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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
985/1317

サイアスの千日物語 百四十三日目 その三十四

高台南東に陣取るヴァルキュリユルと

南東より迫る「できそこない」の機動部隊

との一次遭遇。すなわち交戦距離での遭遇が

5分内と差し迫って居ることから、まずは

そちらへの対応が速やかに整えられた。


出番を封じられてややムクレ気味であった

大隊長サイアスではあるが、こちらへの対応は

元より配下に任せるつもりであったので差配も

実に敏速なものであった。





まずは高台下方で堀を掘りつつ土嚢を確保

していた工兵らが全て上方へと撤収し、他の

工兵らともども射場と大型貨車で構築された

防衛陣に入った。


工兵らの兵装は共に第三戦隊制式となる

小振りな円盾ホプロンとグラディウスであり、

余力のある者はさらに手槍を有していた。


これら工兵100名のうち90名は

6名の班を3つ連ね、そこに第一戦隊よりの

副長大隊兵士10名を主副の小隊長として編入。

最大規模の小隊を5個として編成された。


これら5個小隊は長弓部隊の護衛として

防衛陣内の随所に陣取り、遠からず強襲する

であろう羽牙2個飛行大隊への備えとなった。


工兵100名のうち残る10名はサイアス小隊

の保有する台車である「ランドクッルス」に

搭載された「ランドカノン」を用い対空迎撃を

担う事となった。


彼らの護衛はサイアス小隊より副官たる

クリームヒルトと盾肉娘の計3名が担う運びだ。





一方高台下方の低地においてはランドの駆る

戦闘形態に移行したセントール改を鉄城門の

正面に配し、その両翼に第一戦隊の主力大隊

精兵が5名ずつ備えた。


現在鋭意製造中である第一戦隊専用の機動歩兵。

セントールⅡ型「センチネル」が実戦配備

された暁には、宴でオッピドゥスが担う役所を

肩代わりしこのような陣形で拠点防衛を行う

機会が増えてくる。


今回の戦闘はそのテストケースとして有用で

あるとして、大隊幹部総員の注目を集める

ところとなっていた。


とまれこれらの言わば機甲小隊が前衛を務め

後衛に第二戦隊抜刀隊五番隊10名。これら

一機と20名ができそこないの機動部隊

30体と直接対峙する事となる。


できそこないの戦力指数は基準値として3。

稀に5以上の大物が混ざる事もある。


一方こちらは5を下回るものが居ない上

ランドの搭乗したセントール改は実に

城砦騎士相当となる。


数の多寡のみで戦力を判ずる魔には丁度いい

目くらましとして機能する事だろう。





ヴァルキュリユルの頭脳となるサイアスら

指揮官は、鉄城門と防壁のある一帯と射場と

貨車で組まれた防衛陣地の狭間。


物見の鉄塔の傍らに止められたサイアス小隊の

有するクァードロン2台とその脇に設置された

指揮所に陣取り待機していた。


鉄塔は鉄柱を組んだだけの簡素な造りだが、

できそこないが数体纏めて体当たりでもせぬ

限り倒れぬ程度には頑丈にできていた。


高さは概ね1オッピ。羽牙が襲来した際は

孤立しむしろ危険となるため、直ぐに退避可能

な敏捷に秀でた隠密衆が数名陣取り、短弓等の

飛び道具を備え待機していた。


鉄塔傍らの指揮台には大隊長たるサイアスの他

参謀部の正軍師と祈祷士が。さらに当大隊副将

たるディードと衛生兵ベリル。


加えて今はカゥムディーを用いた探査に

専念するデネブと「シヴァの巫女」たる

厩務員アイノが待機した。


指揮台の背後にはシヴァら軍馬3頭。

指揮台の前方にはロイエ率いる美人隊と

ラーズにシェド。シェドはラーズの近接戦を

補佐する形となっていた。


「ところでニティヤさん、少々ご相談が」


指揮台の傍ら、無人の空間に向かって

参謀長補佐官たるアトリアが声を掛けた。


「あら…… 何かしら?」


無人であったはずの場所には

不意にニティヤが現れた。


ニティヤは潜伏し独自の判断で

指揮所周辺の警護を担う事となっていた。



「実は……」


「まぁ…… それは面白そうね」


「そこで、このような……

 ……をお願いできればと……」


「フフ。良いわ。任せて頂戴」



二人は周囲に聞こえぬ小声でもって

何やら打ち合わせ薄い笑みを浮かべ、



「サイアス、ちょっと工兵を呼んで頂戴」



とニティヤ。


「はいはい……」


大隊長閣下は肩を竦め自ら使い走りとなった。





防衛陣地より参じた工兵らは、極めて迅速に

事を運んだ。彼らへの下令とは、鉄塔より

一定の距離を開け、余材となっていた鉄塔の

支柱をそれのみで散立させる事であった。


長さ1オッピ。地表部こそ補強はあるものの、

それら一本一本は人の手首程の太さの中空な

単なる鉄の柱であった。駆け寄ってきた工兵は

数十居たため数分と待たずに作業は済んだ。


結果としてそれら鉄柱はこの野戦陣一帯に散在。

特に鉄城門の裏手に延びる街道沿いでは枯れた

街路樹の如き様相を見せ、時折風が音を鳴らした。


「……これでいいのかい?」


怪訝けげんなサイアス。


「えぇ、理想的な仕上がりです」


とアトリア。


平素通り表情は薄いものの

声は何やらウキウキしていた。



「替えのきかない人材なのは

 貴方も同じだと思うのだけれど」



先刻がっつりと自重を強いられた手前、

大隊長たるサイアスは妙に「やる気」な

参謀長補佐官たるアトリアに対しジト目した。



「ずっと参謀長のお守りだから、随分と

 ストレスを溜めこんでいるのでしょう。

 折角の機会だし存分に発散するといいわ」


「……フフ。ウフフフフ……」


「な、成程……」



どうやらそういう事であった。そして



「あちら、来ましたね」



とそっけなくアトリア。


見やれば眼下南東からは砂塵が迫り、

程なく砂塵と起伏は巨獣の群れを吐き出した。


野良に属する異形の機動部隊総数30。

ヴァルキュリユルの機甲小隊総数21。

こうして両者による戦闘は開始された。

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