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[chapter:第0章「計画」]





「何人残っている」

60代の奢侈な服装をした男性が問う。

《5人です》

ホログラムに映る男は答えた。

「どこだ」

《資料には114年前にアステロイドベルトにあるL-84、コロシヴ基地に移送と。添付します》

男の顔の横に資料が映し出された。

「守りは」

《手薄ですが、現状ではまだなんとも》

映し出された顔は迷った表情で答えた。

「できるだけ無傷で回収しろ、実行は明日だ」

《了解しました、では》

そういって映し出されたホログラムは消えた。








[chapter:第1章「覚醒」]


 鈍い爆発音がした。

寒い、極寒だ。体の内側から凍っているように寒く感じる。

そう感じたイーサン・テイラーの頭には曇りができているようで、目の前に映るものがはっきりとしない。

自分の体が揺すられている気がした。

なにやら音は聞こえるが、それが何なのかも分からない。

イーサンの左頬に激痛が走った。今度は気のせいではなかった。

目の前にいる丸刈りの男が、怒号を上げるようにイーサンに語りかけていた。

「おい!しっかりしろ!ゼット、こいつは生きてるか」

丸刈りの男の肩に浮く、球体のようなものが光をチカチカさせたあと言った。

『問題ありません、血圧は低いようですがこの男性は生きているようです』

「よし、生きてるな。持ち上げるぞ、3、2、1!」

丸刈りの男に担ぎ上げられた。

「くそっ、冷てえな。おいみんな、民間人を一人確保した。他のはダメだった。まるで剥製だ」

「そいつの確保は任務にない、お守りしながらの作戦は無理だ。捨てていけ」

別の大男が言い放った。

「ダメだ、民間人を見つけた以上見捨てることはできん」

また別の男が大男をなだめるように言った。

「わかったよ。ジェイク、とりあえずその大きい赤ん坊はお目覚めなのか?」

「まだ分からんが意識はある」

あの大男に一言言ってやりたいが言葉が出てこない。

朦朧としている上にもどかしい。イーサンは最悪の気分だった。

「まずこいつを安全なところまで運ぶぞ、あのデカブツはまだこのフロアにいるだろうからな」

「一階中央を右に抜ければ医務室があるわ。そこに移動しましょう」

「了解、移動する。ケツは頼んだぞ」

 荷物のように運ばれながら、イーサンは朦朧とした意識で目の前に広がった光景を見た。

死体がある。

それも自分たちのような人間ではなく、緑色の肌をした文字通り〈デカブツが〉転がっていた。

丸刈りの男はそのデカブツを踏まないように足早に進んでいた。

躓いてこのデカブツと添い寝させられることだけはさせないでくれ、と丸刈りの男に祈ることしかできず、今はただ身を委ねる事しかできなかった。

突如朦朧とした意識は、大きな発砲音と共に吹き飛んだ。

「エネミーコンタクト!2時の方向、階段だ!」

続け様に起こる発砲音に反射的に男は体を丸めた。

それに気づいただろう丸刈りの男はイーサンに言った。

「よう、気づいたか。名前は後で言うし後で聞く。とにかく今は暴れるな、じっとしていろ。今後ろの奴らがそこら辺の死体にお友達を作ってやってるところだ」

冗談を言えるほど丸刈りの男は冷静だった、こういう状況に慣れているようだった。

 後ろの方では大男がライフルを単発で発射し、的確ににデカブツの額を打ち抜いていた。

また別の男はデカブツの膝を打ち抜き、膝が折れたところを額に一撃を食らわせていた。

「エネミーダウン、クリア。こっちは大丈夫だ」

掛け声と共に銃声が止み、廊下を進みだし、突き当りの階段を上がる。

 意識ははっきりしている。声も出せる。

「ここはどこだ」

イーサンは自分の発した声だが、その声を初めて聞くような感覚だった。

「言葉が通じてよかった。ここはコロシヴ基地だ。お前は冷凍されていた。今はこれだけだ、舌噛むぞ」

丸刈りの男がそう言い、前を走っていた女が続けて言った。

「幸運ね、あなた一人だけよ無事だったのは」

周囲の状況を見るに、イーサンにとって幸運という言葉は不釣合いだった。

「ついた、ここよ」

女が部屋のドアを開け、床に散らばったガラクタを蹴飛ばした。

医務室に担ぎ込まれ、丸刈りの男はイーサンを椅子に降ろした。

「俺はジェイク、こいつはアルバール、で、ケイト、このでかい男はオオツカ、でコイツは、いや今は俺達ことはいい。まずはお前の名前だ。名前は、なぜお前は冷凍されていた、お前はここの職員か」

