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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
933/1317

サイアスの千日物語 百四十一日目 その五

サイアス邸で一家と肉娘衆が軍議半分

雑談半分な茶会を催していた頃。


サイアス小隊の誇る名物三人衆は

内郭北西区画のさらに北区画。

通称「北町」を訪れていた。


右に弦を持つ半月を右に傾けた形状な

内郭北西区画は再開発によって北と中央

そして南の三つに区画整備されており、

うち北町とは職人と工兵の居住区であった。


新設された居宅への資材部関係者の引越しは

順調で、随所に彼らのための施設も登場し

始めていた。それらの大半は各戦隊営舎でも

見られるものだが、中にはこの北町独自の

ものもある。それは「弁当屋」であった。



第三戦隊に所属する非戦闘員のうち工兵は

他兵士のように城外出動する機会こそ少ない

ものの、城内においては随所に出張って

日々多岐に渡る工務にたずさわっている。


中央城砦は外郭の一辺が800オッピと

出鱈目に広く、一旦出先で作業を始めたならば

気軽に現場を離れどこぞの営舎の食堂へとは

なかなかいかぬもの。


そも作業の興が乗ると寝食を忘れ没頭する

職人気質の者も多いため、ついつい飲食が

ないがしろとされ易い。


それを避けるべく出来たのがこの弁当屋だ。

工兵らは資材部または食堂のある施設、以外で

作業を請け負った際、ここに寄るか或いは連絡

を入れて弁当と水筒を届けて貰う事になる。


これらは工兵弁当、または北町弁当と呼ばれ

創業間もない現時点で既に結構な好評を博して

おり、物見高い三人衆としては是非自らの舌で

これを試してやろうという次第であった。





丁度昼下がり。店側としては忙しさの

ひと段落した頃合だった事もあり、

三人衆はためつすがめつメニューを検め

それぞれ望みの品を注文する事ができた。


それぞれ木の皮や廃材を加工した包みや

箱に入っており、量は程々味付けは濃い目。

保ちや持ち運びに気を遣っているようだった。



「からスペは衣がしっとり系やな!

