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サイアスの千日物語  作者: Iz
第五楽章 最も新しい神話たち
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サイアスの千日物語 百三十七日目 その九

二の丸に設けられた舞踏の壇を囲んで集う

多士済々、実に500余の昼食の供にと

天守を文字通り飛び出して宙を渡り来て

笛吹き鳴らした歌姫たるサイアスは、

今ぞ頃合とそう判じ、天守へと戻る事にした。


ただ未だ食事中であったり食後のまったり中

である舞台周辺の500余を海を割るかの如く

動かして帰還路をこさえるのは気が引けたのか。


サイアスは四方に順に一礼したのちぽぽんと

その場を駆け上り、やって来た時と同じ調べを

奏でつつ、天守の閲兵の間へと宙を渡り歩んだ。


500余は再び目の当たりにする奇跡の前に

大いに驚愕し熱狂するも、そこは栄えある

第一戦隊構成員。調べの邪魔してなるものかと

その感嘆を調べに合わせ手拍子に乗せた。


お陰でサイアスは益々上機嫌となり、時に

宙返りなど織り交ぜ存分に宙で遊びつつ

頗る優雅に閲兵の間へと帰還。飛翔時間は

往復で3分近くに及んでいた。





かつてサイアスがその身に取り込んだ

魔宝たる3等級魔具「虚空のソレア」とは

概念物質であり魔術の術式そのものである。


実体の無い術式そのものであるため

等級と魔術の強度は等しい。それゆえ

装備条件は魔力5、魔術の強度も5であって

発現させるには1秒につき気力を5消費する。


但し消耗量は強度を魔力で除算する。

装備条件を満たした魔力5の時点では

つまり1秒につき気力1の消耗となっていた。


華奢なサイアスは体格の影響もあって身的能力

の上限が低い。反面心的能力はべらぼうによく

伸びた。今や24と人の域を超えた精神を

はじめ軒並み値は優秀でさらに魔力9。


魔力について並の軍師や祈祷士を凌駕し

祈祷師や巫女に迫るところとなっていた。


魔術の強度は魔力で除算する。故に現在の

サイアスは虚空のソレアを1秒発動さすのに

必要な気力が0.56と1を下回る。さらに

魔術技能2が成果を+2し1秒分で3秒発動。


また気力の最大値が80を上回っているため、

大雑把に言って一度に2分は連続で飛翔できる

事となる。間を空けて片道1分半は用いるに

妥当な範囲となっていた。


とまれ習得当初は一度につき30秒だった

使用限度が実に4倍まで伸びていた。


サイアスに虚空のソレアを与えたセラエノの

意向が実のところサイアスを魔術師として、

言わば魔法剣士として育成する事に。


さらに言わば最終的には自分と同じような

存在にしようと企んでいたらしい事を、

サイアスは薄々感じ始めていた。


次々と魔具を寄越すのも、きっと実の理由は

その辺りだろう。どうせ眠り病だ。翼が生える

ならそれも良いかな、と当のサイアスは随分

達観し楽観して、自らの魔術面の成長を

楽しむ余裕すら見せていた。





天守二階のバルコニーたる閲兵の間に

ふわりと降り立ったサイアスは、揃って

両手を腰に当て、じっとり睨めつける

デネブとクリンに引っ立てられた。


そして両者の狭間にちょこんと鎮座

させられた上ぎゅうぎゅうと身動きの

取れぬほどに挟みこまれた。



「とても肩身が狭い」



とサイアス。



「見たまんまやな! ちゅうかやね!

 ちっとは護衛の立場も考えたりぃや!!」



と小気味よくキレの良いツッコミを見せる

良い面の皮だった皮の面をかぶるシェド。



「帰ったらロイエと姫様に

 くびり殺されちまいそうだな……」



と自身は周辺警戒担当だからセーフ、な

発想のラーズ。もっともそれで許す程

甘い相手かは定かならず。


「やばい! やばいよどうしよう!

 サイアスさん何とかして!」


壁になり損ねたランドもまた混乱の窮みに。

過日魔笛作戦で重圧を克服し一段高みへと

覚醒したといえど、相手が余りにも悪かった。



「ぇ…… それって代役担当な

 俺っちが一番ヤヴァいって事け!?」


「そらそうだろ。お前ぇは極刑だわ」


「これからは二人衆でやってくよ。ご冥福を!」


「やめーや、やめぇええやぁ!!」



とりあえず全責をシェドにかぶせる事を

言外に合意したラーズとランド。そこに


「閣下、参謀部より軍師が」


とオッピドゥスに兵士が報じた。


「すゎ! 敵か!」


とこれを討ちとって

汚名返上せんと燃え上がるシェド。


先刻よりサイアスの供回りらのけったいな

盛り上がりを怪訝かつ半笑いで眺めていた

城主たるオッピドゥスは



「ガハハ、何だそりゃ?

