サイアスの千日物語 三十一日目 その十八
「それでは次は私から。諸君、人智の境界へようこそ。
私は第三戦隊を預かるクラニール・ブーク。
第三戦隊は大きく分けて二つの役割を有している。
一つ目の役割は、第一、第二戦隊の予備だ。ここでいう予備とは、
欠けた兵員の補充のみならず、諸任務における援護をも意味する。
具体的には防壁上からの弓による援護射撃等の支援攻撃などだ。
また、補充兵の育成、すなわちこれから諸君らが受ける訓練課程
も我々第三戦隊の予備役としての業務となる。
二つ目は城砦の運営業務だ。第三戦隊は直接戦闘に携わる機会が
他戦隊と比べ少ないため、その生存性を活かし城砦の恒常的な
管理運営業務をも担っている。医局、厩舎、工房、菜園、厨房
などでの非戦闘業務を独占的に扱っているのだよ。
第三戦隊に必要な人材は、以上から二種類に分かれる。一つは
弓等を用いて前線の支援を行うのに長けた者。今一つは
調理や鍛冶といった諸処の生産運営に関わる技能を有する者だ。
戦闘は苦手だが料理は得意、といった具体的な特徴を持つ者であれば、
まずは第三戦隊を目指すといい。直接戦う以外にも、
人を守る仕事はあるのだから」
ブークはかなりの長さの内容を一息に過不足なく説明してのけた。
穏やかな口調で語りかける様は、これまでの戦隊長にはなかった
配慮に満ちたものであり、補充兵たちを安堵させるに十分なものだった。
「おー、あの人が『城砦の母』か。
なんかあれだなー、一言でいうと校長先生って感じだなぁ。
しっかしあんな平原風味で大丈夫なのか? 周りに振り回されて
エライことになるんじゃないのかねぇ」
件の男は素晴らしく的確な批評をしていた。
それなりに見る目はあるのかもしれない。
ブークに続き、第四戦隊の副長であるベオルクが一歩前へ進みでた。
「さて、最後は私だ。
第四戦隊で戦隊長代行を務める副長ベオルクである。
第四戦隊は他戦隊とは独立した特務部隊だ。
他戦隊で扱えない諸処の事案を参謀部からの命で引き取り、
場合によっては他戦隊から人員を選抜召集して任務にあたる。
要は、我々は何でも屋だ。下命あらば、何でもやる。
荒野で落とした指輪を拾って来いとか、
ちょっとひとっ走り茶菓子買って来いとか言われても、
それが任務であれば完遂するぞ。 ……部下がな。
ともあれ特務を扱う関係で、構成員は他戦隊で実績をあげた
ベテランが中心となる。うちが直接補充兵を採ることは稀だ。
だが採用がないというわけではない。初陣で眷属を斬り伏せたり、
大ヒルを魅惑の歌声で虜にする規格外なヤツなら即刻採用だ。
我々が最重視するのは精神力だ。どんな困難な任務であれ、
一度受けたら必ず完遂してのける意志の力が必要になるからだ。
諸君らが不撓不屈の精神を以って日々の死闘を戦い抜くなら、
我々はそれを余さず見抜き、同志とすべく声を掛けるだろう。
そのときは一つ、宜しく頼む」
「おぉ、あれが『魔剣使い』か。
なんかやべぇな、雰囲気とかゾクっとくるぜ……
でも、腰の魔剣より顔のヒゲに目がいっちまうのは何でだ?」
サイアスはあやうく噴き出すところだった。




