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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
929/1317

サイアスの千日物語 百四十一日目

某戦隊営舎の某所で発生しまたたく間に蔓延まんえん

猛威を振るったにゃーにゃー症候群。


この原因不明の、否原因は至極判然たる

極めて感染性の高い症候群も、一夜明け

一応の収束を向かえた頃。


第三時間区分半ばをやや下った午後4時過ぎ。


第四戦隊営舎内、サイアス邸公邸側広間では

昨日のパンデミックなぞついぞ素知らぬ風情

でもって、一家及び肉娘による午後の茶会、

らしきものがもよおされていた。


茶会の中で話題となるのは専ら来る再編成の件。

先日と真逆の小隊員「補充」についてであった。





先日筋肉舞踏祭開始前に騎士団長御自らが

いみじくものたもうたように、来る合同作戦

の顛末の後、騎士団は全的な再編成に入る。


そのためまずは参謀部が先行してあれこれと

画策を進めてはいたのだが、再編への有用性を

追求する余り、多分に強権的な傾向が見られた。


元より参謀部は騎士団内部の二大組織すなわち

兵団と騎士会のいずれにも属していない。所謂

騎士団上層部ですらない。


中央塔付属参謀部の名称からも自明だが、

中央塔を所領として統べる騎士団長の擁する

言わば私的なスタッフの類であった。


城砦騎士相当の階級にある城砦軍師長。

すなわち参謀長たるセラエノであれば諸事を

全的に差配し得る強権を有するが、これは

騎士団上層部としての権能であり飽く迄

セラエノ個人に属するもの。


さらに申さばセラエノとても、軍議の開催と

参謀部への抜擢打診以外の事由でもってこれを

行使する事は、この100年間一度もなかった。





軍は理と利で動いても将兵はそうとは限らない。


かつて100万の大軍勢の運営に携わった

セラエノはこの事を経験則から熟知していた。


ゆえに兵団内で専権する人事に手を出して

薮蛇となる真似は常に敬し遠していたのだった。


そも参謀長代行たる筆頭軍師ルジヌとは

騎士団上層部に属さぬ城砦兵士相当官に過ぎぬ。


彼女がこれに果敢かつ生真面目に取り組むのは、

兵団側の幹部たる将官らが協力的であっても

手に余る、どだいそういう代物だったのだ。


そして将は直に兵と接するがゆえに

軍ではなく兵の側に回る事もある。


結果魔剣を有する赤黒のおじ様たちが

「お話」をしにくる羽目となってしまった。


軍という一個の大家族であっても中に在る

軍師や将、兵士はそれぞれ別個の生を生きる

生き物なのだと本件により重々実感し納得した

軍師ルジヌはこれを受け、先行しての画策を

全て放棄した。


要は全部兵団側へと丸投げする事とした。


結果兵団側は自由と引き換えの責任を満喫する

羽目となり、人事関係者はより一層の修羅場を

甘受せざるを得なくなった。


これで最も割りを喰うのは第三戦隊長代行をも

担う兵団長、は寝まくるので彼の小隊副官にして

管理官、一家の大黒柱でもあるロイエであった。


もっとも当のロイエとしては。兵団長の役職に

係る諸々の案件が二日後で全て途切れる事を

理由として、これらを全部ブッチした。


よって諸方を激しく転がって雪だるま式に

肥大化した諸々の煩雑なる事柄は統べて。


今は平原の所領にある第三戦隊長。城砦の母。

城砦一の苦労人クラニール・ブーク「陛下」

へと向かうのであった。





そう。サイアス同様ブークに対しても

爵位の下賜が進められていた。来る作戦の

顛末てんまつを終えた時点でブークは一段上の位に昇る。


辺境伯はときに侯爵とされる事もある

言わば準公爵の官爵であるため次は公爵に。

城砦騎士団領は王なき国家ゆえ公爵こそ王。

ゆえに呼称は陛下となるのであった。


これにより、別の統治体制を有する東方諸国を

別とすれば、城砦騎士団領は西方諸国連合内では

勿論の事、名実ともに平原第四位の国家となる。


無論これをよく思わぬ者らも居る。

特に平原に戦乱の火種をいや増そうとする

一派などは戦乱の果てに自身らが王侯となる

のが望みであるためほぞを噛むばかり。


よって暗殺をはじめとする深刻で政治的な

破壊工作が懸念されるため、対策を講じる

必要も出てきた。


第四戦隊騎士、元神話級の暗殺者たる

「皆殺しの」マナサが未だ荒野の城砦へと

戻らぬのは、実の所そういう事であった。


彼女はブークやヴァディス、チェルヴェナー

といった連合軍及び騎士団関係の要人の護衛、