「名前は…イーサン、イーサン・テイラーだ…俺は…」

名を聞かれ、それに答えたイーサンは、その答えに自信がなかった。

自然と発した自分の名前に聞き覚えがない。

自分を自分だと証明する名前というアイテムを、自信を持って言えないという不思議な感覚に陥っていた。

呼吸が荒れるのを感じる。鼓動が早くなり、汗が吹き出る。

「すまない、質問が多すぎたな。落ち着け、一時的なパニック障害だ」

ジェイクと名乗る男に肩を力強く握られる。

するとアルバールという男がジェイクに変わり、肩を強くつかみ、緊迫した目でイーサンに言った。

「よし、いいかイーサン。よく聞け、我等は別に行うことがある。故に全員ここにずっといることはできない。民間人であろうお前にこう言う事はよくないが、お前が選べる選択肢は今はない。ここでじっとしているんだ」

アルバールの言葉はイーサンにとって意味の分からないことばかりだったが、今はうなずくしかなかった。

「フェイ、彼をここでを守れ。あと銃を渡してやれ、ハンドガンでいい」

「了解。ミスターテイラー、銃です、セーフティは解除してあります」

フェイから銃を受け取った。イーサンは不思議なことに銃というものに自分の名前ほどの違和感を感じなかった。

「では我等は任務を続行する。10分後ここで合流だ。イーサン、彼はフェイ、優秀な隊員だ。フェイ、彼を頼んだぞ。」

アルバール含む5人は足早に医務室を後にした。






 アルバール達が医務室を出た後、10分で戻るという言葉だけが現状を脱する唯一の希望だった。

フェイは乱雑に散らばったガラクタの中から椅子を取り上げ、腰を下ろしてイーサンにたずねた。

「ミスターテイラー、あなたはここの職員ですか」

「わからない、何も思い出せないんだ」

「ではなぜコールドスリープされたのかも覚えていないと」

「ああそうだ。わからない、自分の名前すら自信がないくらいだ。笑えるよ」

イーサンにとって今の現状全てが混乱の一言に尽きており、ついさっき産まれたばかりのようなものだった。

今はいつか、ここはどこか、自分は誰なのか。

分かることといえばこのフェイという男と銃を片手に、この薬品くさい部屋に閉じこもっているということだけだった。

「あんたたちは、一体なんなんだ」

テイラーが質問を返した。

「私達はアルカディアの兵士で、先ほどいた人物全員がスカー〈SCAR〉という部隊に所属しています」

「俺を探しに来たのか」

「いいえ、私達がここに来た理由は任務上話せませんが、ゴライアスとの戦闘中、あなたが眠っていたカプセルのメインターミナルに銃弾が当り、偶然あなたを救出できたんです。他の方は残念ながら」

