Episode:100
「どうして……ダメなの?」
ホテルって、泊まるところだと思ってたのに。けど誰も、説明はしてくれない。
そして代わりに、レニーサさんが声をかけてくれた。
「お嬢ちゃんたち、泊まる場所がないならここにしなさいね」
「でも……」
押しかけた上に泊ったりしたら、迷惑じゃないだろうか。
「ほんと、お母さんに似ないで遠慮深いのね。でも構わないわよ。店の奥の部屋、もともと泊まれるようにできてるから。
それにどうせディアスたちもここへ戻るんだろうから、その方が何かと都合いいでしょう?」
「そうですか? そしたら……」
なぜか隣で、イマドがほっとした顔になった。
「そしたら、また明日ね」
「寝坊するんじゃないよ」
「うん」
そう言って、シーモアやナティエスたちと別れる。
「さ、あなたたちはあっちへ行きなさいね。今度は多分、妙な連中が来るに違いないから」
「そんな変な人が来たりして、大丈夫なんですか?」
心配になって尋ねると、レニーサさんが大笑いした。
「あの……」
「あ、ごめんごめん。そう言えばあなたたち、ここの人間じゃないものね。
妙って言うのはね、クリアゾンの連中のことよ」
「えっ?」
そんな人たちがきたらもっと大変じゃないかと思ったけれど、レニーサさんが気にしている様子はなかった。
「どうも大事になりそうな気がしたもんだから、トップ連中に招集かけといたの。
夜中前にって言っといたから、そろそろ来るわ」
「けど、本当に大丈夫なんですか……?」
普通の人には手を出したりしないという話は、ここへ来てから聞いてる。けどクリアゾンの人たちが集まったら、お互いの間で暴力沙汰になってしまうかもしれない。
「ほんと、あなたってお母さんとずいぶん違うわね。
でも大丈夫。クリアゾンの連中が、ここでバカやることはないわ」
あたしの心配をよそに、レニーサさんが断言した。
「なんでです?」
イマドも不思議だったらしくて尋ねる。
このお姉さんが、ふふっと笑った。
「これでもあたし、いちおう先代のボスの孫なのよ。だから問題ないわ」
「あ、それで……」
ようやく納得する。
「ただ困るのはね、ああいう連中って案外、子供好きが多いのよ。
だからあなたみたいな子がいたりしたら、たちまち捕まって寝るどこじゃなくなっちゃうわ」
「――げ」
なにが嫌だったのか、イマドがおかしな声を出した。
「おい、早くひっこもうぜ」
「あ、うん……。あれ?」
「ちょっと遅かったみたいね」
店のドアが開いて、ガルシィさんやダグさんたちより数段凄そうな男の人たちが、入ってくる。
でも凄いのは気配だけで、顔はにこにこしていた。
その人たちが、レニーサさんに挨拶する。
「お嬢さん、お呼びだてどおり来ましたぜ」
誰もがみんな下手に出る。
――レニーサさん、ほんとに凄いんだ。
人というのはまさに、見かけだけでは分からない。