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サイアスの千日物語  作者: Iz
第五楽章 最も新しい神話たち
919/1317

サイアスの千日物語 百三十七日目 その十四

二の丸の会場、舞台を囲む400弱は

形容し難い驚愕に包まれていた。


血の宴による大破壊を経て信教が廃れ、

復興目指しひた走る当節、巨像の類とは

およそ在り得ぬものだった。


例外中の例外が平原北方、カエリア王国東部

のユミル平原に居する巨人族の末裔まつえいとされる

者らであり、それでも精々常人の5割増しと

いったところであった。


もっとも荒野の城砦に詰める者らは

例外中の例外を知っていた。第一戦隊長、

オッピドゥス・マグナラウタス子爵だ。

彼は人の2倍を優に超える、自身の名より

生まれた単位たる1オッピの背丈を持つ。


非常識だらけな荒野の城砦にあってなお

これが唯一無二。1オッピ大な人型の存在は

平原含め地上には――魔を除いて――存在は

しない、筈であった。


だがどうだろう。


今舞台に屹立きつりつする2体の巨像は

そのオッピドゥスより一回り程大きくはないか。

それこそ黒の月、宴の折に現れた大いなる

魔が一柱たる魔人「闇の御手」の如くに。





総身は金属的な光沢に溢れ、胴部には

ご丁寧にサーコートまで羽織っている。

ある種異様な程整った人型の容貌であった。


一方細部は人と異なる点も多い。まず足だ。

爪先部分がかなり長大で踵は別体と成り

後方へと伸び、その左右に短く補助具が

展開。最も近いのは鳥の足であろうか。


また人に比して肩が大きく、その末端からは

下方外側へ数本ずつ斜めに棒状の構造物が

張り出していた。その様は肩に刺さった

矢やら槍が垂れ下がっている様でもあり、

或いは骨組みだけの翼に見えなくもなかった。


総体としては鋭角二等辺三角形。

そして天頂よりやや下った位置に横棒。

どこか両手を垂らした五芒星ごぼうせいにも似ていた。



何はともあれ、とにかくデカい。

それが400弱の抱く素直な感想であった。

お陰でマッシモの台詞に目をむきそうになった。



「セントールⅡ型、センチネル。

 第一戦隊専用となるこの試作機は

 セントールを小型化(・・・)したものである」



小型化されてこのサイズ。

ならまだ上があるという事か。


この事実は400弱にさらなる驚きを

与えると同時に相対的にセンチネルへの

畏怖を減衰させもした。


もっともこれはレトリックであり実際は



「セントールには『足が無かった』からね」



と閲兵の間でランドが語る通りであった。


金属の小札こざねを繋いだ帯を歯車様の

車輪で回す履帯「ウロボロス」を機動機構と

して採用する初号機セントールは言わば胸像。


小振りにした一方で足を付けたため、

結果としては同サイズ。そういう事であった。





「ものを動かすには『膂力』が要る。

 大きく重いほど要求される膂力は大きい。

 現状の動力源で二足歩行を成さしめるには

 概ねこのサイズが適当であるようだ。


 また初号機たるセントールは不整地での

 機動性を最大限に考慮し、無限軌道たる

 履帯『ウロボロス』を備えた。


 一方センチネルは二足歩行である。

 これは機動性と安定性において本家

 セントールより大幅に劣っている。


 では何故態々(わざわざ)人型に、二足にしたのか?

