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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十一日目 その二十二

膂力の実技測定は順調に進み、10名一組の20組全てが

一通りの投てきを終えた。20名程が膂力10に満たず

居残り特訓となったが、他は全て10を超え、15の投てきを

成功させたものも30名程いた。その30名は志願兵らしき

者が大半であり、純粋な補充兵として15の槍を投げた者はいなかった。


15の槍を投げた者はオッピドゥスの前に呼ばれ、

個別に膂力を測定することとなった。オッピドゥスは参謀部から出張って

きた軍師を従え、個々にその数値を算定させていた。軍師の目は

気力を消耗するため補充兵200名全員に使用することはできず、

15以上の者のみに限定使用する方法を採っていたのだった。

結果、今期の補充兵全体での膂力の最高値は17と判明した。

これは1000人に一人いるかどうかの数値であった。


「おっし、取りあえずこれで今日やるべきことは終わった。

 この土壁と槍は、訓練課程の期間中はいつでも使えるようにしておく。

 自身の測定結果に納得がいかないヤツは、夜間に鍛錬を行い

 鍛え上げたうえで再測定を申請しろ。

 少しでもいい結果が得られることを期待してるぜ!


んじゃ連絡事項だ。

明日以降、午前は座学、午後は実技ってのは覚えてるか? 

ちなみに明日の実技は『体力』だ。

そして城砦で最も体力が高いのは、この俺だ! 

明日も午後の担当は俺ってことだ。どうだ、嬉しかろう!

まぁ精々楽しみにしておけ。では解散!」


オッピドゥスの豪声一過、200名はガヤガヤと動き始めた。

時刻はまもなく5時半過ぎといったところで、

大半の者はそのまま営舎へと向かい、食事や入浴等に移るようだった。


不適格を言い渡された20名程は第三戦隊の教官の指導を受けつつ

投てきを開始し、他にはサイアスと一つ二つの小集団が残った。


サイアスは居残ってより高みを目指す気概を持つ者の中に

見所のある兵士がいるのではないかと考えた。

そのためしばらく広場に留まり補充兵たちの様子を窺うことにした。


サイアスが暫く眺めていると、一人の男が声をかけてきた。

歳の頃は20代後半から30代前半といったところであろうか。

鎖帷子に革の追加装甲を施し、革の小手と具足を身につけている。

これは南に居た30名程の兵集団の特徴だった。


「なぁアンタ。サイアスだったな。やけに兵士や幹部と

 親しいようだが、どういう訳だ? 志願兵じゃないのか?」


男は口調こそ柔和に保とうとしているが、目付きは容赦なく鋭かった。

サイアスは男に向き直って会釈しつつ、男の後方をそれとなく見やった。

案の定、豪奢なケープを纏った男が、数名と共にこちらを見ていた。


「元は志願兵ですが、他より数日早く到着して戦闘任務に参加し、

 結果、既に兵士として配属されています。もっとも正規の訓練を

 受けていないため、訓練課程には当初の通り参加することになりました」


「何ッ!? じゃあ大ヒルを倒した志願兵ってのはアンタか……」


「……そのようですね」


「成程な…… 邪魔をした」


男はそう言うとさっさとサイアスの下から離れていった。

サイアスは男が何やら報告している様を遠目に見て

厄介事の気配を感じ、面倒なことになる前に一旦引き上げることにした。


広場から引き上げる際、サイアスは営舎の影からこちらを見つめる

人影があることに気付いた。眷属相手に培った横目使いでちらりと見つつ、

サイアスはその人影を観察した。背格好はサイアスと同じかやや小さく、

目立つ武装は見当たらなかった。どうやら女性らしいと判断しつつ

サイアスは第四戦隊の営舎へと向かった。


営舎ではサイアスの送別会兼歓迎会という、

すこぶる投げやりな題目で軽い酒会が開かれ、暫し騒いで小休止した後

サイアスはマナサに連れられ軍議に出席すべく本城の参謀部へと向かった。


軍議では第四戦隊への移籍に燃えるマナサが独演し、サイアスの出番は

欠片もなかった。聞き取りが済み次第サイアスとマナサは参謀部を後にし、

マナサは手続きのために第二戦隊の営舎へと向かった。


ようやくにして手の空いたサイアスは、寝る前に一度、第三戦隊の

営舎前広場に戻ってみようと思い立ち、チュニックの上に

ガンビスンを着込み、折れた帯剣の代わりに繚星を帯びて営舎を発った。

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