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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
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サイアスの千日物語 百四十一日目 その十三

自称イケメンズを観覧席へと追い払い

絡繰(からくり)戦、三度目の正直に挑んだシェドは、

果たして、三度ぶっ飛ばされていた。


「ぬぅぅ、せぬ、解せぬぞぉお!!」


大いに吠えて不服をアピールするシェド。



「いや解せるだろ。

 攻め手がへっぽこなだけじゃねぇか」



と笑う自称イケメンズ。

内心舌を巻いていた。



これまでの三戦は結果自体は同じものの、

一戦目より二戦目、二戦目より三戦目。

確実に倒れている時間が短くなっていた。


どうやらシェドは絡繰の一撃を喰らう度に

「喰らい方」を学習しているらしかった。


多対多或いは多対一の乱戦となる実戦において

どう足掻いても攻撃の避けきれぬ状況は多い。


そうした際に活きるのが次善策たる被弾の仕方

であり、装甲の硬い部分で受けるよう努めたり

敢えてバランスを崩すことで勢いを逃がしたり

とあの手この手の余地があった。


シェドはどうやらその方面に天賦てんぷの才を

有しているのではないか。自称イケメンズは

そう感じ始めていたのだった。





「回避はとうに一流だ。盾の構えも

 様になってきてる。あとは攻めの問題だな」


と自称イケメンズの一人は言う。


名はレクサス。

デレクの供回りの一人であった。



「シェドさんの剣術技能は2ですね。

 習い覚えた技を実戦で卒なく出せる水準です」



そう語るのは参謀部よりの軍師。


技能値1は基本を一通り習得した程度。

2は実戦状況下でもそれを出せる程度。



「ワザが出せても自力で当てるにゃ

 さらに別のワザが要るって話だ」



素手含め、凡そ全ての近接武器の操法は

専ら三段階の習得過程を持つ。


まずは足を止めた状態で武器を精確に振るう。

次に足捌きを絡め移動しながら精確に振るう。

該当武器の基本技術全てでこれができれば

晴れて技能値1という事になる。


技能値2はそれらの基本技を卒なく実戦で

出せる状態を指すが、技が出せたからと

いっても敵に当たるとは限らない。


互いに命掛けで機動し回避する状況下でも

安定して命中弾を出せるのが技能値3相当。

概ねそういうことであった。


技能値3へと至るにはまずもって実戦状況での

技能の運用経験が不可欠。膨大な成功と失敗の

繰り返しの中で最適な挙動を選択していく必要

があるからだ。 





「今日は相当いい経験を積めてそうだが

 流石に2を3にするのは無理なんじゃねぇか」


成果としてはここらで十分だろう、

と切り上げ時を示すインプレッサ。


「むぅ、そこを何とかならないっすか!」


しかしシェドはなおも食い下がった。

今日と同じ明日がくるとは限らぬのが荒野。

習得は早い方がいいのは間違いのないところだ。


その意を汲んでかレクサスは


「ならん事はないぞ?

 サイアスは2以下で斬ってるからな」


と一言。サイアスとは武器決めや

北往路の救援でも共に行動していた。



「そこを詳しく!!1!!」


「攻防一体というヤツだな。

 お前ぇに体得できるかは知らんが」


「具体的に!!2!!」


「相変わらず微妙にイラっとくるぜ。

 まぁ何の事はねぇ。攻めも受けも

 一纏めにして同時に出しちまう事だ。

 

 相手の攻撃をバシっと受けた時点で

 こっちぁ崩れちまうんだから、受けて

 後攻め、みたいな二段階じゃ無理なんだ。


 よって一挙動かつ攻防一体。

 攻撃が防御を兼ね、防御が攻撃を兼ねる。

 そういう技の出し方をすりゃいい。


 初陣で所見の相手にいきなりそれを閃く

 おつむはお前ぇにゃ付いてなさそうだが

 既に三度もガチった後だ。一つや二つ

 うっかり思いつくんじゃねぇか?」



レクサスの示唆にシェドはすぐ応じた。



「クロスカウンター!!」


「ハッ、拳闘かよ。まぁご明察だ」


「……するとうちの歌姫閣下は

 化け物相手の初陣でそげな

 無茶しよったんか……」


「うむ。クソ度胸にも程がある。

 最早笑うしかねぇ感じだな」


「大ヒル相手にもやってたからな。

 盛大にぶっ飛ばされてたが」


「ほへー…… まぁえぇわぃ!

 電球ピコンってするまでやったらぁ!!」


「ハハハ。その意気だ」



レクサスや自称イケメンズをはじめ

その場の皆が頼もしげに笑っていた。


そしてシェドは四度目に挑み、

またしてもぶっ飛ばされるのであった。





「ぬぅぅ解せぬ解せぬ解せぬぅう!!」


例によって吠えるシェド。


「解せぬのぁこっちだぜ。

 お前なんでそんなピンピンしてんだよ」


と自称イケメンズ。


シェトは四度目に吹っ飛ばされた際、

宙でくるりと態勢を整え地に転がって即

何事もなかったの如くに立ち上がっていた。



「何か慣れちまったっす!」


としゃあしゃあとシェド。


「マジかよ……」


と呆れ笑うインプレッサ。



「コツは喰らう直前に浮く事っすね!」


「ジャンプして受けるのか?」


「いあ、足は地に付けたままフライハイ!」


「何だそりゃ…… まさか浮身か?

 んな達人の爺さんじゃあるまいに」



レクサスもまた苦笑していた。


浮身、消力、化勁、軽身功。そうした技巧が

あるとは聞き知っているものの、習得には

何十年と掛かる筈。如何な荒野とて即時に

習得とはいかぬ筈だ。どうやら天賦の才で

間違いないらしい。そうレクサスらは判断した。


「まぁ怪我の心配がなくなったのぁ良い事だ。

 折角だから思う存分やっとけば?」


とインプレッサ。


「そうするっす!」


とシェドはさらに一戦。そして

さらにブッ飛び後何食わぬ声で


「っとそろそろ晩飯どきか。

 俺っち居残るわ。二人は戻ってけろ!」


と観覧席に声を掛けた。が



「ラーズとランドなら居ねぇぞ。

 三戦目辺りで引き揚げてたな」



と自称イケメンズ。



「ファッ!? 薄情モンかよ!?」


「戻って良いんじゃねぇのかよ」


「勝手に行くのはあかんねん!」


「めんどくせぇなおぃ」



シェドのお困り様な吠えっぷりに

自称イケメンズらは失笑していた。





「くそぅ、俺っちも飯にしよかな……」


とテンションだだ下がりのシェド。



「何いってんだ諦めるなネバーギブアップ!」


「できるできるお前ならできる!」



自称イケメンズは熱く励ました。


「そうかも知れん! やったらぁ!!」


再び気合を入れなおすシェド。

こうした明るさもまた天賦の才であった。



都合8度シェドは挑み、その都度派手に

ぶっ飛ばされた。そして9度目、ついに

できそこないの絡繰へと一撃を決めた。


その一撃が実戦でどの程度の威力や

効能と成り得るか、それは判らない。


だがこの一撃は間違いなくシェドにとり

何物にも換え難い自信と成り、一個の戦士

として一段高みに上った実感とも相成った

のであった。

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