 味はおkじゃが輪切りレモンは不要!」



鳥、らしきものの唐揚げがこれでもかと

ゴロゴロなスペシャル弁当を堪能し

満更でもないシェド。



「のりスペはおかずがとても豊富だよ。

 反面ご飯が少ないような。大盛り必須かも」



海苔のみならず魚、らしきものの唐揚げ等

多岐に渡る具材がひしめくスペシャル弁当を

にこやかに食すランド。



「俺の頼んだ、きたスペってのぁ

 どうやら日替わり弁当の事らしい。


 今日のは茄子と挽肉、らしきものの

 味噌炒めに特大の出汁巻きだ。

 出汁巻きは四戦隊のとは随分違う味だな」



品名ではなく一番人気をくれ、と頼んだ

ラーズが得たのは北町スペシャル弁当。

おかずが日替わりなため特に好評らしかった。


三人衆は弁当屋から程近い、非番の人出が

ちらほらと見られる公園、らしき辺りの

ベンチに陣取って、あぁだこぅだと寸評を

施しつつめいめい弁当を堪能した。そして。



「喰うもん喰ったら眠くなってきたべや」



幾らかのベンチに囲まれる格好の

生い茂った寝心地良さげな草地の手前。


「立ち入り注意」の札の前にて

暫し小首を傾げるシェド。


突如ゴロリと寝転んで

寝返りで草地へと雪崩れ込んだ。



「んー。そういえば後数時間で夕食だよね」


周囲の人出が噴き出す中、特に動じず

シェドをぼーっと眺めるランド。


「そうだな。まぁ大将が起きてればだが」


とこちらも同様のラーズ。



突如ぼちゃんとシェドが沈んだ。


生い茂った草地の正体とは

水草たっぷりの貯水池だった。


深さは膝下程度なものの

寝転び雪崩れ込んでは是非もなし。


ぶほぁ。と呻いて盛大に、池の主の如く

跳ねて地に落ちビチビチするシェド。


周囲も二人も堪らず抱腹絶倒する羽目になった。





「はー苦し…… さてと。

 じゃあちょっと腹ごなしでもしに行く?」


食事直後に盛大に笑わされ

大変な目にあったランドは言った。


「ふむ、馬にでも乗るのか?」


とこちらも同様のラーズ。


「いや戦技研究所だね」


未だ半笑いでランドは答えた。


「おっ。もう使えるのけ?」


先刻身を以て爆笑を得た

水も滴る佳い面の皮なシェド。


「一通り準備は済んでるはずだけど」


施工に一枚噛んでいたらしき

ランドがそう応じた。


「ほぅ、じゃあ覗いてみるか」


とラーズ。そういう事になった。



北町の北寄りにある弁当屋から

南を目指しまったり歩いて5、6分。

三人衆は内郭北西区画の中央部へ至った。


中央部は三分された内郭北西区画のうちで

最も広く、全てが第四戦隊の敷地となっていた。


この中央部はさらに東西に三分されており

最も西手が広々とした馬場。その東手、

中央部の南2割程が厩舎だ。


厩舎の北手、中央部全体の3割程は広場と

なっており、その北側、中央部の半分程が

新設の戦技研究所であった。


戦技研究所は資材置き場をも兼ねていた

四戦隊兵士用の練兵所を拡張する形で

建てられていた。


元々練兵所の周囲の空き地には臨時の

訓練施設が仮設される事が多く、例えば

先だっての宴の折には南西丘陵に在る

魔軍の拠点の攻略を見込んだ閉所戦闘用の

箱物が組まれていた。


戦技研究所はそうした敷地を手広く占有し

仮設されていた施設を全て取り込む形で出来た

大箱だった。大きさは四戦隊営舎と同程度。


もっとも四戦隊営舎は厩務員はじめ

今後の増員にも対応できるよう、西手に

一棟追加しさらに大型化していた。


追加棟は営舎南側、食堂で本来の営舎と接合。

これにて四戦隊営舎の形状は俯瞰すれば「〆」

似通う格好となっていた。





「いらっしゃいまし!

 戦技研究所へようこそ!」


中に入るや居酒屋風の声が。

見れば数名の人手が受付にたむろし

のこのこやって来た三人衆を待ち構えていた。


皆愛想は良いが人相は悪い。

第四戦隊の古参な男性兵士らであった。


「ぉ、どもーっす! 何やってんスか!?」


と負けじと快活に挨拶するシェド。

こちらも愛想は良いが人相は火男だ。



「そらもぅバイトよ。てかお前何で湿っ」


「おぉっとそぃつぁ聞かねぇ約束なのぜ!」


「お、おぅ、そうか……」



後で残り二人に聞きゃいいや、今バイトだし。

と頷く職務に忠実な強面の古参兵士。

すかさず別の物騒な兵士が対応を引き継いで



「ここはその名の通り戦技、すなわち

 戦闘技能の研究なんかをやる施設だ。


 つっても研究するモノがモノだ。

 派手に暴れてナンボってトコだろ?


 なのでエンジョイ&エキサイティンな

 趣向を凝らした数々のアトラクションで

 スペシャルにおもてなしって訳よ。


 資材部に参謀部、各戦隊の教導隊に

 俺ら四戦隊のヒマヒマーなイケメンズが

 ここのスタッフだ。手取り足取り色々

 やさすぃく教ぇてあ・げ・る☆」



と激しくウィンクした。



「うげぇー! 何じゃそら!

 そんなんお姉ちゃんズの仕事やろ!!

 チェンジッ! チェンジを要求する!!」



シェドは両膝を付き両腕を振り上げて

反り返るように絶叫した。彼の愛読書による

プラ・トゥーンのポーズであった。



「っるせぇーぞクソガキャ!

 荒野の女にんな愛想あるわきゃねぇだろ!

 ヤツらのスマイルぁ血ぃ見た時だけぞ!!」



血を吐くように絶叫で返す別の兵士。

まさに魂の叫びであった。



「くそっ! 何て世界だ!!」



プラ・トゥーンの姿勢から一気にガバリと

前のめり、頭を抱え悶えるシェド。



「受け入れろ小僧、これが荒野だ」



冷徹に響く別の古参兵士の声。

つまりはそういう事であった。

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