フェイが悲観な顔で言葉を濁した。

「ゴライアス?あの緑色のデカブツのことか」

「そうです。ミスターテイラー、まだあなたは動揺している。少し休まれたほうがいいでしょう。」

「あのデカブツがいつここに襲ってくるかも分からないんだぞ、休む余裕なんかない」

怪訝な顔でフェイに返した。

医務室の外では時折銃声が聞こえ、その銃声がいつか自分に向けられるのではないかという恐怖におびえている。

こうした状況で落ち着かせるほどイーサンは冷静ではなかった。






 医務室を出たアルバール達5人は本来の目的であった資料回収のため、地下の保管室へ向かっていた。

イーサンが冷凍されていたポッドがある部屋を過ぎ、保管室への廊下を警戒しながら進んでいる。

「だいぶ片付けた、ソナーに生体反応もない」

ジェイクが銃の弾倉を交換しながら言った。

「今回は何体のデカブツをやったんだウッド」

オオツカが小柄な青年の背中を叩き、からかうように言った。

「俺は電子機器専門なの、ゴライアスはあんた達専門」

からかわれた青年はふてくされた表情で答えた。

ウッドの肩に球体が現れ、光をチカチカさせながら隊員たちに話しかけた。

『安全みたいだし音楽でもかけるか、クラシックとかどうだ』

「やめろスカッド、まだ安全って決まったわけじゃない」

ウッドがうるさそうに球体を諭した。

「ノリ悪いな、チクショウめ」

スカッドと名づけられた球体はそう言って、はウッドの周囲をくるりと回り姿を消した。

隊員達は周囲の警戒を解き、保管室へ進んでいると、アルバールの肩から球体が現れて荒い口調で言った。

『止まれお前ら。通信だ』

「どこからだD.D。フェイからか」

アルバールが静止した。

『違う。レクシオンだ。あの優男からだろう』

するとD.Dはホログラムを映し出した。

そのホログラムには柔和な男が映し出されていた。

《こちらレクシオン。作戦に問題はないかい》

映し出された顔に笑顔が浮かんでいる。現場にいる隊員を取り巻く環境には似つかわしくない顔だった。

「ああ問題ない、ただ一人民間人を救出した。いまはフェイにそいつを任せている」

《そうかい、その報告は後で聞くよ。アル、こっちからも報告がある》

ホログラムに映し出された顔が、やわらかい笑顔から多少強張らせた顔に変わった。

《みんな急いで、この宙域にゴライアスの艦が一隻接近してる。僕達に気付いたかもしれないよ》

「了解した、すぐ戻る」

ホログラムが消え、それと同時にD.Dも姿を消した。

「艦長を見るとなんか調子狂うな」

ウッドが頭を掻きながらボヤいた。

「みな、聞いたろう。急ぐぞ」

「了解」

隊員達がその言葉に答え、足早に保管庫に向かった。

 隊員達が唯一電気が通っているドアの前にたどり着いた。

そのドアには無数の弾痕や傷がついており、そのドアを力づくでこじ開けようとした痕跡であることが容易に推測できるほどだった。

「ロックされている。ウッド、頼む」

アルバールがウッドに向かって指示を出した。

「任せて隊長。スカッド、スキャンだ」

『オーケー』

ウッドの肩からスカッドが現れ、扉をスキャンしだした。

『コイツはクラシックなプログラムだな。お前のばあちゃんでも解除できるぜ。コードは046だ』

「わかった、サンキュースカッド」

ウッドはバックパックから小さなデバイスを取り出し扉の方に向けて、スカッドに言われたコードを打ち込んだ。

すると扉は錆びた音を出しながら気だるそうに開いた。

部屋は他の部屋ほど散らかってはおらず、何をどこからとればよいかという工夫が行き届いた空間になっていた。

部屋の奥の壁には金庫があり、作戦の目的である〈資料〉が入っていた。

アルバール達隊員は事前に知らされていた情報を元に金庫を開け、〈資料〉を確保した。

「こちらアルバール、パッケージ確保。無傷だ。すぐにレクシオンに戻る」

アルバールがD.Dを通し報告した。

隊員達は保管室を後にし、イーサンとフェイがいる医務室へと急いだ。






 アルバールが〈資料〉を確保し、保管室を後にした頃、フェイもアルバールの通信を聞いていた。

「ミスターテイラー、隊長達の任務が無事終わったようです。もうすぐ帰れますよ」

フェイが安堵した顔でイーサンに向かって語りかけた。

フェイの語りかけとは裏腹、その言葉はイーサンに更なる混乱を招いていた。

「帰るってどこに帰れってんだ。俺はどうなる」

「隊長達と合流した後、私達は母艦に帰投します。その後火星に行き、ミスターテイラー。あなたはその後軍が保護してくれるでしょう。」

なるほど、安心だ。

イーサンはとてもそうは思えなかった。

アルバール達が医務室を出て行った後、自分に何が起きたのかを必死に思い返そうとしても、その努力に満足な結果はついてこなかった。

イーサン自身の混乱を解決してくれるものが何一つない現状、混乱に更なる混乱を上塗りするようなものだった。

 イーサンが自問に自答できずに頭を抱えていると、フェイに肩を叩かれた。

「もうすぐそこに隊長たちが来ています。ここから出ましょう。どうやら急ぎのようです」

フェイに言われるまま医務室を出ると遠くのほうから隊員達の銃のライトがちらちらと見えた。

とりあえずはここから抜け出せる。イーサンが唯一安堵した瞬間だった。

しかしそれはアルバールの一言で一抹の灯火に変わった。

「フェイ、イーサン。ゴライアスの艦がこの宙域に接近している。ここも危ない。すぐに出るぞ」

「了解。ミスターテイラー、走れますか」

「ああ、なんとか。まだ安全じゃないんだな、その感じだと」

イーサンは落胆した顔でそういって銃をフェイに返そうとしたが、艦につくまで持っていてくれと戻された。

 隊員達はイーサンを囲むように上階にあるゲートへと導いた。

ゲートに近づくとケイトが隊員達を止めた。

