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サイアスの千日物語  作者: Iz
第五楽章 最も新しい神話たち
918/1317

サイアスの千日物語 百三十七日目 その十三

筋肉舞踏祭の会場たる二の丸は半ば以上

中央城砦から独立した構造となっていた。


中央城砦内部でも同様で、外郭から内郭へは

南北の二箇所。内郭から本城へは東西南北の

四箇所のみしか繋がっていない。


第一戦隊戦闘員は副長大隊が二の丸に。

戦隊長大隊が内郭北東区画に営舎を持つため

教導隊や精兵衆らが営舎に戻って着替えさらに

引き返して来るにはそれなりの時間が要った。


そこで休憩には小一時間が割かれ、早めに

着替えを終えた副長大隊の兵らは舞台の周囲に

舞い戻り軽く雑談などしつつ待機していたもの

だが、そうした軽妙な声の鳴りは次第に低く

鈍くなり、ザワザワと不安げに変じていった。


彼らが取り巻く舞台は厚手の布でぐるりと

囲われ目隠しされていた。目隠しは徹底

しており上部まで布張りで、閲兵の間

からも内部を覗くのは困難な状況だ。


目隠しの布の高さは1オッピを優に超え、

さながら角ばった巨大天幕といった呈だ。

先刻まで舞台中央には盾競べのための高台

が設置されていたがそれよりなお高い。


さらに天幕の内側から解体された高台の

部材や大箱が運び出されており、眼前の

巨大な天幕が何をひた隠しているものか

まるで判然とせず。


副長大隊の兵らや着替えを終えて戻ってきた

戦隊長大隊の兵らは共に潮騒の如くざわついた。





司会を務めるべく閲兵の間を辞し、今は

会場に舞い戻って古巣の朋輩たる精兵衆と

談笑していたマッシモ。


そのマッシモの元へ、矢張り同様に会場へと

戻ってきていた本舞踏祭の幹事たる戦隊副長

セルシウスの供回りが1名。さらに巨大天幕

の中から工兵が1名やってきて二言三言ふたことみこと

2人は打ち合わせた後元へと戻った。


マッシモは遠めにも明らかに硬直し、次いで

機械的に猪首いくびを回し天幕を。さらに閲兵の間を

見上げた。視線の先、閲兵の間では戦隊長

オッピドゥスが特大のニタニタ顔を見せていた。


ややあって気を取り直したらしきマッシモは

会場をぐるりと目視。セルシウスの供回りが

先刻報じた通り、総員既に会場入り済みな

事を確認した。


マッシモはおごそかに頷くと、数オッピ四方な

舞台の南手へ移動。衆人の注目を集めるべく

激しく次々にポージングを繰り出した。


一声掛ければいいものを。

わざわざポージングで語るマッシモに

400弱はそう呆れ、或いは筋肉の出来を

鑑賞し分析してあぁだこうだと寸評した。


とにかく注目は集まった。

そう判じたマッシモはサイドチェスト。

すなわち左半身となり、右手で左手首を

掴んだ上で左腰に沿え、総身に膂力をみなぎらせた。


茶褐色のローブがさながら黒光くろびかる筋肉そのもの

であるかの如く隆起して熱気を放射し、

見守る者らは感嘆するか呻いた。そして。


第三時間区分中盤、午後3時30分。

マッシモは野太い声で朗々と語った。





「諸君、我輩は筋肉が好きだ。

 諸君、我輩は筋肉が大好きだ。

 諸君、我輩は筋肉を愛して已まない。



 三角筋が好きだ。上腕筋が好きだ。

 僧帽筋が好きだ。広背筋が好きだ。

 大胸筋が好きだ。大臀筋が好きだ。


 この身に纏う在りと在らゆる筋肉を

 我輩は果てしなく愛して已まない」



二の丸は最早完全なる静寂に包まれた。



「戦力指数とは『身的能力×戦闘技能』だ。

 言い換えれば『筋肉×技量』であり、

 すなわち『筋肉とは戦力』なのだ。


 ゆえに屈強なる筋肉の鎧を纏う

 第一戦隊所属各大隊戦友諸君とは

 中央城砦の誇る最大戦力なのである」



いきなり話の流れを換えるも

矢張り筋肉に帰結するマッシモ。



「だが人が纏える筋肉には限界がある。

 どれほど切望しようとも体格の定める

 限界を超える事ができない。

 

 ゆえに人の戦力には必ず壁があり

 強大な魔や眷族を討ち倒すには

 人を超えた何者かにならねばならない」



時に魔すら討ち滅ぼす絶対強者、城砦騎士。

魔力を帯び超常の能力ちからすら手に入れた

比類なき戦力を誇る英雄たる彼らは言わば

人ならざる境地に至った超人であった。ゆえに



「そんな存在に誰もが成れるわけがない。

 無論無数の死地を踏み越える事ができれば

 誰であれ必ずそう成れるのかも知れない。


 だが死地とは死に至るから死地なのだ。

 死地にて死なざる者らとは、既にして

 人を超えた何者かなのだ。


 要するに。


 多くは強者たりえても絶対強者たりえない。 

 多くは自らの肉体という壁を越えて、さらに

 先の強さへと辿りつく事ができないのだ。


 第一戦隊兵士なら、誰もが一度は思うだろう。

 もしも戦隊長閣下やシベリウス卿のように

 巨人族の末裔まつえいであったなら、と。


 さすれば人の域を超えて大きくなり、

 或いはそのままで人以上の能力を得られる。

 絶対強者への階段の、容易に届かぬ偉大なる

 一歩目が踏み出せるのだ。


 無論、それはないものねだりだ。

 無理なものは無理にきまっている。

 そしてそんな事は判りきっている」



マッシモは右手を突き出し拳を握り締めた。



「だが我輩は、諸君らは常に強く願う。


 大きくなりたい。力が欲しい。

 敵を討つ力が。人を護る力がッ。

  

 強くなりたい。強くなりたいッ!

 何者にも負けぬ強さが欲しいッッ!!


 諸君。だから我らは筋肉を愛して已まない」



拳を震わせ、涙すら流しそう語るマッシモ。

強くありたい。それはその場の誰もにとり

真実の願いであり、共感せぬ者などいなかった。



「そうした我輩の、諸君らの。

 見果てぬ夢、永久なる想い。

 

 それを叶える時が来た!

 いざ、刮目せよッッ!!」



雄雄しく高らかなる宣告。

ばっと音鳴らし払われる天幕。


どよめく400弱の眼前に現れたのは。

舞台に並びそびえる2体の巨像であった。



「その身に余る筋肉ならば

 巨大な甲冑にして纏えば良いのだ!


 むしろ我らが巨大な甲冑に入り

 それを操って戦えば良い!


 紹介しよう。


 第四戦隊兵士ランドが設計・開発し

 資材部と共に作った対異形戦闘用兵器!


 セントール型特殊機動装甲車Ⅱ型。

 第一戦隊専用試作機『センチネル』ッ!!!」

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