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サイアスの千日物語  作者: Iz
第五楽章 最も新しい神話たち
921/1317

サイアスの千日物語 百三十七日目 その十六

ニタニタとご機嫌なオッピドゥスの視線の先。

閲兵の間の北方眼下なる二の丸の会場では

マッシモによる白熱の司会が続いていた。


城砦軍師となるだけあってマッシモは多弁

にして才気煥発。筋肉絡みの言行がやたら

多い以外はすこぶるまともであった。


また一戦隊において筋肉とは軍規以前の常識

であり、肉の話題とは絶対滑らぬ鉄板焼き

もといネタであるため観衆たる兵士らは

満足気に聞き入ってもいた。


だがそうした観衆の余裕は次第に

動揺と引きり笑いに変じていく。


マッシモの背後、舞台の上では今日これまでの

緒戦において好敵手ぶりを遺憾なく発揮した

教導隊と精兵衆、両部隊の長同士が激しく

ガンを飛ばしあっていたからだ。





「『盾(くら)べ』では随分酷い目に遭った。

 最後を勝利で飾り溜飲りゅういんを下げたいところだ」



教導隊の長、城砦騎士ルメールは

苦い顔をしてそう笑った。


筋骨隆々、屈強な肉体だが同時にスラリと

して見える。非常に均整の取れた芸術的な

体躯の持ち主であり、かつ笑顔の爽やかさ

でも知られていた。


四戦隊の騎士デレクと同い年。二戦隊の騎士

にして抜刀隊一番隊組長なミツルギよりも

一つ上な27歳だ。平原の基準で言えば

肉体的なピークに達する頃合と言えた。


性格は素晴らしく生真面目で謹厳実直。

かつ色々破天荒なオッピドゥスの直下

でもあり彼の格技訓練の相手を務めて

無事で済む程の強者でもあった。



「今すぐ奪った食券を返しなさい。

 あの64枚は全て私のものです」



ブラックマッスルズの獲得した第一部の

優勝賞品、その所有権を激しく主張する

元精兵隊副長、城砦騎士ユニカ。


代わりにビューティーフラワーズが得た

準優勝賞品を差し出す気はこれっぽっちも

見当たらなかった。



現状第一戦隊には3個の大隊が常設されている。


一つは戦隊副長セルシウスの率いる「副長大隊」。

員数は200弱。うち50程をガーウェインが

独立機動中隊として率いていた。


一つは城砦騎士シベリウスの率いる「支城大隊」。

かつての精兵隊150のうち100名を城砦の

北東、大小の湿原のくびれに建てられた支城

「ビフレスト」詰めとし、トリクティアが

派遣した正規軍の精鋭をも傘下に加えた

150強の別働軍だ。


残りは戦隊長オッピドゥス直下「主力大隊」だ。

教導隊を核として精兵の残留組や予備隊等

上述以外の全兵士は戦隊長自らの監督下に

置かれていた。



さて元精兵隊副長である城砦騎士ユニカだが、

元精兵隊長たる城砦騎士シベリウスと共に

城砦より北東なる支城ビフレストへは赴かず。


城砦に残留し別働軍扱いとなった精兵50名。

今で言う精兵衆を預かるだけあって心技体の

何れにおいても優秀であり、一戦隊の将らしく

間違いなく謹厳実直。


ただしその一方で一戦隊では稀有なほど

恐ろしく城砦に順応してもいる。要するに

相当なお困り様であった。


ヴァルハラから離れたくない、との

理由で歌陵楼(かりょうろう)赴任を蹴ったくらいだ。

食にかけては徹底して貪欲であり食券は

全て我が物とする勢いだった。





「君が配下から『上納』された

 霜降り肉食べ放題券を供出するなら

 多少の譲渡は考えなくもないが」


あおりに煽りで返すルメール。



「……最早許し難し。

 センチネルを用いるまでもない。

 ヴァルハラで具材になりなさい」



自分が煽るのはよくとも他人に煽られるのは

断じて許さぬという事か、口調は平素と

さして変わらず表情も同じまま。


されどマジギレして剣を抜こうとするユニカ。

供回りはこれを必死に取り押さえ、自身の

食券を差し出してなだめた。



「この場だけは食券に免じて許すとしましょう。

 すぐにその黒い装甲を白塗りにしてあげます」



と食券を確保しつつそうのたまうユニカ。


2機のセンチネルの両拳にはたっぷりと

粘性の高い液状物が塗り込められており、

拳打が精確に相手を捉えればその跡が付く。

これにて勝敗を決せんとの仕掛けであった。



「白い装甲に黒の墨は映えるだろう。

 何なら大きく『肉』と書いて差し上げよう」



キラりと白い歯を見せて

爽やかにそう切り返すルメール。



「流石に二度は許さぬ。

 スープの出汁になるが良い」



再びマジギレして暴れ出すユニカ。

ルメールの供回りもまた止めに入り、

泣く泣く自身の食券を差し出して

機嫌を取り事なきを得た。



「二度ある事は三度ある。

 つまり稀によくある事です」



多数の食券を手に入れて、再び

しれっとそうのたまうユニカ。


案外、否、十中八九。


マジギレして止めに入る配下らに

食券を「上納」させるのが目的

なのかも知れなかった。


見守る400弱は当初こそ苦笑し失笑

していたが、このままでは自身の食券も

狙われるのではと気付き慌てだした。


そこで400弱は薀蓄を心地よくドヤ語る

司会のマッシモにさっさと進めよと目で訴えた。


マッシモはしたりとしてこれを受け、



「さぁ戦闘前から両長の舌戦もヒートアップ!

 だがそれではいけない! 勝負の決着は

 センチネルで付けるべきである!


 教導隊と精兵衆、両隊の名誉を掛け、

 代表の兵士を操主と成していただこう!


 勝者の隊には漏れなく騎士団長閣下より

 城内での特別休暇1日が。さらに

『王家の食堂一日貸切り食べ放題』

 が授与されるぞッ!


 つまり!

 朝から晩まで!

 ただただひたすらに!

 肉が食えるのだッッッ!!!」



と大いに吠えた。




ぉぉおおぉおぉおおぉおおお……




何とも言えぬどよめきが起こり、

両騎士と供回りはさっさと舞台を降りた。


そして操主となる両隊の選抜1名が

梯子をよじ上り、背中よりそれぞれの

センチネルへと乗り込んだ。



「では始めて頂こう!

 レディィイイィイ! ゴォオーーッッ!!」



轟音を立て振り乱され、或いは

火花を散らし弾きあう鉄拳の乱舞。


二の丸は大歓声に包まれた。

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