「彼にはスーツが必要よ。たしかミッドナイトに予備があったから私が取って来る。みんなは彼を見ていて」

そういうと一人ゲートを開き、出て行った。

 しばらくケイトの帰りを待っているとオオツカがイーサンの方に目を移した。

「どうだ、なにか思い出したことはあるか」 

低い声でイーサンに問いただした。

「ない、なにもだ」

「そうか、走り方まで忘れなくてよかったな」

大口を開けて笑って返された。

「よせ、彼は冗談で笑える状況じゃないんだ」

アルバールは言ってオオツカを諭した。

「いいじゃねえか、こういう時は笑ってた方が楽なもんだ。な、若いの」

オオツカは大きな手でイーサンの肩を二度叩き、イーサンはその勢いで少し揺れた。

揺らされたイーサンは少し笑って返した。

「それくらいにしないと俺も銃を持ってるぞ」

オオツカは少し驚いた顔をしたあと、また大口を開けて笑った。

オオツカの冗談で少し気が楽になったのは紛れもない事実で、その事実は周囲の張り詰めた雰囲気を和ますには十分だった。

彼の少し大きな笑い声は、ゲートが開く音にかき消され、隊員達の視線はイーサン達からゲートへと移った。






 ゲートからは隊員達が着用している物より少し簡素なスーツを持ったケイトがこちらへ歩いていた。

「お待たせ、入るといいけど」

ケイトから渡されたスーツはイーサンを完全に覆い、ケイトが少し操作した後ヘルメットの中に呼吸用の酸素が入ってくるのを感じた。

「さて、レクシオンに戻るぞ。各自ミッドナイトへ向かえ。イーサン、お前は俺とだ。ついて来い」

アルバールが号令し、隊員達はゲートの向こうへと進んでいった。

イーサンも続き、ゲートの外に出た。

ゲートの外に出るとまわりには暗闇が広がっていた。

遠くで大小さまざまな光が瞬いている。

何より広大な空間が広がっており、無数の岩石が浮いている。

イーサンは圧巻され、感動と呼ぶべき感情の波に打ちひしがれていた。

「その様子だと宇宙は初めてかイーサン」

アルバールが第二ゲートを閉じながら笑っていった。

 第二ゲートが閉じるとイーサンは内臓が浮くような感覚。否、内臓のみならず、体全体が浮いていた。

「おい、おい浮いてるぞ!」

イーサンは自分が上を向いているか下を向いているかも分からず、ただただ無重力という未知の現象にもがいていた。

耳元でアルバールの声が電子の波に乗って聞こえる。

「落ち着けイーサン。俺の手を掴め」

「無理を言うな、そもそもどこにいるんだ、姿勢が保てないんだ、クソッ」

イーサンが無重力の海で溺れていると、腕を担がれる感覚がした。

「やれやれ、セクターまで運んでやるからじっとしていろ」

アルバールがイーサンの腕を担ぎ、ミッドナイトと呼ばれる個人戦闘船〈セクター〉へと運んでいった。

 目の当たりにしたミッドナイトは黒をベースとし、所々に青いラインが入っていた。

翼の部分には四本の爪跡のようなマークがついている。

「これがミッドナイトだ。我等はこれよりこれに乗ってレクシオンに戻る。レクシオンというのは…」

「ああ、ああ、あんたらの母艦だろ」

アルバールが説明に入ろうとした瞬間、イーサンがさえぎった。

「ほう知っているのか、フェイから聞いたのか」

「そうだよ、母艦に帰るってな。そのレクシオンってのがあんたらの母艦なんだろ。このあと火星ってところに行くことも聞いた」

「ならば話が早い。艦に戻ったら艦長に報告せねばならんことがある。イーサン、お前にも同席してほしい。では出発するぞ」

アルバールはミッドナイト内のパネルを操作しながら会話を止めた。






 レクシオン内では、メカニック達がセクターを帰艦させるための準備に取り掛かっていた。

「あと3分でセクターが到着する。ハッチ1ー1、1ー3、2ー3開け」

「アームはどうか」

「正常です」

「艦長から連絡が入った。救助された者がいる。念のため医師を待機させておけ」

様々な声が飛び交い、あわただしい光景が映る格納エリアとは別に、司令室では別のあわただしさを見せていた。

「艦長、ゴライアスとの接触まで時間がありません。この艦が敵の射程圏内に入るまでおよそ10分です」

レクシオンのオペレーターがジルビオに告げる。

「10分か、ありがとうパキタ。迎撃する時間はないみたいだね。デコイを展開する準備にとりかかってくれ。それで、デコイにジャマーを着けたい。頼めるかい」

ジルビオはそういってオペレーターに笑顔で返した。

「了解しました、そのように指示します」

オペレーターが艦内に連絡を入れると、宙域の警戒に戻った。






 基地から離れ、少しの間飛行した後、ほどなくしてレクシオンに到着した。

レクシオンの後部にあるハッチが開き、レーザーによる誘導が行われ、前方に並んでいた隊員達のミッドナイトが次々と格納されていった。

イーサンが乗っていたミッドナイトがレーザー誘導により自動操作で格納庫に進んでいき、ある程度進むとアームがミッドナイトを捕らえ、隊員たちとは別の格納庫に収納された。

「さあ着いたぞイーサン、ここがレクシオンだ」

アルバールとイーサンがミッドナイトから降りると医師達が駆け寄ってきた。

「救助された民間人はあなたですね、まず外傷や放射能汚染などがないか調べさせてほしい。どなたか同行していただけませんか」

医師が帰還した隊員に同行を求めた。

「ウッド、彼が眠っていたポッドのデータは取ってあるな」

アルバールがミッドナイトから降りたばかりのウッドを見て言った。

「はいもちろん取ってありますよ、スカッドにスキャンさせてありますから」

「なら彼に同行してやってくれ、ついでにデータの照合も頼む、彼の正体を知るヒントがあるかもしれん。俺はジルビオに作戦の報告をしに行く。デブリーフィングは明日だ、今日はゆっくり休め。解散」

