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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
943/1317

サイアスの千日物語 百四十二日目 その二

どうやら昨日のアレは結構な評判に。

しかも良い評判になっているらしい。


詰め所の兵らと会話を交わすうち

彼らの態度からそうした感触を得た

シェドが天狗になり始めた、そんな頃。


営舎詰め所の入り口に名物三人衆の残る

二人がひょっこり姿を表した。シェドは

ぴょこりと反応してそちらを見やり、

何か言おうとしたものの例の如く

再び挙動不審となった。


二人はまずはベオルクとデレクに

何かしら報じ、その後シェドの方へと

やってきた。察するに二人揃っての

外出行動であったらしい。



「クク、ようやく起きたのか、お前」


「まぁ昨日は頑張ってたしねぇ」


「ぉ、おぅ……」



ニタニタと笑うラーズとランド。

視線を泳がせキョドるシェド。


特に常通り飄々(ひょうひょう)としたラーズから

時折城砦騎士ら2名に勝るとも及ばぬ鋭気が

こぼれるのに驚愕すること頻りであった。


ラーズの弓術技能の値は9。一握りの天才が

誰よりも努力し、ただ只管ひたすらに、一心不乱に

その才を磨いて到達し得る仙境にあった。





「何だ何だ。

 いつにも増して胡散うさん臭ぇな」


とラーズ。



「昨日のアレで育ったお陰で

 周りの強さが判りだしたらしいぜ」


「フッ、そりゃまた今更な」



インプレッサの説明に知らず苦笑した。

一方のランドが笑って曰く


「ビビってどうにかなる次元かい?

 開き直った方がいいと思うよ?」


と自身はそうしているらしき助言を成した。


ランドは剣術技能こそ1と素人程度だが

シェドはそんなランドにも少なからぬ武威を

感じていた。ランドは師範級の兵器技能を

有する。そして過日それを以て羽牙の群れと

死闘し勝利を収めていた。


どうやら自分は相手の戦闘技能値そのもの

よりもむしろ、蓄積された戦闘経験の豊富さに

対して。有体に言えば殺した敵の数に応じて

危険を感じているらしい。


シェドはそのように理解し納得した。


そんなシェドの様を見透かしたように



「危機察知能力ってヤツだな。

 まぁ今までが無頓着むとんちゃく過ぎたってだけで

 漸く人並になったってとこじゃねぇのか」


「王族にはきっと不可欠だろうね。

 暗殺避けにもってこいだし」



とラーズやランドは談笑を。


シェドはそれもそうだと是認はしつつも


「てかよぅ、俺っち寝坊っちまって

 ヤヴァいんだけど!」


と専らランドに不服を申し立てた。





「ん? ちゃんと報告しておいたよ?

 寝台が機能してるから寝かせといたって」


とやんわり笑うランド。


「シンダイガキノウ?」


聞きなれぬ言葉を片言で復唱するシェド。



「ここの寝台には負傷時にのみ発動する簡易の

 回復祈祷の術式が組み込まれているんだよ。


 君、戦技研究所あっちではケロっとしてたけれど

 営舎の居室(こっち)に戻ってくるなりバタンキューさ。


 昨夜の件は戦技研究所の宣伝にもなったし

 丁度次の任務は明日だという事もあって

 起きるまでそのまま寝かせておいて

 良いってサイアスさんが言ってたよ」



とのランドの説明に


「ほ、ほほぅ……」


と腕組みし首を傾げた。





回復祈祷とは凡そありとあらゆる生命が

天然自然に具え持つ「治癒力」を活性化

させることにより、疲労や負傷からの

快復を早める魔術である。


人が自然に具える治癒力は概ね1。

体力の高いものでは倍する事もある。

ただ、倍しても2。数値としては小さい。


そこで祈祷士は魔術により一時的にこれを

加算する。その結果小傷程度ならすぐに

消える事もあるという。


とはいえ元来回復祈祷に即効性はない。

効能は飽く迄自身の持つ治癒力の増幅。

傷を治すのは飽く迄自分自身の身体が

時間を掛けてやる事だからだ。


また確固たる成果を得るには滋養と安静、

そして時間が必要で、副作用として眠くなる

と言う。つまりシェドの寝坊は不可避であった

という事だ。


過日ヴァディスによる魔術講義で学び知った

知識の一端をもってランドはそう説明した。



「滋養…… は摂ってないんとちゃうけ?」



とシェド。


戻って即バタンキューという状況に、かつて

退路の死守作戦の折、セメレーのあられもない

姿をうっかり覗き見て盛大に張り飛ばされた

事を思い出していた。


あの時は爆走の疲れで寝込んだ末の事で、

祈祷師パンテオラトリィと親交を得て

火男面を譲られる結果をももたらした。



「君自身はそうかもしれないね……

 但しお面が勝手に取り置きを

 ムシャムシャと取り込んでたよ」


「マジデ!?」



ランドが嘆息とともに語る衝撃の事実に

シェドは素っ頓狂な声をあげた。



「まぁ役に立ってて結構なこった。

 てかその面、ちょいと顔つきが

 変わったような気もするな」



と最早関知せずなラーズ。



「えぇ……」


「やけにつやつや活き活きと。

 口元もちょっとマトモ? になったような」



驚くシェドにランドもコメントを。



「俺っち同様イケメン化してるって事か!」


「相変わらず身の程を知らん野郎だな」



うそぶくシェドに呆れるラーズ。


「まぁ今から美形の巣窟に行くから

 そこで現実を思い知っとけよ」


そろそろサイアス邸では晩餐の支度に

差し掛かる時間であった。


「俺っち怒られたりせぇへんな? な?」


とそれはもう命掛けで問い詰めるシェド。


これを引きずるようにして、ラーズとランドは

笑いながら詰め所を後にした。

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