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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
950/1317

サイアスの千日物語 百四十三日目

第一時間区分ほぼ半ば、午前3時45分。


城砦歴107年第143日目の夜明けは

午前5時50分頃と推定されている。

よって出動予定時刻の丁度2時間前。


城砦内郭北西区画にある第四戦隊営舎、

その詰め所には出動可能な所属戦闘員の

全てが武装を整え席に着いていた。


着席する総数は55名。

加えて彼らの視線の先には

指揮官級と思しき数名が立っている。


第四戦隊設立時の規定戦闘員数は50。

どうやら現状ではそれを僅かではあるが

上回っているようだ。


春先は30名を割り込んでいた事や

宴とその後の諸々を経た上である事を

思えば、相当に潤沢な状況であると言えた。





「すっかり往事のにぎわいだな」


と微かに目を細め頷くベオルク。


設立当初を知る最古参にして戦隊長代行。

天下無双の城砦騎士長にして第四戦隊副長だ。



「各戦隊の上澄みたる我らがこの状況だ。

 それだけ騎士団全体の戦力が充溢じゅういつしている

 という事なのだろう。誠に喜ばしい限りだ」



夜陰よりなお黒い漆黒の甲冑を纏う

ベオルクは同色をした豊かな髭を撫でた。


「作戦後に増員の見込みもあります」


凛とした声が脇から響く。

詰め所を照らす数多の灯りより

遥かに高い輝度を誇る容姿端麗。


白金の髪、乳白の肌。瑠璃色の瞳。

地上の生物と断じ得ぬ美麗なる勇壮。


第四戦隊所属、西方諸国連合準爵にして

カエリア王立騎士、城砦兵団長サイアスだ。



上層部うえからは春までに100にせよと

 仰せつかっておる。もそっとさらわねば

 なるまいな」



ベオルクは兵らを見据え、

髭を撫でたまま目を細めた。



「何なら平原から直接にしますか?

 補充兵に戦闘行軍で入砦させれば

 相応に活きの良い者が掛かるかと」



特段の表情を見せる事なく

サラリとそうのたまうサイアス。


「おぃおぃ」


ベオルクを挟んで反対に立つ

飄然ひょうぜんとした武人が苦笑した。



「それは良い案だな。

 休暇空けにでもやるとしよう」


「こっちもかー」



クツクツと笑うベオルクにも苦笑、

されど満更でもなさげなこの武人こそ

城砦騎士団騎士会の若手筆頭。


人の世の守護者たる城砦騎士のうちでも

特筆すべき、あらゆる武器を達人の域で操る

芸達者。第四戦隊所属城砦騎士デレクだ。



「他人事ではないぞ、お前は軍馬担当だ」


「洒落にならないなー。副長は?」


「甘味職人でも見繕うか」


「宝石商は如何ですか?

 何なら荷物だけでも」



何やらよこしまさ全開な指揮官らに対し

着席する55名は呆れジト見し出した。



「お三方、山賊ごっこはその辺で」



と横合いから声を掛けるのは

参謀部より出向のローブ姿7名の長。

元隠密衆、参謀長補佐官たるアトリアだ。


叡智の殿堂、賢者集団たる参謀部の

主幹構成員、即ち軍師と祈祷士は

合わせて40名に満たない。


にも拘らずそのうち実に2割が

こうして第四戦隊に出向している。

その重みをおもんばかり、55名は厳粛であった。



「お三方にお任せすると何かと長引き

 そうなので、こちらで説明致しますね」



異議ありげなお三方をしれっとディスる

アトリアは55名にそう声を掛け、

55名はしかと頷いた。





こちらで説明すると請け負ったアトリアは

しかし自分では黙して語る事が無かった。


舌先三寸で戦に臨む軍師には珍しく、

アトリアは饒舌じょうぜつの対極にあった。もっとも

筆を手にすると止まらなくなる類でもあった。



「では私から今回の作戦の概要を

 説明させていただきます」


アトリアの背後からローブ姿が一歩出た。



「既にご存知の方も多いかと存じますが、

 今回の作戦は西方諸国連合軍と合同して

 おこなう広域的なものです。


 もっとも架橋作戦と同様に、同時多発

 による魔軍の撹乱が主眼ですので、

 逐一平原側と同期して作戦展開を

 調整する必要はありません。


 作戦開始移行は各戦域が独自の裁量で

 展開を推し進める事になります。

 

 当騎士団としては大湿原より西側となる

 3箇所での戦域を担当します。まずは

 こちらを御覧ください」



軍師は戦隊指揮官3名の背後に

掛けられた特大の戦域図を示した。


戦域図は中央城砦を中心とした荒野東部の

中央以西を表したもので、大湿原の東部や

トーラナ等は描かれてはいなかった。


無論これは多分に意図的で、騎士団こちら側では

平原あちら側の動きが判らぬままにしておく

防諜要素を有していた。



「我らの居城たる中央城砦と

 新設された魔軍の橋頭堡のある

 城砦より南西の丘陵地帯を結ぶ線分。


 そしてその線分に垂直に走る、

 北西から南東へと流れる線分が

 御覧いただけると思います。

 

 現状の『魔軍』との軍事境界線です。

『魔軍』ではない、魔が恒常的に直接

 統率していない、言わば『野良』状態の

 眷族について考慮されてはおりませんので

 そこは悪しからずご了承ください。


 これまで城砦は完全なる四面楚歌状態

 で魔軍との戦に臨んでおりました。


 ですが魔軍が先の宴での戦況を踏まえ

 戦線の縮小を図った事で、従来の敵陣の

 うちでも特に城砦近郊に、軍事的な

 空白地が生じております。


 もとより荒野は人の住めぬ険阻な地。


 制圧したところで維持する事も出来ぬ

 類の土地ですが、何ら手を打たず放置

 したままでは、敵に良いように利用

 されてしまいます。


 そこでこの期に軍を出し、当方の

 制圧圏である事を示威して敵方の挙動を

 抑制する事。これを第一義としています」

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