アルバールはそういって隊員達と別れ、報告に向かった。






「では医務室はこちらです。向かいましょう」

医師に連れられイーサンとウッドは医務室へと向かい、オオツカとジェイクはバーへ繰り出し、フェイとケイトは武器庫へと向かった。

「なあ、記憶がないってのはどんな気分なんだ」

ウッドがイーサンにたずねた。

「どんな気分かはうまく言えないが、いい気分じゃないことは確かだ」

「へえ、二日酔いみたいなもんか」

「かもな」

「そりゃわかりやすい、俺も一週間に2回は記憶喪失になってる。仲間だな」

会話の中で、何気ないウッドの一言にイーサンは驚愕した。

確かにイーサンは二日酔いという言葉を知っていた。さらにその二日酔いがどのような状態を表すかも知っていた。

自分は記憶を失ったのではなかったのか。なぜ言葉が分かるのか、理解できるのか。

それを理解できずにいた。

「こちらに入って服を着替えてください、服はそちらのボックスに入ってます。ウッド、彼のポッドのデータをサーバーに。何か彼について分かるかもしれない」

医師がイーサンに指示し、奥に消えていった。

ウッドはスカッドを医務室のポータルにリンクさせ、冷凍ポッドに残っていたデータを送り込んだ。

イーサンは白い衣服に着替え、処置を受けていた。

「健康に問題はありませんね、ご自身でなにか感じる違和感などはありますか」

「大丈夫だ、特に問題はない。ありがとう」

「なにか後ほど問題がありましたらいつでもおっしゃってください。記憶喪失はおそらく一時的な障害かもしれません」

「ということは記憶が戻る場合があるってことなのか」

「おそらくですがね」

医師との会話を終えたあと、艦内でこれより火星に向かうとの連絡が流れた。

『おいウッド、艦長さんと隊長さんから呼び出しだぜ司令室に来いってよ、そいつも一緒にな』

イーサンの横で診察を聞いていたウッドへスカッドを通して連絡が入ったようだった。

「イーサン聞いたろ、司令室で話があるってよ。艦長と隊長がお呼びだ、行こうか」

「でしたら服はそのままで、ポッドから分析したデータは後ほどお伝えします。お大事に」

イーサンとウッドは医師に礼を言って司令室へと向かった






 アルバールはコロシヴ基地での目的であった資料と、作戦の報告をジルビオにしていた。

「作戦は順調だった、何も不備はない。これが資料だ」

「どうもありがとう、ご苦労様。なんでも極秘資料らしいよ、コレ。なんでコロシヴなんかに保管してたんだろうね」

ジルビオはアルバールに渡された資料を手に取り、不思議そうに眺めながら言った。

さあなとため息を吐きつつ、アルバールは続けた。

「ただ通信で言ったとおり人を一人救助した。今はウッドと共に医務室にいる。どうやら自分の名前以外思い出せないらしい。彼の処分はどうする」

イーサンのことを話すアルバールにジルビオは答えた。

「うん。そうだね。彼については直接話を聴かないとね。本人の意思もあるだろうし、どうするかを決めるのはそれからでも遅くないよ。それにそろそろゴライアスの船が僕たちを見つける頃だ、さっさと逃げよう」

ジルビオはオペレーターに火星に向かうよう指示し、アルバールはD.Dを通してウッドを召集した。

 しばらくしてイーサンとウッドが司令室へと現れた。

不安そうなイーサンの顔を見てジルビオは笑顔で歓迎した。

「ようこそレクシオンへ。無事で何よりだよ。ええと、僕はジルビオ。この船の艦長をやらせてもらってる。この子はコンパニオンビットのケラハー。そしてアルバール、彼については知ってるね、SCARチームのリーダーだ。作戦部隊の責任者だね」

『ようこそイーサン、レクシオンへ』

ジルビオの肩に浮いた球体がご機嫌そうに挨拶をした。

「イーサン、お前はこのあとどうする」

アルバールは腕を組ながら目だけをイーサンに向けて言った。

「どこに行けばいいのか、どうすればいいのかわからない。逆に聞くが俺は何をすればいい」

家も身寄りもわからないイーサンにとっては、どうするという問いに対する精一杯の回答だった。

「じゃあ軍に入るってのはどうかな。身元保証人は僕が引き受けるよ」

唐突なジルビオの提案にアルバールとウッドが驚きを隠せないでいた。

「本気か、なにもいきなり軍に入れるのは早計すぎやしないか」

ウッドも続いてジルビオを止めた。

「マジですか艦長、民間人ですよ」

「今はどこもいても命の保証はない。軍に入ればとりあえず仕事はあるし最低限守ってもらえる。しかも僕が身元保証人だしね。悪い話じゃないと思うよ。記憶が戻ればそれまででかまわない。どうだいイーサン」

