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サイアスの千日物語  作者: Iz
第五楽章 最も新しい神話たち
924/1317

サイアスの千日物語 百四十日目 その三

先刻までは鎖に繋がれた物言わぬ鉄塊であった

白のセンチネルに、命宿らせくびきを解き放ち、

自由の翼を与えたランド。


平易で確実な二足歩行実現のための諸々の担保

をかなぐり捨てても常時適宜姿勢制御できる

ランドにはまるで問題なく、白のセンチネルの

佇まいは実に堂に入ったものであった。


今や大なる白騎士とでもいうべき姿となった

白のセンチネルに会場も閲兵の間も大いに

沸き、あらん限りの喝采を送った。


そしてその喝采は一しきりの鳴りを終えていく

中で、徐々に一個の低い、重い哄笑へと

取って代わられた。





「フッフッフ……

 ハァッハッハッハ!!」


奈落より響くが如き哄笑を発するは

舞台の上留まるげに暗きローブの影。


筋骨隆々たる軍師マッシモであった。



「それでこそランド。

 それでこそ我が宿敵ライバル!!

 ならば我輩も全力だッ!!」



言うが早いか黒のセンチネルに乗り込んだ

マッシモは一拍、二拍と沈黙をまもり。


周囲が不審と緊張に満ち満ちて

同様に静まり返るなか、



「ヌゥォオォオオオオァアッ!!」



と狂気に満ちた咆哮を発し、自らを戒める

舞台周辺の支柱からの縄を束ね掴んでその場で

激しく独楽の如く大旋回。ブチブチと縄を全て

引き千切ってはバラリと地に捨てた。


筋肉舞踏ガラール流「マッスルゴーラゥンド」。

かつて大魔たる燦雷侯さんらいこうクヴァシルに

第一戦隊の祖ガラールがキメた大技を再現し



「ヌゥウンッッ!!」



と吠えて背中を見せ、天を支え持つかの

如きポージング。雄大なる黒の巨人による

「バックダブルバイセプス」であった。





白と黒、2機のセンチネルはさながら

乗り手の全てを体現して対峙。見守る観衆は

あらん限りの絶叫でこれに応えた。



「産みの親なランドに関しちゃ

 まぁ判らんでもないんだが……


 一体何だってあのマッチョは

 あそこまで完璧に『乗れて』るんだ?」



閲兵の間で眼下の、そう低くなく遠くない

眼下での二機の巨兵のますらお振りを眺め、

ニタニタしつつも顔をしかめるラーズであった。



「筋肉だ。筋肉が全てを可能にする」



そうおごそかにのたまうのは、座した

センチネルの如き城主オッピドゥス。



「ひょぇえ……

 筋肉さぁしったげどえりゃぁがべし!!

 でらっとたましぽろぎしたぁ……」



と大いに興奮するシェド。


「通訳居ねぇんだから判るようにしゃべれよ」


うつむき気味に肩を揺すって

クツクツと苦笑し、ひょいと傍らの

シェドを見やるラーズ。だが



「!? 居ねぇ…… どこに消えた」



シェドは忽然と姿を消していた。


呆気に取られ数秒硬直し、

やがて主に説明を求めるラーズ。


主たるサイアスは仄かに苦笑しつつ

すぃ、と眼下を、会場を指差した。



「レディース、ェン、マッチョメン!!

 ここから司会はキャプテンブシェドゥだ!!」



会場ではシェドが「カ・ブゥキ」の

ポーズをキメつつ大声で吠えていた。



「あ、あの野郎いつの間に……」


「我慢できなくなったみたいだね。色々」



左右からデネブとクリンの甲冑に

ギュウギュウと挟み込まれていたサイアスも

また圧迫に我慢できなくなったらしく、二人を

座椅子代わりにもたれくつろぎだしていた。





「さぁ筋肉軍師マッシモ操る黒のセンチネルと

 割とマッチョなランド操る白のセンチネル!


 その鉄拳で世界を制すは果たしてどちらか!?

 両者激しく睨みあいを続けております!!」


あっと言う間に観衆と馴染み、

景気よく快活に煽りを入れるシェド。

これもまた間違いなく天賦てんぷの才であった。



敵方へと向き直った黒のセンチネルは

何と右足一本ですらりと立って右手は眼前。

左手は敵前へ緩やかに伸ばして手刀をかたどった。


白のセンチネルは敵を抑えるように伸ばした

二の腕から力を抜き、掌で小さく円を描き、

さながら鶺鴒せきれいの尾の如くに揺らし出した。



「黒と白のエクスタシー!

