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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
951/1317

サイアスの千日物語 百四十三日目 その二

営舎詰め所に集う70近い人員が

しわぶき一つなく傾聴する中、

軍師の説明はなおも続いた。



「具体的な作戦域の説明に入ります。

 一箇所目は城砦南南東1000オッピ地点。

 通称『オアシス』。


 南往路の隘路出口から西に1000オッピ

 でもあるこの一帯は、魔軍との軍事境界線に

 ほぼ接しています。


 南往路を経由する輸送部隊が休憩所として

 用いていた場所で、潤沢な水量を持つ泉と

 いくらかの木々を持つ浮島のような場所です。

 

 架橋作戦以降南往路と同様に利用が放棄

 されていますが、本作戦ではここに進軍、

 拠点を仮設し同地を中心に数日周辺域の

 哨戒を行う事になります。


 魔軍の軍事境界線にほど近く、周辺が

 開けている事から進軍も自在。ほぼ確実に

 大隊規模での頻回な戦闘が発生する

 事となるでしょう。


 本合同作戦における最大戦力で臨むこの

 作戦を『アイーダ』と呼称します」





荒野東端の中枢に横たわる大湿原は

北方の河川及び南方の断崖と共に

荒野奥地との陸上の連絡を阻害していた。


大湿原の南北の地勢との狭間は

幅数オッピから十数オッピと地勢全体

からみて極めて狭くなっていた。


そして大湿原の西手に在る中央城砦はこの

南北の往路を経て物資を輸送し陸の孤島

での囮を務めていた。


城砦より数千オッピ南西の丘陵地帯に

奸智公爵が魔軍の拠点を築き、同地を

中心とした軍事展開を開始するにあたって、

南往路は放棄される事となった。


理由としては二つある。

もとより南往路を構成する断崖絶壁が

できそこないらの支配権であった事。

そして南往路西端の隘路出口が魔軍の

新規軍事境界線に一層近くなった事。


以上二点から危険性を重視して

斯くの如き次第となっていた。


これにより平原と中央城砦を結ぶ輸送路は

北方河川との狭間である北往路のみとなった。


ただし奸智公爵の文字通り魔の手は

この北往路にも及んでいた。北往路の

西側出口である小湿原との狭間の隘路を

浸水させて物理的に封鎖する水攻めの

一手を目論んでいたのだ。


これが完遂されれば城砦は両の往路を失い

平原との連絡を絶たれ干上がるしかない。

そして敵地の只中で防戦一方な城砦側に

昼夜問わず暗躍し得る異形の眷族らを

止める手立てはない。


長い年月を掛ければ必ずこの水攻めは

果たされるのであり、城砦騎士団は

荒野に在りて100年目にして、将来

訪れる存亡の危機を直視する事となった。


だがこれをいち早く看破した第四戦隊の

機転を以て一念発起、人類の威信を懸けた

架橋作戦を成功させた事で状況は一変。


北往路西側隘路を経ずして物資輸送を

成さしめる支城の建造と大小の湿原への

架橋を成し遂げ、磐石の輸送態勢を

確保する事に成功していた。


こうした一連の展開にあたって城砦騎士団は

荒野東部に巣食う言わば「野良」の眷族らを

相当数撃破する事に成功していた。


特にサイアス大隊による「魔笛作戦」を経て

大湿原全体における羽牙の低減及び城砦北西域

の支配権確立が成され、また羽牙の残数の推定

による「野良」な敵戦力全体の比定が成された

事で中長期的な荒野東部制圧への展望を得る

事ができていた。


そしてこの作戦「アイーダ」である。


軍事境界線上程近くに軍勢を駐屯させて

敵を煽り、なろうことなら野良含む敵総数に

打撃を与え、一度は放棄した南往路を再び

利用可能な状況に戻そうという意図を多分に

含むものであった。


むろん魔軍や野良の眷族らがこうした

動きを指をくわえて見過ごすはずもない。


当然の如く苛烈極まる攻撃を以て

増上漫ぞうじょうまんの人の子らに餌に過ぎぬ

本来の身の上を教えてくれんと迫る事だろう。


本合同作戦中最大規模にして最大眼の

危険を伴うのがこのアイーダであった。





「二つ目の作戦領域は、当城砦の西手、

『大回廊』を挟んで西へと長く続く岩場。

 岩場全体としてはその北東域となります。


 この一帯は従来野良の大口手足の支配域

 として知られていましたが、南西丘陵に

 魔軍の橋頭堡が出現して以降もなおこの

 一帯に留まり続ける数は多くありません。


 地勢としては、北は北方河川に迫り南は

 荒野奥地へと続く比較的平坦な坂道に近接。


 西果ては不明なれど傾斜を上りつめてゆくと

 平坦な棚上の領域も散見され、巨石群を

 用いた建造物や先史的な遺跡等が存在する

 との報告があります。


 城砦以西の荒野は大部分が未だ未踏査で

 この岩場についても十全な情報を有して

 いる訳ではありません。


 ですが少なくとも魔軍の新規軍事境界線

 からこの岩場の北東の一画が外れており、

 またこれまでに同地で魔軍及び野良の眷族

 らとの戦闘に当たっていた剣聖閣下からの

 報によれば『取ろうと思えば取れる』

 状況にあるとの事です。


 但し当城砦騎士団の最大の目的である

 魔軍の侵攻から平原を守る囮としての

 役割を考えた場合。


 また険阻なる天然の要害を利して防衛に

 あたる地勢的な立場からみた場合、この

 岩場は魔軍への盾として手付かずのまま

 残すのが正解です。

 

 ただ当城砦は用水を北方河川に頼って

 いるため、岩場の北東の一角を切り崩すか

 或いは防壁を建造する事でより安全な

 取水状況を確保したい狙いがあり、


 そのため城砦真西ではなく北西よりに

 一軍を進駐させ、大回廊及び城砦との

 分断を図る事を目指すのが二つ目の

 作戦「グントラム」です」

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