「お嬢ちゃん、何歳だ?」
「――? 11歳です」
「そうか、やっぱりうちの娘と同じくらいか……」
店の中が静まり返る。
「あの……?」
なにが起こったのか分からなかった。
ただあたしのせいでこうなったのは確かだ。
「ご、ごめんなさい……」
「おわ、ほらお嬢ちゃん、泣かない泣かない」
そう言われても、涙は止まらない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ボス、女の子泣かしちゃいけませんぜ」
「うるさいっ! おまえはすっこんでろ」
茶々を入れた男の人を、ボスが蹴飛ばした。
「ったく、いらんこと言いやがって。
ほら、別にいいんだよ。死んだ娘を思い出しただけなんだ。あの子もこれが好きでね、よく欲しがってたもんだから」
「そんな……」
話を聞いて、よけい悲しくなってしまった。
あたしと同じくらいで死んでしまっただなんて、ボスはとても辛かったはずだ。なのに、そんなことを思い出させてしまうなんて。
「こりゃ困ったな。頼むから泣き止んでくれないか?」
「――ごめんなさい」
泣きながら謝る。