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「そういえば、部活は行かなくていいの?」と理玖。
「テスト休み!」と緋香里。
「そういえば……、そんなのあったっけ」
「理玖はなんで部活しないの?」
「なんとなくかな」
「ほぉ……、理玖らしくもない答えだね」
放課後。二人は、聞き込みのため建設工学科三年の教室に向かっていた。
話を訊くのは、昼休みの報告会でリストに挙がっていた学生だ。
「おーっす。昼ぶりー」
教室を入ってすぐのところに、楓馬が待ち伏せをするようにして立っていた。
「とりま、話を訊きたい奴はだいたい教室に残ってるよ。早めに帰りそうな奴から話を訊こうぜ」
「うん、手短にいこう」
「じゃあ最初は……」楓馬は教室を見回す。「澤田かな」
澤田恭哉。昨日のリストによれば、元バスケットボール部で、暴力沙汰を起こし停学になったことのある男子だ。
どんな奴なのかと思いながら、理玖は楓馬の後についた。 楓馬は、教室の後方の席でスマートフォンをいじっている茶色がかった髪の男子の方へ歩いてゆく。どうやら、彼が澤田らしい。
少々、近寄りがたい雰囲気を醸し出しているので、理玖は半歩引いたところから見守ることにした。
「澤田、今いいか?」
「……」
楓馬が声を掛けると、澤田は黙ったままうつむき気味で楓馬を睨んだ。
「何の用?」
「いや……」楓馬は澤田の形相に怖気づきながら答える。「文化祭の日は何してたのか教えてほしいなと思って」
「文化祭?……あぁ、先輩と一緒にいろいろ回ってたな」
「先輩ってのは、高専の?」
「違う。地元の先輩――ってこんなこと訊いて何のつもりなンだよ」
「あー、うん。蒼華祭実行委員の先輩に、文化祭の日、皆がどう過ごしてたのか調べてくれって頼まれたからさ、いろいろ訊いて回ってるんだ」
楓馬が適当な嘘をつくと、澤田はふっと軽く笑って、
「メンドイ仕事、押し付けられてンなァ」
「日頃お世話になってる先輩だし……いいんだ。そんなことより、澤田って七條のことどう思ってた?」
「は?」澤田は怪訝そうに表情を歪めた。「いきなりなンだよ? 何か関係あンの?」
「あ、これは個人的な質問。別に答えなくてもいい」
「七條な……」澤田は視線を逸らした。「ま、いい奴だったンじゃねェの。オレには関係ねェけど」
「あ。そ、そう……」
「で?」澤田は向き直って目を開く。「他に何か話があンの?」
「いや……、まぁ、とくにないかな」
「……」
「すまん……、さんきゅーな」
楓馬は片手を挙げて、澤田の前から去った。
「ふぅ……」
「お疲れ」理玖は、小さく溜め息をつく楓馬を労わる。「七條についての質問は唐突すぎたんじゃないかな?」
「……そんな気がする」楓馬は申し訳なさそうな顔をした。「具体的にも訊きだせなかったし、あー、もうちょっと考えりゃよかった……」
「仕方ないよ」
「まぁ、あいつは……あんなナリだけど根は悪い奴じゃないよ。ちょっとこじれてるだけだ」
「なるほど」
暴力沙汰で停学を食らったことがある、これは何かありそうだ……。暴力を振るった理由は知らないが、激昂してついやってしまったと考えるのが妥当だろう。だとすれば、突発的に殺人を犯した可能性も考えられなくはない……。しかし、今回の事件は突発的な犯行とは言い難いものだ。つまり……。
理玖は少し考えてから、「じゃ、次に行こう」
「……んと、次はあの人かな」
「誰?」
理玖が訊くと、楓馬は囁くような声で、「留年生の、良川さん」と言った。
「留年生……ね」
「あの人、パチンコとかスマホゲームにハマって留年したらしい」
「ふぅん」
パチンコ、と言えば金をスるくらいのイメージしかないが、金銭問題はトラブルの主たる原因となる。金を借りたまま返さなかった、それがこじれて言い争うようになり、ついには殺してしまった……。よくある動機だが、それが今回の事件に適用できるとは思えない。留年生なら七條との接点は少なそうだし、教員である利根田と金銭の貸し借りをするというようなこともないはずだからだ。
(でも、可能性としてなくはないかな……)
良川蓮弥は、黒縁の眼鏡をかけた天然パーマの男子学生で、窓際の席に座り、イヤホンをしてiPhoneで何かゲームをしているところだった。
「良川さん、今いいっすか」
楓馬が話しかけるが、声が届いていないのか、画面に集中しているせいか、良川蓮弥は反応を示さなかった。
「良川さーん」
楓馬は、良川の視界に写るように手を振る。と、突然、
