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アセンブル・ロジック ~高専祭殺人事件~  作者: 森鷹志
《第3章》 困惑の事情
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 十一月十二日木曜日、午前八時。JRの列車の中で、吊り革に掴まったまま理玖と緋香里は肩を並べていた。


「緋香里」


 理玖はおもむろに口を開く。だが、隣の彼女はイヤホンで音楽を聴いていて、彼の声は届いていないみたいだった。理玖は緋香里の肩を突いて気づかせる。


「なに?」緋香里が片耳のイヤホンを外して理玖の顔を見た。

「昨日言ってた犯人捜し、一緒にやる?」

「えっ……?」緋香里が目を細めた。「どしたん、急に?」

「しないの?」

「んー……、僕は別にいいけど。でも、どーして?」

「ただの暇つぶしだよ」口元に笑みを浮かべてそう言うと、理玖は窓の外に視線を移した。


 緋香里は神妙な顔つきで数秒のあいだ黙り込んだあと、「……そう」と呟く。「でもまさか、理玖がそんなこと言い出すなんてね」


「そんなに驚くこと?」

「うん。……もしかして、誰かに何か言われた?」

「えっ」理玖は目を見開いた。珍しく緋香里が鋭いことに、だ。これが女の勘というやつか、と理玖は感心する(これが女の勘であるかどうかは不明だが、彼女はたまに鋭い)。

「だいたいそうかな、ってことはわかるよ」緋香里は得意げに顎を上げた。「理玖って、頼まれたらなかなか断れないタイプだもんね」

「でも、嫌なことは断るよ」

「さあ、それはどうかなー。で、誰に頼まれたん?」


 その質問に、理玖は生返事をしながら、彼女にどう答えるかを詮索した。結果、緋香里には話しても問題はないという結論に至る。彼女は口が軽いほうではない。


「伯父さんに頼まれた」

「あー、勝占先生に……。ってことは警察からの依頼ってことだよね」

「そうなるけど、個人的なお願いって感じだと思うよ。そんな、推理漫画の主人公みたいに期待されてるわけじゃないし」

「まーそうなるよね」緋香里はにやりとした。

「でも、今考えてみると、俺って事件の当事者――目撃者なのに、なんで頼んだんだろうな。俺も容疑者のはずなのに……」

「理玖への容疑がいくらか減ったってことでいいんじゃない? ちょっと考えすぎだよ」

「そうかなぁ」

「そうだよ」と言って、緋香里は「それでさ、具体的には何する感じ?」

「主に情報収集になる。人間関係だとか、そういうのを調べて報告してほしいらしい」

「ふぅん」

「その情報を元にして、犯人を追求していくんだろうな」

「でも、がんばったら僕らでも犯人を捕まえられそうだけど」

「根拠は?」

「こんきょ? そんなもんないない」緋香里は首を横に振った。

「じゃあ、その自信はどこから生まれてくるの?」

「どこからって言われても……」

「でも、あながち不可能じゃなさそうだけどね」

「犯人を捕まえられること?」

「うん。犯人は学校内部の人間である可能性が高いから」

「どうして?」

「まず、事件があった場所――機械棟三階の男子トイレと、建設棟一階の器材室に着目して考える。あの辺りは、文化祭当日は人通りが少ないことがあらかじめ分かってるよね?」

「ん……たしかに」

「それで、そのことを知りうるのは学校内部の人間以外にはない」

「なるほど……」緋香里は大きくうなずいた。

「さらに、殺されたのは学生と教員。学内の人間を疑う以外にないよ」

「んー……、ってことは、殺人犯は今も学校に潜伏してる……ってことになるよね」

「そう」理玖は無機質な声で答える。「潜伏っていうのはちょっと違うかもだけどね」

「何それ、こわぁ……」

「でも、これから殺人が起こる可能性は極めて低いと思うよ。犯人は、文化祭の日を選んだ。これは、不特定多数の人間が学校にいる状況でことを運ぶことによって、『学外の人間が凶行に至った』という可能性も捨てきれないようにするためだったと考えられる」理玖は微笑した。「なかなか計画的な犯行だと思うよ」

「じゃ、もう犯人は目的を達成してるってことになるんだ……?」

「そういうこと。だから、心配には及ばない」

「及ばないわけないっしょ。だって、殺人犯と一緒にいるわけだし……」

「なら、早く見つけ出さないと」

「うん……。こんなに変な気分になったのは初めて」緋香里は不安を絡ませたような声で言った。「それじゃさ、情報収集はどういう感じで進めるん?」

「そうだな……、とりあえず、被害者と関わりのあった人間の情報を集めるのが一番だと思う。あとは、並行して、事件現場の状況も知りたい」

「現場のことは勝占先生に訊けばいいんじゃない?」

「そうするしかない」


 次の駅のアナウンスが流れる車内で、理玖は今後の行動について考えを馳せた。






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