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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
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サイアスの千日物語 百四十一日目 その十

戦技研究所には参謀部より軍師と祈祷士が

最低1名ずつ当直として出向している。


他には機器の調整を行う資材部の人手や

施設自体の運営を支援する非戦闘員。そこに

各戦隊の教導隊や第四戦隊の古参などが臨機に

参画し常に30名程が詰める格好となっている。


プレオープンで手空きの者が多かった事もあり、

自称イケメンズやラーズら以外にも結構な数が

戦闘を見物しており、うち祈祷士がすぐ

中央部に下りてシェドの容態を確認した。


「四肢欠損なし、外観に異常なし。

 脈拍正常、総じて目立った負傷は……」


次いで祈祷士はうつ伏せに転がっていた

シェドを裏返し、頭部を守るこれだけは

実戦用なサリットを外して驚愕した。


「うっ、これは酷い……

 顔の下半分が膨張し捩れている。

 瞳孔は開きっぱなしだ。おい君大丈夫か!」


祈祷士はシェドを慎重に安置しつつも

声を掛け、即刻回復祈祷の詠唱を



「あー、それお面なんだわ。

 すまねぇな……」



しようとしてむせた。


ラーズの言の通り、

祈祷士の目撃したものは火男面。



「……えっ、何?

 お面付けたままメット?」


「いくら半ヘルとはいえ、

 それは流石にどうなんだ……」



自称イケメンズは早速ツッコミを入れた。


サリットは帽子や腕の蓋に似た形状で、

目深に被りバイザーを降ろすと丁度口辺り

までを守る。下半分は首に装備した別体の

パーツで守る、丁度逆さにした吸い物の腕

のような姿だ。


兜はもとより内部へ衝撃を伝えぬため

緩衝材が詰められたり空隙が取られたりと

比較的余裕のある構造だが、それでも面を

付けたまま被るのは如何なものかと思われた。


一方戦闘用の着付けを手伝ったランドとしては


「常にその状態なので

 特に気にしてなかったなぁ」


と反応に苦しむコメントを。


とまれ状態を確認せねば、と気を取り直した

祈祷士がお面を剥ぎ取りに掛かると当の

シェドがそれを制止した。


「ぁ、いや大丈夫す……

 怪我とかないんで…… 平気っす」


実に派手にぶっ飛ばされロクに受身も

取れなかったものの、厚手のアクトンが

存分に機能し総じて無事であるようだ。


シェドはむくりと身を起こし中腰になった。

だがさらに起き上がろうとした姿勢のまま、

俯き固まり、それ以上動こうとはしなかった。





俺は負けた。

負けて死んだんだ。


実戦なら今頃きっとグチャグチャと

派手に喰い散らかされてるに違いない。


生か死か。喰うか喰われるか。


間接的とはいえ伝令として他隊の戦況や

死傷に接しており、荒野の戦における

敗北の重みをいたく痛感するシェドは

すっかり消沈しきっていた。が


「何だシェド。泣いてんのか?」


と苦笑交じりに声を掛けられ


「な、泣いてねぇし!」


と涙声で返じ、今のは違う

泣きべそじゃねぇから! と

騒がしく弁明しつつ立ち上がった。



「こんなんそのうち勝つし!

 俺っち華麗に必殺するし!