ではなく要人の暗殺等を請け負う可能性のある

者らを片っ端に闇から闇へ。現在進行形で

「皆殺し」にしている真っ最中であった。





さてとまれ、かくなる係る事由によって

ロイエが差配するのは飽く迄第四戦隊内の

人事絡みとなっていた。


先だってサイアスとベオルクが詰め所で

交わした会話にもあったように、第四戦隊

では内部に2中隊を常設させる方向での

再編成を企図していた。


2中隊を率いるのは2名の城砦騎士である。

騎士会若手筆頭たるデレクが騎兵中隊を率いる。

そしてデレクと然程変わらぬ歳ながら絶対に

若手扱いはされないマナサが特務中隊を率いる。


そしてサイアスに関しては従来の

「特務隊の中の特務隊」の方針そのままに

平素は単独任務で離脱しがちなマナサの代官

として特務中隊に所属し、同中隊の運営と采配

に注力。他戦隊と連携し作戦に当たる際は

合同部隊の指揮統率を担う。


すなわち大規模戦闘等必要時においてのみ

戦隊長代行たる四戦隊副長ベオルクと同等と

成り対外的な司令官となる。


役職はトリクティアの制度でいうところの

執政官コンスル」や「独裁官ディクタトル」に似る事から、

両者の持つ政戦両略の全的な命令権インペリウムにちなみ

命令者インペリウス」と呼ばれる見通しであった。





さて実質中核を成すとは言えど、形式的には

マナサ中隊に編入となるサイアス小隊としては、

中隊の員数を維持すべく人員の補充を目指す

こととなった。


城砦騎士団の軍制において。

1個中隊は2個小隊以上の兵集団を指す。

1個小隊は最大規模の場合兵18名に加え

主副の指揮官、合わせて20名となる。


中隊は常に小隊より大なため、中隊としては

最低でも30名要る。サイアス小隊は総員で

15名。マナサが現有する供回りは2名のみ。

すべてひっくるめても18名。1小隊規模だ。


よってマナサ率いる特務中隊の設立には

残る12名を何とかして、どこからか

掻っ攫って来なければならない。


過日、宴後の補充兵に対する訓練課程に

教官として出向いたデレクが引き抜いた

人員の大半は、デレク率いる騎兵中隊の

員数となる見込みである。


ゆえにマナサ率いる特務中隊用の増員は

別口で用意せねばならない。さらに特務を

担う性質上相当に尖った才人でなければ

まず勤まらぬという事で、昨日サイアスは

城砦内郭の各戦隊営舎を訪れ状況の説明と

兵員の融通を願い出て回った。





その際に。


嫁御衆、及び詰め所で笑うベオルクやデレクの

全面的な後押しにより、ウケが良いからという

ただそれだけのとても軽い理由でもって。


サイアスは急遽きゅうきょセラエノに貰った

白のローブに着替えさせられた。


そしてニティヤが神がかり的な腕で作成した

ふわっふわでふさっふさなネコミミを装備。

行く先々でにゃーにゃーとにゃんこ語で訴えた。



挿絵(By みてみん)



これがいけなかった。



結果城砦全体で600名は下らぬとされる

サイにゃんファン倶楽部を中心に。

サイアス邸や四戦隊営舎詰め所で猛威を

振るいまくった件のにゃーにゃーが狂気の

感染力をもって拡散し随所で流血沙汰が起きた。


流血沙汰といっても目撃者が鼻血を噴くという

ただそれだけなのだが、回復後暫し言語中枢を

ヤられにゃーにゃーしか言えなくなる者が

圧倒的大多数にのぼった。


各戦隊営舎ではこれは堪らぬと事態を重く観て

自戦隊としても再編で大変だがさっさと帰って

貰わないと戦隊全体が再起不能になりなむとて

誰でもいいから好きなの選べと。


書類や手続きは後回しで良いからと、とにかく

速やかにお引取り頂き、これにより都合20名。

サイアスは兵士長級の、それも大半は女性を

ゲットして、マナサの配下へと加えたのだった。


この一件。

魔をも惑わす美貌びぼうの主が魔力の宿る声で

にゃーにゃーと誘惑する事による大規模かつ深刻な

精神汚染。症状の見聞と治療に訪れた参謀部の

軍師や祈祷士らすら罹患させる、げに恐ろしき

病状を「にゃーにゃー症候群」と呼ぶ。


そして大騒動を巻き起こし

新たな伝説の1ページをつづった魅惑の兵団長。

サイアス・ラインドルフ準爵閣下その人には、

かしこたてまつりて新たなる異名が。すなわち


「地獄のねんねこにゃー」


が与えられる運びとなったのであった。

本話に併載の画像は

Yunika様の2019年の著作物であり、

本画に係る諸権利はIzがこれを有します。

無断転載・二次配布・加工等は禁止致します。

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