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サイアスの千日物語  作者: Iz
第五楽章 最も新しい神話たち
912/1317

サイアスの千日物語 百三十七日目 その七

大いなる魔と魔の眷族が支配する

死地なる荒野の陸の孤島、中央城砦の

防衛主軍たる第一戦隊500余名。


彼らはまずはと整列そのままに、

第一戦隊体操をおこなった。


500余はこぞって声を張り上げて

揃って右往しポージング。さらに大声

張り上げて、左往し再びポージング。


かつてサイアスらが小湿原手前で目撃した、

僅か数名でさえ暑苦しくてかなわぬあの体操を

500余が総出でおこなうのである。その熱量

たるや凄まじく、あっと言う間に会場たる

二の丸は陽炎の立ちそうな程アツくなった。


閲兵の間で見守る幹部と供回りらは

余りの光景に全力で引いていたが、戦隊長

オッピドゥス曰くごく日常的な光景だという。


もっとも平素は任務で分散するため

数十単位でやっているとの事。数百単位でやる

機会はなかなかなく、これは大変価値ある貴重

なものだと力説した。


さらに酒の肴にと、大いに語るところによれば

本体操の発案者はあの初代第一戦隊長ガラール。

本来は半裸でやるのが正式で、アグレッシブさ

を倍盛りした第一戦隊体操第二まであったとか。


ただしガラール没後の新体制で女衆が入隊

してくるようになると総スカンを喰らい、

凄まじい抵抗にあって半裸も第二も

廃止に追い込まれたという。


さらに現代ではガラールによる制式版の他に

マッスルビクスなる亜流も生み出され、

女衆は専らこちらを好むという。


「丁度今()ってるのがそうだな」


とオッピドゥスの示す先では50余の女衆が

数組順次、キビキビとテンポよく踊っていた。





筋肉舞踏祭はその名の通り、鍛え抜かれた

筋肉を活かし賛美する祭典、らしかった。


第一部と第二部に分かれており、

第一部は文字通り舞踏の大会であった。


第一部では戦闘員と非戦闘員とを問わず

第一戦隊に所属する構成員らが最小規模の

小隊となる9名前後で1チームを成し、都合

50数チームでのトーナメントを開催。

日頃の鍛錬の成果を舞踏として披露した。


出番を終えまた待つ者らはこぞってこれを

応援し、勝敗は拍手喝采の総量で決まり、

高みからこれを見聞きする酒の入った

審査員、即ち閲兵の間の幹部衆が裁定した。


参加賞は総員に他戦隊営舎食堂における

食べ放題チケットが1枚ずつ。ただし1戦

勝ち抜く毎に枚数は2倍。優勝すれば64枚。


第一戦隊の誇る超巨大食堂「ヴァルハラ」。

その一食は質・量ともに城砦でも最強。

一戦隊兵士はそこで1日4度食事を採る。


だがそれでも足りぬのが彼らである。

見果てぬ美食への渇望により、文字通り

血相を変える勢いで激しく筋肉が乱れ舞った。





熱く激しく情熱的な肉の祭典は着々と進み、

筋肉舞踏祭第一部もいよいよクライマックス

となった。既に出番を終えた500に程近い

体格的にも大観衆の見守る中、決勝に進んだ

二組が壇上へと姿を現した。


割れんばかりの喝采を浴びて東、青龍せいりゅうかたより

上り来るのは、平素纏う甲冑と同じく黒一色の

衣を纏う9名のおとこたち。


第一戦隊教導隊長、城砦騎士ルメール率いる

第一戦隊教導隊の精鋭「ブラックマッスルズ」

であった。


筋肉の色は赤と白。入り混じったピンクが

最も良いとされる。それをさらに磨き上げて

遂には漆黒色に達したとうそぶく彼らの動きは

最早非凡を通り越して異常の域にある。


教導隊員は膂力体力体格統べてが18以上。

重甲冑を纏って伝令より速く走ると言われる

彼らは甲冑ではなく黒一色の丈の長い上着に

身を包み、揃って腕組みしたまま3x3の

陣形を維持してズイズイと壇上へ。


周囲に威圧感を振り撒いて階段を一歩、二歩。

三歩目でいきなり高々と跳躍。腕組みしたまま

伸身の前方二回転(ムーン)宙返り一回捻り(サルト)

キメて3名ずつ揃って着地。


後続ほど高く長く滞空し、先に着地した者らの

前に降り立ちゆく。そうして再び壇上で3x3

とあい成り、一糸乱れず号令もなく南へと。

閲兵の間より見下ろす幹部らへと敬礼した。


観衆は地の底より唸るような歓声でたたえ、

勝負の前に勝敗が決したかとさえ思われる

有様となった。





と、そこに。


舞台の西、白虎びゃっこの方より現れ出でたのは

丈の長い純白の衣を纏いその裾を棚引かせ

駆け来る疾風の群れ。


第一戦隊精兵隊副長、城砦騎士ユニカ率いる

精兵衆女子9名。「ビューティフラワーズ」

であった。


普段は鋼兜アーメットの邪魔にならぬよう

ボンネットで纏め上げている色とりどりの髪を

純白の裾とともに風に舞い遊ばせ。


縦一列で駆け来る彼女らのうち8名は

階段を上りきると次々独楽の様に回転しつつ

交互に左右へと展開し、南北の両端に至ると

上体を水平に寝かせ風車の如く足を振る

旋子せんし」を連続で繰り出しながら再び中央へ。


中央に揃った8名は手を繋ぎ内向きの円を成し

その中央に後方階下より前方側面宙返りを、

さらに恐ろしく高く凄まじく滞空時間の長い

伸身後方宙返り(スワン)をキメたユニカが

舞い降り姿を消して、一瞬、二瞬。


両手を腰に、斜に構え。華麗なる

パ・ニヨン立ちをするユニカを中心に

円陣の8名は手と上体を大きく外へと開き傾け

さながら咲き誇る大輪の白花びゃっかとなった。


再び大観衆は割れんばかりの拍手喝采を送り

未だ雌雄を決する前だというのに、二の丸は

熱狂と興奮の坩堝るつぼと化していた。

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