Episode:10
「とりあえずケンディクまで行って、そっから船乗り換えてワサールか。向こうは何時の船だ?」
「えっと……?」
あたしが考え込むと、イマドが呆れたような顔をした。
「お前、自分で切符取ったんじゃねぇのか?」
「そうだけど……ケンディクのロシュマーのみんなに、頼んだだけだから……」
ロシュマーというのは、シュマーの一族のうち、戦闘能力が一定水準に届かないグループだ。ただ人数は今は、こっちのほうが多い。
能力の幅が広いから一概には言えないけど、だいたいは後方支援を担当してる。
イマドがため息をついた。
「お前ときたら、連絡1本入れるだけで最新兵器まで、揃えられそうだな」
「うん」
「――マジ?」
イマドは信じられないみたいだけど、あたしは嘘は言ってない。やろうとは思わないけれど、あたしが連絡すればきっとあらゆる兵器が揃うはずだ。
けどこのくらいの機動性?がないと、シュマーの傭兵たちの要求には答えきれない。
なにしろシュマーは戦闘集団だから、国際情勢や各地の戦局に敏感に反応する。そのうえ個人主義が行き届いていて、特別な命令がない限りは各人が勝手に突発的な動きをするのが普通だった。
実際ひたすら平穏なこのユリアス大陸はともかく、アヴァン大陸のそれなりに大きい町には必ず、ロシュマーのメンバーが数人から数十人駐在している。
「――ロシュマーの連中に同情するぜ」
あたしの説明を聞いて、イマドがそんなことを言った。
「まぁいいや。ともかくロデスティオまでは、押さえてあるんだよな?」
「うん」
話しながら連絡船に乗りこむ。
普段は見とれるほどの綺麗な景色も、今日は闇に沈んで判然としない。
――スラムって、こんな感じなんだろうか?
ぼんやりとそう思った。
ベルデナードのスラム。シーモアとナティエスの育った場所。
そしてあたしには……未知の場所だ。
学院へ来る以前はずいぶん戦場を渡り歩いたし、ベルデナードにも何度も行ったけれど、スラムにだけは足を踏み入れたことはない。
どんな場所なのか見当もつかなかった。
でも一刻も早くたどり着いて、シーモアたちと無事に再会したい。
そんなことを考えているうちに、連絡船が止まった。
「行くぞ」
「うん」
荷物を持って、別の埠頭へと急ぐ。
途中の約束の場所には、ちゃんと人影があった。
「グレイス様、これがロデスティオまでの切符ですので」
駐在しているロシュマーの家族が出迎えてくれる。
「ありがとう。急に頼んだりして、ごめんなさい」
そういうと彼が笑った。
「グレイス様はお優しいですね。
我々相手に気を遣ってくださらなくてもいいのですよ」
「でも……」
いつもみんなよくしてくれるけれど、別にあたし自身が偉いわけじゃない。