火星に着いても宛がない以上、ジルビオの提案がイーサンにとっての生きる目的だった。

生きる理由がないということは、命を失うよりも恐怖であったからだった。

イーサンは二つ返事で軍に入隊することを決めた。

その答えにアルバールは声高らかに笑った。

「面白い奴だ、記憶をなくしてその上あのゴライアスに襲われたというのに軍に入ろうとは」

「俺には今のところそれくらいしかすることがないんだ。笑うなよ」

「決まりだね、申請は火星に着いてからだ。詳しくはそこで話すよ。それまでゆっくり休んでて、今まで大変だったね」

ジルビオの笑顔と労いの言葉にイーサンの不安が取り除かれるような気がした。






 レクシオンが火星に向かい、アステロイドベルト帯を抜けた頃、ウッドが持ち帰ったポットのデータを分析が終了した。

「これはこれは、彼には敬意をはらわなければならない」

分析を担当していた技術員が目を丸くして報告書をまとめていた。

「どうかしたのか」

別の技術員が尋ねた。

「彼はいくつだと思う、当てたらお前に一杯奢ってやる」

「歳か、見た感じだと三十手前ぐらいじゃないか」

「そうだよな、俺もそう思う。見た目はな」

「外したか」

「いや、間違っちゃいないが。まず当てられないだろうな」

煮え切らない態度に、技術員は問い質した。

「おい答えを教えてくれよ、いくつなんだ」

「記録だと彼は28だが冷凍されたのは114年前だ。つまり130って所だな。俺のじいちゃんより年上だ、生きた化石だよ」

「114年前って…」

技術員は言葉が見つからなかった。

「まるでSFだな、こんな報告書書く時が来るなんて思いもしなかったよ」

「所属は。軍人か、研究員か」

「いや、未記入だ。無職とも書いてない」

「やけに冷静だなお前は」

「驚きすぎると逆に黙るタチなんだよ俺は。で、後でぶり返す。報告書が出来たらお前が艦長に持っていってくれ。とてもじゃないが俺は平常心じゃいられない」

技術員は異例の事実を、報告書にまとめるという不思議な作業に若干の嬉しさを感じていた。







「よく飲むなお前」

バーに座り、10分も経たないうちに3杯目のバーボンを流し込むイーサンに、オオツカは少し驚いた様子だった。

「うまい酒だ」

グラスに浮いた氷を眺めながら言った。

「わかるか、そうか。バーボンの味がわかるやつに悪い奴はいない」

オオツカは大きい声で笑いながらイーサンの肩を掴んだ。

「ここのバーの酒はオオツカが口を出して仕入れてる。お陰でこうしてうまい酒が飲める。感謝しますよ<少佐殿>」

冗談を飛ばしたジェイクがオオツカのグラスに酒をついだ。

「少佐はやめろ、ここで階級は関係ねぇ。それに俺は銃と酒瓶を抱きながら産まれてきたんだ、酒と銃に関しちゃ誰にも負ける気はしねえ」

「酔っぱらいめ。そういえばさっきアルから聞いたぞイーサン。お前軍に入るってな」

「イーサン、お前やっぱりなかなか度胸あるじゃねえか全く」

オオツカはイーサンの肩を強く叩いた。

「他にすることが無いからな」

コースターの模様を指でなぞりながら、イーサンはため息混じりで答えた。

オオツカがイーサンのグラスにバーボンを注ぎ言った。

「どうだ、軍で上手くやってけそうか」

「わからん。軍に入って何をすればいいのかも、どういう仕事があるのかも。何をすればいい」

「軍に入るって言っても俺達みたいに銃を持って戦場を転がり回るだけが仕事じゃない」

オオツカはグラスに浮かぶ氷をかみ砕きながら続けた。

「内勤の奴等は毎日変わらないデスクの上が戦場だし、広報の奴らは現場を知らない平和ボケしたメディアが敵だ。人それぞれにそれぞれの戦場や敵がいる。そこを見つけることがお前さんの最初の仕事だ」

