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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
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付録・番外編「孤独の城砦グルメ飯」 一章「ヴァルハラ飯」その2

存在と時間は連絡しない。

そも時間とは有限定命(じょうみょう)の人の子が

無限普遍の世界を知覚するために生んだ

虚構フィクションに過ぎないのだ。


仮初の始点と終点を定め狭間を定めて

極限値に価値を見出すその不遜。

遠大無辺なる世界を壮大な微分でおとしめる。

そうして人は架空の時空を捻出し理解するのだ。


だが虚構は虚構。真理は人智の外に在る。

真なる存在にとり時間はただのまやかしだ。

過去現在未来による相対的な理論付けでは

無限にうねる奔流、絶対存在なる世界という

海を治水し尽くす事はできないのだ。


ゆえに人智の外に旅立って絶対と対峙し

一体となって世界を俯瞰するならば、存在と

時間とを結びつける偽りの鎖は解き放たれる。


かつて存した事もいつの日か在する事も

同義にして等価な世界そのものの記憶となる。


こうした普遍を目指す旅路こそ魔道である。

そして魔道を極めた者には世界そのものの

記憶に直接存在を問いただす事ができるのだ。


有限の知覚を持つ人の目には無から有を呼んだ

かにも見える、世界そのものの記憶の再現。

これを魔術と呼んでいる。


そして単なる事象の枠を超え命の在り様

までも再現する秘儀、これを召喚魔術と呼ぶ。





では張り切って参りましょう。


荒ぶる海原たる大いなる世界よ。

我が魂の歌声に応じ記憶を呼び覚ませ。

かつてこの地に在った大いなる英雄の記憶を。


人の認識では城砦暦58年同日同時刻

同地に在った当代随一の英雄の記憶を。


記憶は名乗る。

栄えある初代第一戦隊長。

そして金剛不壊の「筋肉の城」。


すなわち、g




やめろばかぁああああーーーーっ!!




ぺーん。


三千世界な視界のまにまに

百花繚乱の火花が散った。


何事かと見渡すと傍らにやたらデカい

ハリセンが落ちている。これか? これが

我が尊貴なる軍師ヘッドを張り飛ばしたのか?


ふざけおってどこから降ってきた。

そしてどこの下郎の仕業であろうか。


とりあえずハリセンを摘みあげてみると

デカデカと丸の中に「参」。そして

四角の中に「せ」とあった。


どっかで聞いたような声といい、どうやら

あのド腐れフラミンゴ(参謀長)の仕業だろう。

我が禁術を妨げる目的の仕込み(トラップ)に違いない。


ご丁寧にも音声付きとは

まったく無駄な魔術の使い方をする。


……何、禁帯出魔具?

使用後は管理課に戻せだと?

管理課って誰よ! って私じゃん!

無許可で持ち出した!? ナメてんのかあの女!!


……チッ、まぁいい後で高いびきの額に

墨で「腐」と落書きの刑だ。


ふむ…… まぁ、それはそれとして。

……何故私は、城砦内閣北西区画に

来ていたのだろう……?





そう、思い出した。此度は第一戦隊の誇る

超弩級巨大食堂「ヴァルハラ」の取材だった。

そしてゲストを呼ぶべく準備して、何某かを

成そうとしていたのだった。


だが何故だかそれが何であったかを

まるで思い出せぬようだ。まぁ宜しい。

ここは素直に前向きに、さっぱり忘れて

次の手を打つとしよう。


ヴァルハラの門を目指し歩みゆく者であれば

とりあえず誰でも良さそうではあるが……


と、フラフラと巨大な箱物たるヴァルハラに

近づいていくと、ふと頭上より視線を感じた。


見上げた視線の先。20オッピほど先な

ヴァルハラの、高さ2オッピに程近いその

屋根の上にはどうやって登ったものか

何故だか人影が一つ在って


その人影と目があった。


次の瞬間、その人影は眼前にあった。

何だ魔術か超スピードかと逡巡しゅんじゅんをする暇もなく、



「不審者ですか? 不審者ですね」



と問答無用で不審者にされた。





備えあれば憂いなし。こんな事もあろうかと

筆者は食品を携行していた。とりあえず

美味いものを差し出せば万事円満に解決する。

それが第一戦隊というものだからだ。


ルジヌの厨房いや房室から拝借してきた、

白銀に輝く艶やかな米にカラリと揚げた

エビ、らしきもののフライを乗せさらには

マヨラーセ改たるタルタロスをたっぷりと

彩りその上で外周を香ばしき海苔で優しく

包んだ未だふくよかな熱を持つ麗しき

「魅惑のしゃちほこ」を差し出す。


効果は覿面てきめんだ。

警備員らしき騎士からの待遇は

一気にVIP扱いとなった。



「成程、そういう事でしたか。

 ならば貴方は運が良い。


 城砦騎士団第一戦隊総員600余名のうち

 最もヴァルハラ紹介のゲストに相応しい者。


 それは他ならぬ私なのですから」



白磁の色味をした装甲をオリーブ色の

縁取りで飾る見目麗しい甲冑の武人。

第一戦隊所属城砦騎士。


通称「ヴァルハラの騎士」ユニカは

にこやかに頷いてズィと手を差し出した。



「美味しかったのでもう一つください」



握手かと思ったら違っていた。


持参した魅惑の鯱はこの繰り返しで

筆者の分も含め全て喰らい尽くされた。


とまれかくまれようやくにして

こうして素晴らしく相応しきゲストを得て

いよいよヴァルハラへと乗り込む事になった。

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