 オラなんぼでも掛かってこいや!」



そうだ。そもそも泣いて済むような

ヌルい話でもなかったぜ。それに俺にだって

大事なものや守るべき事はあるんだ、とシェド。


すぐに普段のテンションに立ち戻り吠えた。



「うむうむ。よきかなよきかな」



伝令なのだから負けても仕方ない、などと

言い訳したら速攻張り倒すつもりだった

自称イケメンズ。今は揃って腕組みし頷いていた。





「まぁ実戦じゃ一人の時は全力で逃げれ」


未だ中央部より退かぬシェドに

自称イケメンズらは助言を開始した。


シェドの記憶にあるか否かは別として

同様の事は訓練課程でも聞かされていた。


単体として格上な異形が徒党を組み、

陣形を敷き戦術を駆使して攻めてくる。

それが荒野の戦なのだ。


強者がなお数でもしてくるというのに

弱者が一致団結せずしてどうするのか。

羽牙に倣ってさっさと退き、味方と合流して

再起を図るのが正解。そういう戦術であった。



「うむ。ここでの戦闘はソロ厳禁だ。

 例外は城砦騎士だけだぜ! まぁ

 デレクの野郎は誰より早く逃げるけどな……」



デレクの供回りな一人がそう語り、

イケメンズは揃って苦い顔をした。



「お前んとこの親玉は色々アレだがそれでも

 流石に一人っきりで突っ込む事はしない、

 筈だ、と思いたいがどうだろう……」


「まぁとにかく気にすんな!

 本番で勝てばよかろうなのだ!」



そんな感じで励ましたのち、

自称イケメンズらは技術的な

教導へと移行した。





「シェドよ。お前の戦闘適性は間違いなく

 舞闘士トレアドールだ。いわゆる回避盾ってヤツだな。


 だが相手が雌だと向こうさんの方で

 お前ぇを回避しちまうから使えねぇ。


 ある意味最強の護身術だけどなぁ」


「もぉやめて!

 俺っちのライフはとっくにゼロよ!!」



シェドは敗戦より堪えた風に絶叫した。


シェドは今は中央部の壁よりに。

降りてきた自称イケメンズらと合流し

直接指導を受けていた。



「回避技能は本物だ。そいつぁ

 そのまま磨きゃいいとして」


「盾の扱いが余りにお粗末だったな」


「うむ。完全に技能値ゼロって感じだったぜ」



そう告げると自称イケメンズらは職員に

声を掛け、職員はシェドが用いたのと

同じ盾を数枚用意し戻ってきた。



「一口に盾っつっても色々種類があるし

 一戦隊の使うデカくて重いのはまた

 違った用法になるからいとくとして」



イケメンズはシェドに盾を手渡し、

同様に自身も手に取った。



「今回は拳盾バックラー円盾ホプロンといった

 比較的小振りなヤツの扱いについてだ。


 この手の盾を使うコツのまずは一点目は

 ズバリ、『身体から遠ざける』って事だ。


 見ての通り小振りの盾ってのは面積が小さい。

 身体に密着させちまうと盾の裏面なごく狭い

 範囲しか守れないんだよ。


 そんな状態でいちいち盾の無い場所を

 狙われたら追っつかないぜ。端から

 ブン回すように出来てる武器と違って

 盾は重くて嵩張かさばるからなぁ」



イケメンズはシェドに盾を身体に引き付けて

構えさせ、盾の無い部位を攻撃する振りをした。

シェドはこれに応じようと盾を動かし、直ぐに

腕が引きつって反応が追いつかなくなった。


片手で扱う武器は膂力1相当の重さに抑えられ、

かつ重心を調整することで実重量より軽く

扱えるように工夫されている。


だが盾は重さも性能に利する向きがある。

ゆえに小振りな拳盾で剣と同等かより重く、

一戦隊の重盾ともなれば膂力2相当以上。

並の者では構える事すらままならぬ代物だ。



「よって盾は敵目掛け

 可能な限り付き出して構える。


 こうする事で盾の背後に

 手広く安全圏を確保するんだ。


 気持ち的にゃ盾ってのは

 受け止めるもんじゃない。

 当てにいくもんなんだよ。

 

 敵の攻撃ってのぁ基本、こっちの身体を

 狙ってくる。こっちの身体に当たる時点が

 最大効力になってるわけだ。


 だから自身目掛け飛んでくる攻め手の途上、

 いまだ未完成な状態に盾をブチ当てる事で

 潰しちまうっていう意味合いもあるな。 


 さらに盾そのもので敵を潰しちまえば

 一石二鳥というヤツだ。要は意識的に攻勢。

 盾は守りより攻めのためってのが正解だ。


 お前もさっきは攻めに繋げるために盾を

 使おうとしてたな。そいつぁ正解なんだが

 身体に引きつけ待ち受けるのぁマズかった。


 こいつがまずは一点目ってとこだ」

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