 確かに胡散臭い連中ではあるが……

 まぁいい、通せ!」



と申し渡し、ややあって

閲兵の間にローブ姿が現れた。





「御免くだされ!

 参謀部の方より参りました!

 各戦隊長閣下並びに兵団長閣下には

 ご機嫌麗しゅう! そして兵士諸君には

 久方振り振りであるな!」


と独特の調子で野太く語るのは

筋骨隆々、パツンパツンのローブ姿。


「我輩はマッシモ!

 参謀部正軍師マッシモ!

 全ての筋肉と筋肉を愛する者の友、

 マッシモ・ザ・マッスルここに見参ッ!!」


以上、以下略であった。


「ほぅ、お前か。

 まぁ無難な人選ってとこだな」


と頷くオッピドゥス。


マッシモは元々一戦隊の精兵衆に属し、

戦隊長オッピドゥスの意向で参謀部に出向。

正軍師として調ととのい次第ビフレストに詰める

二人目の軍師となることが決まっていた。



「ハッ、閣下!

 参謀部はひょろっとしてなよっとした

 筋肉の真の価値が判らぬ無粋者揃いにて。


 ここはやはり我輩であろうと全力で主張し、

 全的に承認されこうしてやって参りました」



マッシモは直立した状態から胸前高めで

右拳を左手で包み、そこからググっと

全身の筋肉を膨張させた。


見る間にパツンパツンのローブ姿は

ビッチビチの腸詰めの如く膨れてパァン

とはち切れる寸前の様相を呈した。


「ガッハハハハ!

 うむ、鍛錬(ビルドアップ)は怠ってないようだな!

 それで具体的な用向きとしては何だ?」


と高笑いのオッピドゥス。


「ハッ、模擬戦を観戦し

 必要であれば助力せよとの事で」


と謹厳実直に応じるマッシモ。


「ほぅ、成る程な。

 丁度第一部が済んで今は昼食休憩だ。

 第二部を堪能していくと良いだろう」


とオッピドゥス。


どうやら午後に行われる第二部は、

少なくとも模擬戦との呼称で問題なく

通る内容らしかった。


「ハハッ、有り難き幸せ!」


と激しきポージングのまま敬礼に以降し、

マッシモは三人衆の下へ向かいドカっと

割り込んで座った。



「おぃ」

「暑苦しい」

「他を当たれ!」



ラーズ、ランド、シェド。

サイアス小隊名物三人衆は異口異音、

されど同意の所見を語った。



「そう照れずともよい。

 筋肉とはアツいものなのだ!」


「うんうざい」


「護衛の邪魔だっつぅの!」


「ふむ? なら我輩も手伝ってやろう」


「お前ぇは敵方なんだぜ?

 てか今ここでこいつ〆ちまえば

 それで任務完了な気がしねぇか」


「いいね! やっちゃおう!」


「ほほぅ! 言うではないか!

 ランドよ、お主悪くない筋肉の出来だが

 その程度で我輩に勝てるとは思わんことだな」


「言ってくれるね! 負けるものか」


「おっしゃいけやれ光のハイランダー!」



みちっと密集して座したままポージング合戦

を始める、何やら大騒ぎなマッシモと三人衆。


先の魔笛作戦で死地を共にした戦友同士

でもあり、ぎゃあぎゃあとうるさいだけで

口ほどに争う風でもなかった。


「クク、第一戦隊にもこういう風情の

 騒がしさがあるのだな」


と杯をなめつつ笑うローディス。



「二戦隊や四戦隊うちでは茶飯事ですな。

 ……ときにお前たち、やけにピリピリと

 警戒しておるようだが」



とベオルク。



「ぅ、いやそれはその……

 でっへっへ!」


「ちょっと訳ありなんです!」



シェドとランドはてへぺろで誤魔化した。


それが大層(かん)に障ったらしく



「よし」

「語れ」

「さもなくば斬る」



ベオルク、オッピドゥス、ローディス。

騎士団騎士会幹部三役にして各戦隊を率いる

天下無双の城砦騎士長はこぞって異口異音、

されど同意に問い詰めた。


こうして三人衆は護衛の件について

洗いざらい白状する羽目となった。

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