流石は<少佐>といった所だった。軍というものを長く見てきた者でしか語れない言葉である。

「俺の敵と戦場か」

思い詰めたイーサンを見てジェイクが話題を変えた。

「そうだイーサン。お前、銃の腕はどうなんだ」

「さあな、撃ったこともない。でもフェイから渡された銃を握った時不思議な感覚だった。安心感に似てる感覚だ」

イーサンは右手を眺めながら神妙な面持ちで答えた。

オオツカが何かを思い出したようで、話を切り出した。

「初めて銃を握ってビビらないんだったらもしかして元軍人なのかもな。体が覚えてるってヤツだ。どうだ、撃ちに行かないか。艦長から見てやれって言われてるんだ」

「そんなこと言われたのか、なら行こう。確かに軍にはいる前に少しは慣らさないとな」

イーサンとオオツカが席を立った。

「二人ともちょっと待て、こいつを飲んだら俺も行く」

ジェイクがグラスに残る酒をひと飲みすると、席を立ちイーサンとオオツカと共に射撃場へ向かった。






 武器庫ではケイトとフェイが武器の点検を手伝っていた。

武器庫には使用口径ごとに並べられており、一つ一つスタッフ達が念入りに清掃、点検をしていた。

「弾薬の消費量が最近多くなってきたわ、補給量を上げてもらわないといざってときに困りそうね」

ケイトが残存弾薬のデータを見ていた。

自分の銃のメンテナンスを終えたフェイが顔を上げた。

「確かに最近になって戦闘の規模も数も大きくなっていますし、現状では心持たないですね」

「9mmは今のままで十分ね。問題は5.56mmと7.62mmよ、宙域作戦だとそうそう補給できないものね」

 SCARが行う任務や作戦は、単独での戦闘であり

、その多くが補給なしの継続戦闘が多い。

その為にアサルトライフルで使用する弾薬の消費量が多くなってしまうのは必然的であった。

SF映画のようにレーザー銃なんて物が開発されないか。弾薬を消費する者にとって、誰しもが考えることである。

「私これからSP-9にしようかしら、こっちの方がマガジンも携帯しやすいし。ストックは少し固いけど」

SP-9のストックを調整しつつケイトは呟いた。

 SP-15の派生として開発されたSP-9は、本来5.7mm弾薬を使用する仕様を9mmで代用出来るようにしたブルパップ方式サブマシンガンである。

フェイもSP-9を手に取り虚空に構えて見せた。

「確かに良い銃です、最近PMCでも使われていると聞きました。SP-15では貫通力が高すぎて使い所に困るのでしょう」

全国のテロ対策部隊や民間軍人会社、つまりPMC等が好んで使うSP-9は、暴徒鎮圧向けである5.7mmを使用するSP-15よりも、ストッピングパワーが高い仕様となっているが、反動が少々大きくなっている。

「うん、うんオッケー。ちょっと試し撃ちにいってくるわ」

ケイトが武器庫を出ようとすると同時にイーサンら3人が武器庫へ入ってきた。

「あらいらっしゃい、アルバールから聞いたわよ、軍に入るって」

「あぁ、そうだ。艦長から提案を受けてね」

「ジルビオからなんて珍しいわね、救出した民間人を軍に入れさせるなんて」

イーサンの噂はすでにアルバールによってSCARチーム全体に行き渡っているようだった。

「今からこいつの射撃訓練だ。おいフェイ、イーサンにNW4を一丁渡してやってくれ」

オオツカが奥にいるフェイに声をかけると、フェイは返事をして一丁の銃を持ってきた。

「よし、ぶっぱなしに行くぞ」

オオツカはMW4、マガジンと5.56mmをいくつか持つとそう言ってイーサンの背中を押して射撃場へと向かった。






 艦長室ではジルビオが作戦完了の報告書をまとめていた。

「ねえケラハー、パキタに通信入れてくれるかな」

『わかりました、パキタに繋ぎます』

ジルビオの肩に浮いた球体ケラハーから、ホログラムが浮かび上がり、オペレーターのパキタの顔が映し出された。

「やあパキタ、ご苦労様。航海は順調かい?」

映し出されたパキタへ通信を入れた。

《はい。コロシヴ基地に迫っていたゴライアスの艦はデコイと睨み合いを続けています。ジャマーのお陰でデコイと気付かないのでしょう》

「良かった、引っ掛かってくれてるみたいだね。火星まで後どれくらいかかるかな」

《最大船速で約9日です》

「わかった、ありがとう」

ジルビオがパキタに礼を言うと、ホログラムが消え、通信を終了させた。

『ジルビオ、イーサンの分析を終えたようです。報告書が送られてきました。転送しますか?』

「ああ、頼むよ」

ケラハーがジルビオのデスクトップにイーサンの報告書を転送した。

転送された報告書を見るなりジルビオは軽く椅子にもたれかかり呟いた。

「未来へようこそ、イーサン・テイラー」






 射撃場へ向かう廊下。

「俺がいたところであんたらが持ってた銃と一緒だな」

イーサンが銃を見てオオツカに尋ねた

「そうだ、こいつは軍で正式採用されてる5.56mmアサルトライフルだ。軍に入ったら最初必ず支給される。だからこれからはこいつがお前の彼女だ。よく扱いを覚えておけよ」