「うわっ。……な、何?」
躰をびくっとさせて、良川は楓馬を見た。驚きの表情を隠せていない。
「あの……忙しいとこ、すんません。ちょっと訊きたいことがあって」
「……な、何?」良川はiPhoneをスリープさせる。
「えーとですね、文化祭のとき、何してました?」
「な、何って……?」
「そうっすね……、お昼頃、どう過ごしてました?」
「ひ、昼……? そうだな……、ずっと体育館にいたかな」
「誰かと一緒っすか?」
「あ……、ま、まぁ、今の4Cの連中と……」怯えたような口調で良川は答える。
「そうっすか……」楓馬はふんふんとうなずいた。
「な、なんでそんなことを?」
「実行委員会の調査らしいっす。いつ、どこで何をしてたかを調べてるみたいで」
「へぇ……、そ、そうなんだ」
「ずっと体育館にいたんすか?」
「……あ、いや、昼の……一時くらいに昼飯を買いに一度体育館を出て、二時くらいに帰ってきたかな」
「そうすか」
「き、聞きたいことは全部?」良川の手元がそわそわし始める。「も、もういい?」
「あ……、はい。あざっす」
楓馬は軽く頭を下げて、後ろで話を聴いていた理玖と緋香里に近寄る。背後の良川はゲームを再開しているようだった。
「ま、こんな感じ?」
「なんか、あまり喋り慣れてない感じだったね、あの人」緋香里が言う。
「俺はそんなに話したことないからなぁ。いや、そもそもあの人と話す奴はいないんだよな。で、理玖は何かある?」
「いや。どんな人物なのか把握できたからいいよ」
「よし。じゃあ次は……新井かな」
言うと、楓馬は廊下側の座席の方向へ足を向けた。
新井聡史は、少し色黒で、サイドを刈り上げた髪型をしていた。熱心にスマートフォンの画面を覗き込んでいて、時折、忙しなく指を動かしては表情を綻ばせていた。何かを書き込んで、その反応を楽しんでいるらしい。おそらく、SNSか何かだろう。
「新井は、またつぶやいてんのか」楓馬は新井の机に手を突いた。
「なんや? 悪いことしてるわけやないから、ええやろ別に」
「そりゃ人の勝手だからな、別にいいけど。それより、ちょっと訊きたいことあるんだけど、いいかな?」
「なんな?」
「文化祭の日、何してた?」
「文化祭ぃ? そんなん、今さら訊いて何になるんな」
「いいから、教えてくれよ」
「……」新井は少しのあいだ黙り込む。「弟が高専来る言うてたから、案内しとっただけや」
「いろいろ回ったってことか?」
「そや。いろいろ回っとったんや」
「具体的には?」
「はあ? そんなん、いちいち覚えとらんって」
「あぁ……、まぁ、そうだよなぁ」
「なぁ……。さっきからコソコソと嗅ぎまわってるみたいやけど、何しとんや?」新井は楓馬の後ろにいる理玖と緋香里を一瞥した。「その後ろの二人も何かあるんか?」
「ま、まぁ……、ちょっと、な」
「もしかして、事件のことでも調べとるんか? 探偵ごっこか?」
楓馬は困った顔をして、理玖を見た。こいつに嘘は通じない、と言いたげだ。
「その様子やと、その通りみたいやな」新井は勝ち誇ったように言う。「なんや? わてを疑っとるんか?」
「そういうわけじゃないんだけど――」
「言っとくけど、わては犯人やない。調べても無駄よ」
「……何か、知ってるのか?」
楓馬が訊くと、新井は待ってましたとばかりに、顔いっぱいの笑顔を見せた。
「利根田が殺されとったんは、機械棟三階の男子トイレやろ?」
「あ……あぁ」
「殺されたんは昼?」
「たしか、そうだよな、理玖?」
楓馬が振り向くと、理玖は「そうだよ」とうなずいてみせる。
「なら、間違いない。昼の一時過ぎくらいやったかな。その男子トイレから、全身黒服で帽子かぶった、見るから~に怪しい奴が出てきはったんや」
「まじで? それ絶対、犯人だよな」驚きのせいか、楓馬の口は開いたままだった。
「せやろ?」
新井がけけけ、と笑ったところで、理玖が一歩前に出た。
「新井君……、ひとついい?」
「お、なんや?」
「その怪しい人物、何か持ってなかった?」
「え? う~ん……」新井はスマートフォンを持ったまま考え込む。「そんな怪しいモンは持っとらんかったと思うけど?」
「……そうか、ありがとう」理玖は、深刻さを言葉に滲ませながら礼を言った。
「まぁ、これを情報の足しにしてがんばりなや」
そう言うと新井は、視線を手元の画面に落とし込んだ。だが、すぐに顔を上げる。白い歯を見せて笑っていた。
「ほんなことより、教員が死ねば単位が出るって噂、ホンマかな? わてはそっちのほうが気になってしゃーないんやけど」




