第0話 『お願いがあるんです』
kibun
そう、全ては彼女との出逢いによって
僕の学校生活はまるでココアのように甘く、苦いものへ変化した。
6月10日
キーンコーンカーンコーン♪
梅雨になり、外は雨の音が煩く、教室の中は少し寒い…。
今日は16時から新作FPSのβテストが開始する。早く帰りたい…。
そんなことを考えていたら、ちょうど授業終了のチャイムが教室に響いた。
やっと家に帰れる…!
「それでは、月曜日から中間テストなのでしっかり勉強しておくように。
もし分からないところがあるなら今日中に私のところに来るように。」
中間テストなんかよりβテストだ。確か今日は、
6時間目の授業が終わったら各自で帰って良い。
そう担任が言っていたことを思い出し、
リュックを持ち1番乗りで教室を出ようとした。
その時だ……。
「あの、白水さん!」
とても綺麗な女子の声がした…って、え?今僕のことを呼んだのか?
おそるおそる振り返る…すると、橋本環奈を少し幼くしたような子が、
僕の目の前で僕の目を、真剣な眼差しで見ていた…。
「えっと……何?」
周りのクラスメイト達が、僕らの方を振り向く。
そんなに僕が口を開くの珍しいかよ…。そして、彼女はこう言った。
「あの、白水さんにお願いがあるんです。」
お願い…? 人と関わるのが苦手な僕は慣れないこの状況に少し戸惑った。
彼女はこう続ける。
「あの…でも、どうしてもここじゃそれを伝えられなくて。
放課後、青水喫茶に来ていただけないでしょうか?」
放課後?? 冗談じゃない…断るに決まってるだろ、クラスメイトと思われる
女子の顔も名前も覚えていないこんな僕に限って…。
「あ……… えっと…… 」
会話に間が空いてしまった。
「あの?放課後……もしかして予定が入っていましたか?」
予定があると言えばある。なのに、参った…断り方が分からない。
『無理』は流石に悪いよな… 『予定が入ってる』でいいのだろうか??
やばい、かれこれもう8秒ぐらい会話が止まってる…!
体感では20秒くらい焦って会話が止まっている気がする。
「あ…わ、わかった。」
何を言っているんだよ、おい……。
なんとか言葉を返さないと…そう思ったらつい言ってしまったんだ。
「ありがとうございます!!それではまた会いましょ!」
そう言って、彼女は一番乗りで教室を飛び出した。
こうなると仕方がない。待たせちゃ悪いし早く帰らないと…。
中学校に入学以来、僕は早くPCに触れたいが為に毎日1番乗りで教室を
出ていた。その記録が、わずか2ヶ月で彼女によって破られてしまった。
僕の家は、本来教室を出て5分程度で着くのだが、その途中の道は
4月から工事が始まっていて、遠回りをしなければならない。
その道を通ると大体9分ぐらいだろうか…?? 早く工事終われよ…。
8分後、家に到着。
PCの前のところで、やっぱり行くのやめようか悩んだが、
きっと大した話じゃない。テストやばいから勉強教えろ~とかに
決まっている。なら返事は簡単だ、
「僕バカなので無理です、ごめんなさい。」
家を出る準備をして、靴紐を結びながら、そう10回口に出して練習。
そして、家を出て10分後に衣増駅に到着し、
そこから40秒歩いて青水喫茶に到着した。
店の前には、既に例の彼女が待っていた。
「早かったですね!さぁ、中へ入りましょう。」
なかなか可愛らしい服を来ていて少し興奮…。
「う、うん」
(僕バカなので無理ですごめんなさい
僕バカなので無理ですごめんなさい
僕バカなので無理ですごめんなさい
僕バカなので無理ですごめんなさい
……………………………)
心のなかで15回練習した。これで今度こそは断れるだろう…多分。
いや、絶対断ろう。早くβテストプレイしないと…!
1話もよろしく。