説明しているオオツカの後ろでケイトが割って入った。

「そのNW4はね、大戦後に開発された従来のNM4T1を改良して―」

「待てケイト」

ジェイクがケイトの説明を制止した。

「なによ、銃の説明なら私が―」

「ダメだ」

「なによジェイク、銃のことならこの船の誰より詳しいわ」

「お前の説明は長いんだよ、聞いてるこっちもまいっちまう」

ぼやくケイトにジェイクが言葉を刺した。

「今の所は細かい説明はいい、マガジンの装弾数は30。要は敵に照準をあわせて引き金を引く。どの銃もこれだけは同じだ。ついたぞ、ここだ」

オオツカが射撃場のゲートを開くと奥行が100mはあろうか、実に広い空間が広がっていた。

射撃場はレクシオンの一階あり、一階のほぼすべてが射撃場と武器庫である。

オオツカが銃に弾倉をはめ、構えて見せた。

「銃の構え方はこうだ。イーサン、利き腕はどっちだ」

「右だ」

「よし右か、ならいい。あそこに的があるだろう、あれを狙え。シシ、サポートになってやれ」

『了解。サイトシステム、アクティブ』

オオツカの肩から球体が出現し、光学照準機器に変化した。

「なあ、その玉はなんなんだ?しゃべったり映像映したり、挙げ句銃にくっついたり」

怪奇な目でイーサンは渡された銃の照準機を見た。

「こいつか、こいつはコンパニオンビットだ。軍に入ったら必ずこいつが支給される。頼れる相棒になるぞ。まあ説明は後だ。撃ってみろ」

渡された銃を握るイーサンは、オオツカのように構えて見せた。

コロシヴ基地でフェイの銃を手にした時同様、初めて握る感覚ではなかった。

銃を構える型もすんなり形になっていた。

 前方には20m付近に3体の的、40m先の高台に2体、80m先の遮蔽物に頭部だけを除かせた的が4体、合計9体が並んでいた。

「よし、撃て」

オオツカの合図に、イーサンはまず20m先の3体の的を狙い引き金を引いた。

 4発づつ発射された弾丸は一体目の頭部だけを撃ち抜いた。残りの2体は胸、つまり心臓部に穴を開けた。

次に40m先の高台の的には3発ずつ撃ち込み、見事頭部、胸部に命中させ、40mの標的を一掃した。

残る80m先の4体。

80m先の標的は頭部のみが露出しており、狙える部位は針の穴程の物だった。

そこでイーサンは射撃台に反動制御を依託し、セレクターをシングルに切り替え、単発で遠方に立っている4体の的の頭部を撃ち抜いた。

発射した弾薬は22発。1発も外すことなく、1つの弾装で9体すべての敵に致命傷与える部位に命中した。

この結果にオオツカ達は顔を見合わせ、少しの沈黙続いた。

「ちょっと、これ冗談でしょ」

沈黙を破ったのは取り乱したケイトだった。

「どうやったの?こんな…ありえないわ」

そう思うのはケイトだけではなく、オオツカ、ジェイクも同じだった、そしてイーサンも同じだった。

馴染み過ぎている。

イーサンが銃手に取った瞬間、これは自分の銃であり、長年愛用している物だと感じさせるほどに。

「多少銃の扱いに慣れてるってだけじゃこうはならん、シシのサポートがあったとしてもだ。射撃が得意な連中は五万と見てきたがこりゃあ…」

オオツカは倒れた的を見ながら呟いた。

「初めて握る感覚じゃなかった。なんかこう、今まで自分のものだったみたいに適応できたんだ」

手にした銃を見つめ直しながらイーサンは言う。

「まあなんせよこれは報告しなきゃならん。シシ、艦長に繋げ」

『ネットワーク展開。アクティブ』

NW4の光学照準機器から球体へと姿を変え、ホログラムを展開した。

「艦長、報告だ。イーサンについてわかったことがある」

《やあオオツカ。ちょうど良かった、僕からも彼についてわかったことがある。そこに彼はいる?》

「あぁここにいる。射撃場だ」

《なら良かった、彼にも伝えたい。それより先にそっちの報告を聞きたい。何があったんだい?》

「イーサンの射撃の腕についてだ。言われた通り見てやってたんだが、こいつは9体の的の急所をすべて正確に仕留めた。1発も外す事なくな。使った武器はNW4、初めて撃った感覚は無いそうだ。射法も完璧、どの距離をどう撃てばいいか体が覚えてる」

ジルビオは少しうつ向き考えた。

《…そうかい、いい情報だ。軍としてこれほどの逸材を迎え入れることができるのは何よりの幸運だ》

ホログラム越しにジルビオはイーサンへ笑顔を送った。

「以上だ、艦長からの報告ってのはなんだ」

《こっちからの報告はイーサンにとって相当なショックになるかもしれない。イーサン、聞くも聞かないも君に任せる。聞く勇気はあるかい?》

ここまで来て聞かないと言う選択肢はイーサンにとってはないに等しい。

記憶がなく、自分がどこから来たのかも知らない彼にとって情報は1つでも多い方が良かった。

「構わない、教えてくれ。俺について何がわかったんだ」

イーサンは答えた。

イーサンの決断を汲み取ったジルビオは続けた。

《君の年齢についてだ。君の年齢は28歳。だけど特殊な28歳だ》

「特殊っていうのはどう言うことだ」

イーサンの問いにジルビオが答える。

《君の冷凍保存が開始されたのが114年前。つまりイーサン、君は114年前の28歳ということになる。》










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