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アセンブル・ロジック ~高専祭殺人事件~  作者: 森鷹志
《第3章》 困惑の事情
31/36

13

 その日の夜。

 熱せられた雨を風呂場で浴びながら、理玖は思案に(ふけ)っていた。

 女装した自分は可愛いのか? なら、これからも……。

 彼はぶんぶんと首を振った。濡れた髪の毛から、遠心力で水滴が飛ぶ。


(馬鹿だな俺は……)


 わざと自嘲的な笑みをこぼして、理玖は思考の焦点を改変した。


 ――文化祭で起こった二つの殺人。

 被害者の片方は学生、もう片方は教員。

 事件は同一犯? 犯人は一人? 二人?

 どうしてあの場所で殺された?

 なんのために彼らを殺した? なぜ殺した?

 凶器は何? どうやって殺した……?

 疑問は山積みだが、解を導くためのヒントはあるはず。しかし、それが繋がらない。

 すべての要素はバラバラに還元され、無秩序に転がっている。

 全部が欠けていて、部分が完結している。

 理玖はいったん、シャワーを止めた。湯気が躰全体から湧き上がっている。

 頭がぼうっとし始めた。不意に、あの日を思い出す。

 文化祭の模擬店のため、学校へ来た。

 楓馬と話をしていると、事件の被害者である七條が現れた。

 そのあと、校内をうろついた。

 何を見たっけ……?

 ホバークラフト、アルミ製のロボット、真空砲……。

 教室に帰ってきたら、……女装をさせられ、醜態を晒した。

 夕方、化粧を落としにトイレに向かったとき、死体を――。

 あの日の映像が脳裏に投影される。

 そういえば、七條は……昼頃にどこかへ行くと言っていた。そのとき、何か持っていなかったか? 紙袋のようなものを? それはどこへ行った?

 理玖はもう一度コックを捻り、シャワーを浴び始めた。

 温水の雨。

 無数の雫。

 連続した礫。


(雨といえば、事件の日も雨だったな……)





 いつもなら数分で済むはずのシャワーを、理玖は十数分も浴びていた。

 全身が真っ赤になっている。火傷はしていないはずだが、焼けるような熱さを彼は感じていた。

 わずかに意識が朦朧(もうろう)としている気がした。立ちくらみがする。

 理玖は脱衣所で深呼吸をした。冷たい風が鼻腔を撫ぜ、心地よかった。

 理玖はトランクスを手に取ると、両足を通してそれを穿く。だが、意識がまだはっきりとしていないせいか、前後逆に穿いてしまった。


(……のぼせたかな)理玖は溜め息に似た吐息をする。(前開き(社会の窓)が後ろにあるなんて、()()の通り道じゃないか)と、久々に下ネタを考えながら、彼はトランクスを穿き直す。


 その刹那、閃光に似た何かが、彼の頭の中を駆け巡った。それは、行き詰っていた問題に、急に活路が見いだせたときのような高揚感。答えが自ずと出てくるような快感に酷似していた。

 無意識に、呼吸が止まる。

 目の前のリアルから脳内へと、意識がシフトした。

 理玖は、下着一丁のまま脱衣所を出て、階段を駆け上がり、二階の自室へ戻った。

 学習机の上に、ノートと一緒にスマートフォンが置いてある。彼はそれを持ってメッセージアプリを開くと、連絡先を最近追加した人物とのトーク欄を表示させて、慣れた手つきで文字を打ち込み、即座に送信した。


   犯人が分かった


 と。



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