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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
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サイアスの千日物語 百四十一日目 その二

比類なき美貌びぼうに美声をも、との

たまさか稀有な付帯条件を伴うものの。


ネコミミ付けてニャーニャーわめくだけで

人攫ひとさらいができてしまうその荒唐無稽こうとうむけい振り。


すなわち高い魔力を有する者特有の危険性を

知らしめ、退役者をアウクシリウムに囲い込み

けっして騎士団領の外へは出さぬよう図る、

騎士団や連合軍による施策の正当性を証明する

格好ともなった、先日の一件。


いわゆる「にゃーにゃー症候群」について、

「地獄のねんねこにゃー」なるげに恐ろしげな

異名をも得たサイアスとその一家及び肉娘衆は

茶会ついでに話し合っていた。





「はっきり言ってアレはヤヴァいです。

 何度でも鼻血ブーする自信があります!」


と肉娘のうち美人隊に属するアクラ。


女シェドとの不名誉極まる仇名がうっかり

異名にならぬよう、全力で真面目振りを

アピールする、その最中の悲喜劇であった。



「ただ…… もしも閣下と同じ事を

 あのど腐れ饅頭ガニがやったなら、

 きっと殺意しか沸かないでしょうね」



と別の肉娘。


ややしっとりした口調のその言には

邸内の女子一同が揃って深々と頷いた。


「ならそちらで上書きすれば対症療法に?」


とサイアスが自称、名案を。



「それは流石に無慈悲過ぎるでしょう!?」


「荒野に慈悲はない」


「ハイク読めないから!

 カイシャクしないで!!」


「じゃあ…… 回数こなして慣れる?」


「そ、それは鼻血が足りなくなる……

 肉を! もっと肉を食べなくては!!」


「肉さえ食べられれば何でもよさそうだね」


「否定はしません!!」



矢継ぎ早に兵団長閣下と応酬する

アクラ及び肉娘衆であった。


一日4食メガ盛り放題な一戦隊を離れ

四戦隊の食生活にすっかり慣れた肉娘衆

ではあったが、本能的に肉を求める点は

けして変わる事がなかった。



「そうなると……

 矢張りマナサ様の再教育が一番か」


「ひぇっ…… まさかウチらまで!?」


「今回は新規補充分で手一杯かな」


「ですよねですよねっ!

 危ないとこだった……」



心底ほっと胸撫で下ろす肉娘らであった。





表面上は斯様に和やかかつおふざけだが、

本題としては概ね以下の通りであった。



兵団長による兵団員の融通という表向きの

正当性により一応笑い話で済んではいるが。


高魔力と言えど魔そのものではないサイアス

に出来る事は、魔そのものにも当然可能だろう。


大口手足増し増しやハイランダーといった

上位眷族と呼ばれる一部の異形らさえも

心攻の類を用いる事からいっても、兵士を

大物相手で用いる危険性が再認識されていた。


そして城砦騎士団戦闘員に対してはまず精神。

恐怖に屈さず心攻に揺らがぬ不動の精神を要

として育成すべきだとの見解が多数派となった。


特務を担う都合上他戦隊よりも大物と対峙する

機会の多い第四戦隊としては特にそうであった。


よってマナサのために抜擢ばってきされた20名に

関しては、その辺りを重視した再教育を

あのシェドを一通りは使える伝令に仕上げた

実績のあるマナサ自身の手でおこなって貰おう、

とまぁそういう方針と相成ったのであった。



「その20名はいつ合流するの?」


とニティヤ。


昨日のは言わば「挨拶回り」であった。



「実際の抜擢は来る合同作戦後となる。

 その辺も踏まえ多少多目にしておいた」



要は戦死で目減りする分を見越しての

補充数だとサイアスは語った。



「成程…… ところで。

 女ばかりではないのよね」



微笑むも目が笑っていないニティヤ。

嫁御衆全てがそうであった。



「勿論だ。魔笛作戦で一度以上

 実際に用いた兵から選んでいる。


 ただ既に他戦隊の精鋭部隊に

 所属している者らは遠慮したよ。


 私としても『ラング☆レンヤ』

 辺りは是非欲しかったんだけどね」


「あはは、あの二人いいコンビよね」



やや肩を竦めて語るサイアスに

笑って応じるロイエであった。


第一戦隊精兵衆のラングレン。

第二戦隊抜刀隊二番隊組長レンヤ。


いずれも魔笛作戦ではロイエ中隊に属し

抜群の働きを成していた。


「彼らはいわゆる騎士級だからね。

 ゆくゆくは城砦騎士になるんじゃないかな」


とサイアス。


だからこそ当小隊に相応しいのだが

流石に無体というものだ、と苦笑していた。





マナサ率いる特務中隊が成立するには

マナサ含め構成員が30名必要となる。

現状18名。20名採るなら或いはと、


「当小隊への補充に関しては如何ですか?」


ディードが然様さように問い掛けた。


これに対しサイアスは


「仮に20名全てが存命であった場合、

 飛兵を2名ほどこちらに貰おうかと」


と即応じた。


現状サイアス小隊で弓を扱えるのは

ラーズとロイエのみであった。


真の飛兵たる「魔弾」のラーズは

その技量が達人を凌駕し神仙の域に

あるが、それでも唯一人。


ロイエも一流の腕を有するものの

切り込みと兼務であり、しかもどちらも

指揮官としての役目をも担う事になる。


ゆえに弓に専従する飛兵の補充は

頗る妥当な線であり


「成程、良案かと存じます」


とディードやクリームヒルトは頷いていた。



「候補者20名は各戦隊に散っている。

 次の作戦でその全てを私が率いる事は

 ないし、皆一線級だから最前線に出る。

 うまく残るかは武運次第だね……」



サイアスはやや目を細めそう語った。


連合軍との合同作戦だという時点で、

騎士団の担う役目が囮となるのは自明。

最前線で異形相手に囮を務めたなら

総じて生還は困難となるのもまた自明。


「次の作戦の内容については

 もう通達があったのかしら?」


とニティヤ。


「何でも防諜のためだとかで。

 私の下へは直前までなかなか

 情報が降りてこないのだけれど」


サイアスはそう告げるも頷きを返し


「西か北のいずれかになるだろうね」


書状と戦域図を取り出した。

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