 諸君、それはこの機体が他ならぬ

 諸君の肉体の延長であるからだ。


 人が最も動かし慣れているのは自らの肉体だ。

 ゆえにセンチネルは言わば機械化重甲冑

 としての方向性を目指す事になったのだ」



城砦近郊や往路に限っては比較的なだらかで

あるとはいえど、やはり荒野は平原に比して

起伏に富み天然自然が障害物を構築している。


そうした不整地を高速で移動するには矢張り

セントールのような履帯を用いた方が早いし

何より安定性が高く積載量も多いものだ。


だが中央城砦の防衛主軍たる第一戦隊が

城砦から離れて主戦するケースはほぼ絶無。


そして護るべき城砦は路面が平坦均質に整備

されており、車輪で走るクァードロンを用いて

快適に――乗り心地はともかく――移動できる

ほどであった。


要はセンチネルとは拠点防衛専用機であった。

兵士と連携し要衝を封ずる各隊の旗機として

展開する事が前提なため、機動力はそこまで

重要ではなかった。


むしろ練度の低い兵であっても感覚的に

受け入れ易い操作性を重視した格好だ。





「フフ、つまり現段階では

 はったり半分。そういう事だな」


とローディス。



「うむ、そうだな。


『味方に巨人族の末裔たるオッピが居る』。


 この事実が持つ意味は大きい。


 黒の月、闇夜の宴の如き地獄のちまたでは

 傍らにその巨躯があるだけで、兵らは

 大いに頼もしく思い士気も上がるものだ。


 兵器にそうした効能を期待するなら

 人型の方が『より良い』のだろうな」



チェルニーもその見解に同意していた。



「セントールは下半身たる車両部分の積載量が

 大きいので兵器を多数搭載していましたが、

 センチネルはそうした要素を詰まず、軽い分

 余った膂力を全て挙動の速さと力強さに

 活かします。


 但し常に転倒のリスクが付きまとうので

 足を大きく。肩から伸びている数本の棒は

 バランサーです。東方諸国の玩具から

 ヒントを得ました」



閲兵の間でのプレゼンは自分の担当。

ランドはそう心得て騎士団幹部衆に対し

センチネルの解説をおこなった。



「それって『ヤジロベエ』の事かい?

 二戦隊のお店で貰ったものがうちに有るよ。

 ベリルのお気に入りの一つだね。


 まさかこんな使い方をするなんて、

 まるで思っても見なかったけれど」


「あはは、それそれ!

 それとベリルの玩具には

 絡繰の宝鳥もあったよね。


 実はあれは二足歩行の研究のために

 作られたものなんだ。その後に見せた

 絡繰は機械関節の参考模型だね」



サイアスの問いかけに

ランドは笑って答えた。





「グウィディオン討伐の報酬として

 ブーク閣下に頂いた『兵器構造図』には

 古代王朝期の絡繰からくりに関する記載もあってね。


 最初はまったく使途不明で実用の目処も

 立たなかったんだけど、発条の改良で

 安定した動力が確保できるようになってね。


 もっともまだまだ希少だし膂力の閾値も

 高いとは言えない。瞬間的かつ爆発的な膂力

 を産む能力では、まだ人や馬を超えられない。

 量産し主力化するには課題山積だよ」


ランドは嬉しさ半分ながら苦笑していた。


グウィディオン討伐の折、常なら3名以上で

用いる攻城兵器「マンゴネル」を単独で運用

してみせたランドに対しブークが恩賞に出した

「兵器構造図」とは、トリクティアの軍事機密

をも含んでいた。


トリクティアは血の宴以前に栄えた光の王国の

荘園から興っていたため、同国の、いやさらに

その前に栄えた闇の王国の優れた技術を期せず

して記録に留めてもいた。


もっともランド含め大多数のものには

それは単なる謎の落書きに過ぎなかった。


そこに意義を再発見できたのはひとえに

ここが異形の巣食う荒野の地。

人智の境界であったからだった。



「まぁそこらは生身の兵が補助すべきだな。

 個人的には格技訓練の相手が増えるのは

 大歓迎だ。もっとも投げ飛ばしたら

 大目玉喰らっちまいそうだが。


 さしあたってあの2機はそれぞれ

 ルメールとユニカに預けるか。

 色もそういう事(・・・・・)らしいしな。ガハハ!」



豪快に笑うオッピドゥス。


並んで南面するセンチネルのうち、

左の機体は装甲の主色が黒鉄で縁取りが金。

右の機体は白磁の色味に緑掛かった金の縁。

教導隊と精兵衆、それぞれの騎士の甲冑を

模して塗り分けられていた。


「後はビフレストと『歌陵楼かりょうろう』にも

 配備しときたいとこだが」


とオッピドゥス。


その言から第一戦隊としての配備方針が

拠点につき1機。かつ有力中隊につき1機

であると見てとったランドは


4機(・・)増産の件、資材部と共に善処します」


と返答した。


「おぅ、よろしくな! ガッハハハハハ!!」


オッピドゥスはオッピドゥスで

センチネルの開発と生産は資材部ではなく

ランド主導の計画だろうと読んでいた。


その読みは的を射ていたようだ。

つまりランドの「善処」とは限りなく

確約に近い。そう判じオッピドゥスは

より一層の上機嫌となった。  

1オッピ≒4メートル

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