 白黒付けて勝つのはどっちだッ!?

 

 それでは参りましょう!

 センチネルファイト!!

 レディィイイィ、ゴォオォーッ!!」



吠え喚くシェド、大なる歓声。

こうして2機は激突し、二の丸に

激しき火花と金属音が飛び交った。





「ふぅん? 随分盛り上がったのね!

 それでどうなったのよ」


第四戦隊営舎内、サイアス邸の私邸側中央。

周囲より一段高くなった正方形をした、外観

だけは筋肉舞踏祭の舞台にも似た、内実は

ふかとふわともこを数乗した多量のクッション

に満ちあふれた通称「堕落の間」にて。


ぐにゃりと自堕落の窮みを満喫するサイアスに

のしっと仰向けにもたれつつ、一家の大黒柱

たるロイエがそのように問い掛けた。


筋肉舞踏祭より三日後の早朝。

未だ第一時間区分な午前4時。


舞踏祭より戻ったサイアスは日中派手に

魔術を用いて宙を渡った疲れであったり

閲兵の間にてさんざ飲み食いし祭りを満喫

した疲れから、戻るなり即寝入ってしまった。


その後寝たり醒めたりやっぱり寝たりと

やや断続的ながらも只管寝まくって二日半後。


完全に起きたのは日付的には三日後の深夜で

小一時間ほど前の事。今はゆるりと湯浴みを

終えてデネブが食事の準備を調えるのを

だらりと待っているところであった。


サイアスを連れ帰ったデネブとクリンから、

警護の件や舞踏祭の結果含め一通りの報告は

受けていたロイエ。


一方でサイアスが騎士団長チェルニーから

渡された書状の内容であったり舞踏祭内の

個々の顛末てんまつについては及び知っていなかった。





「それが傑作でね……」


堕落の間全体がふかふかなので枕にされても

居心地抜群なままのサイアスはクスクスと。


「もぅ! 早く言いなさいよぉ」


元来家族愛に飢えていた、私邸側では今や

すっかりべったりなロイエはグルリと裏返り

抱きつきつつさらに問うた。珍しくサイアスを

独り占めできるチャンスでもあった。



「試合開始の合図と同時に

 ランドがいきなり蹴りを出してね。


 拳勝負のはずなのに蹴ったものだから

 反則負け。の筈なんだけどマッシモが

 きっちりガードして負けずに蹴り返して。


 シェドが流れのままにルールを

 ノックアウト制に変えちゃって、

 そのまま両者派手にガチゴチぶつかり

 合ってるところに、我慢できなくなった

 オッピドゥス閣下が飛び入りさ……」



「……ぷっ、あははは!」



ロイエは呆気に取られ、

すぐにサイアス共々笑い出した。



「そこからは閣下対2機のセンチネルだよ。

 ランドとマッシモは合体技を繰り出したり

 と、それはもう頑張ったんだけど。


 結局揃ってぶっ飛ばされ、両方中破。

 勝者はオッピドゥス閣下という事で

 筋肉舞踏祭は終了した。


 もう色々と無茶苦茶だけれど、

 会場の皆は物凄く盛り上がってたよ。

 閲兵の間の私たちもとても楽しめた」



「あはは! 成程!

 それでランドは帰って来なかったのね」



サイアスとロイエはさらに笑い転げていた。



「そうそう。ランドとマッシモ両人に

 特段怪我は無かったのだけれど。


 揃って勝手に改造した上、想定外に

 中破させたセンチネル2機を元の状態に

 戻すまで、現地に軟禁で作業だね。

 流石にもう帰ってきてるのかな」



「昨日の夕方に半べそで帰ってきたらしいわ。

 すぐ部屋に引きこもっちゃったそうだけど。


 まぁファイトマネーと工賃とやらで

 第一戦隊から勲功2万点ほど出てるわよ」



「私のお小遣いからも1万点で

 合わせて3万点というところだね。

 

 反則負けはちょっと頂けないけれど、

 少なくとも大活躍でうちの隊の名を

 上げる役目は果たしてくれた事だし。


 うちからも少し包んでやってくれない?」



ロイエ自慢の金髪を撫で

サイアスはそう頼んでみた。



「んー、それはあんたの心掛け次第ねぇ……」



ロイエはサイアスに上目遣いではにかんだ。



勝利報酬たる8万点は遺憾ながら逃したものの。

こうしてランドはかの一戦にて、4万点もの

勲功を獲得したのであった。

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