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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
935/1317

サイアスの千日物語 百四十一日目 その七

「ご期待に応えて3つ目のコースいくぜ!」


自称イケメンズの一人はやたら気合を入れた。



「ココの目的は戦技の研究だ。んで

 その戦技ってのは人相手のモノじゃない。

 人よりでかくより強い対化物戦闘用って事。


 荒野の異形とやりあってちゃんと

『使える』もんでなきゃ意味ねぇんでな。

 まずもって異形連中のなりうごきを研究

 せにゃならんわけだ。


 これまでそこらは参謀部主導でやってた

 んだが、今後はここでやる事になった。


 んでその成果として異形連中の形と動きを

 再現した絡繰からくりを順次こさえ中だ。そんで

 そいつといっちょバトりましょうってのが

 お待ちかね、第三のコースだ。


『アグレッサーコース』って名前だぜ」



そう語り、自称イケメンズは

揃いのポーズでビシリとキメた。



「うひょぉ! 何それカッケェ……!!」



ポージングには一家言あるシェドとしては

これに反応せぬというわけにはいかず。


驚きすざりとさがりつつ

カ・ブゥキのポーズをキメてみせた。

曰く「カ・ブゥキの裏」との事だった。





「現場が実戦データを参謀部に上げて

 軍師らが分析。その後参謀部から

 各戦隊にフィードバック。


 その上で各戦隊の教導隊が対応対策し

 巡回指導してようやく現場で運用……

 ってのはぶっちゃけめんどいんでな!


 現場兵士も軍師も教導隊もここに集め

 ついでに資材部もぶち込んで闇鍋っちまう。


 そんでそこのそいつとかが腕によりをかけ

 びっくりどっきりメカをこさえるって寸法だ」


自称イケメンズの一人が

笑って顎でランドを示した。


これを受け、ランドは



「現状こちらで納品済みなのは

『できそこない』『羽牙』『鑷頭じょうず』の3種。


 このうち『鑷頭』は以前サイアスさんが

 一戦隊教導隊に招かれて特殊技を披露した

 際に使用された仕掛けを再調整したものだよ」



と補足。



「ほほぅ、するってぇとアレか。

 訓練課程の時の、盾でくるくると」



随分懐かしいな、などとラーズは

初めてサイアスらと共闘した北城門前での

魚人や鑷頭との戦闘を思い出していた。



今にして思えば。いくら宴の前とは言えど

あの位置まで魚人や鑷頭が押し寄せてくる

のは異例中の異例であったのだろう。


当日の訓練を担当していたオッピドゥスも

随分と驚いていた事を憶えている。


つまるところ。あの頃から。

未だ漠然とではあろうがサイアスは

奸智公爵に目を付けられていたのだろう。


まったく、英雄色を好むというが……

とラーズはグウィディオン戦の後と同じ

感想を抱き、心中苦笑した。



一方そんな事はつゆ知らずな

自称イケメンズは相槌を打って



「『サイアスロール』だな。

 一戦隊バージョンもあるらしいぜ」



と一言。


サイアスの件の技は第一戦隊教導隊により

重甲冑と大盾の組み合わせでも使えるよう

横回転に改良されて精鋭らに教示されていた。



「『サイアスロール一戦隊カスタム』?

 ……うぉお、かっけぇやん!


 俺っちも何か編み出すか!!」



必殺技は声に出して使うべき、との持論を

強く有するシェドとしては、ポーズだけでなく

必殺技の習得も急務であった。


心中の苦笑が一気に霧散したラーズは



「『フライングドゲザ饅頭まんじゅうガニスペシャル』

 とかか? 誰も使えねぇし使わねぇだろ……」



と実に失笑。


「悪意に満ちたネーミングやめーや!」


シェドはこれに大いに抗議した。





「まぁ話をアグレッサーコースに戻すとだ。


 現状対戦できるのはランドの言った

 できそこない、羽牙、鑷頭の3種のみ。

 基本1体で羽牙のみ3体同時相手になる。


 参加人数は1名のみ。それと大前提として

 戦技研究なんでな。戦力指数で勝ってる

 相手としかやれないぞ。


 参考値として下から順に、

 できそこないが3。羽牙は単品は2だが

 3体セットなので7って事になる。あと

 鑷頭は最低7だが割と個体差があってな。

 ここじゃ9として調整してある。


 要するにアグレッサーコースは戦力指数が

 3を上回る城砦兵士長以上向けって事。

 うち鑷頭は城砦騎士用って事になるな」



平原で店員を務めていた経験でもあるものか、

やたら熱心に接客対応を務める自称イケメンズ。


うち軍師の目持ちな一人が三人衆を

覗き込むようにして暫し黙考し、



「お前らの場合…… ふむ。

 ランドとシェドはできそこないまで。

 ラーズは羽牙までOKだ。


 まぁ今はプレオープンなキャンペーン中だ。

 希望とあらばどれでも好きなの選んでいいぜ」



と語った。


さらに別の兵士が引き継いで



「安全にゃ細心の注意を払ってあるから

 こいつで怪我するような事はそう無い筈だ。

 つっても転倒して自爆とかは知らんぞ!

 

 そいでだな。荒野の戦ってのぁ基本、

 喰うか食われるかだ。敗北は死を意味する。

 ま、んな事ぁもうとっくに知ってるよな。


 なので命の代価を積んで貰う。

 荒野で命の次に大事なモンと言や勲功だ。

 愛だの恋だのは俺らにゃ関係ねぇからな……」



フ、と物哀しげに溜息をつき

首を振る自称イケメンズ。



「認めん! 俺っちは認めんぞぉ!!」


「現実逃避か? 大人になれよ」


「受け入れろ小僧」


「くそぅ、ちくしょぉぉおお!!」



何やら激しく傷の舐めあいであった。





「まぁとにかく、だ。

 アグレッサーコースは一日1回まで。

 かつ勲功100点前払いで頂戴する。


 勝負は1本先取。勝てば眷族の戦力指数を

 掛けて払い戻しだ。できそこない戦なら

 負ければ収支がマイナス100点。

 勝てばプラス200点ってこったな。


 この方が気合も入るってもんだろ」


古参兵士な一人がニマリとそう語った。



荒野の異形、眷族らは人より常に強大な存在

であるため、騎士団の軍務では撃破はことさら

必須とはされていなかった。


逆に撃破した場合は勲功授与の対象となった。

その際一般種であれば対象の戦力指数掛ける

200点。大物ほど掛ける勲功値が大きく

跳ね上がることとなっていた。



「確かに! 一攫いっかく千金チャンス!!」


声を弾ませ応じるシェド。


「よっしゃ! んじゃ早速やってみるか?」


との言には


「4つ目のコース聞いてからで!」


としたたかに。


「おぅおぅ、しっかりしてんなぁ!」


と自称イケメンズらは笑い、

最後のコースの説明をはじめた。

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