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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十一日目 その十五

「いやぁーいよいよ入砦式かぁー。入砦式っつーとあれだろ?

 ここの偉いさん連中がずらっと揃っちゃったりするんだよなぁ?

 いやぁー楽しみだなぁー緊張するなぁー」


例の男がサイアスの隣へとやってきて、

毛ほどの緊張も見せず、しきりにまくし立てていた。

サイアスは、自分がまともであるとは言わないが、少なくとも

この男はまともではない、と確信していた。


補充兵たちは突然の状況にとまどいつつも、

横で喚く男に対して終始無言かつ不動の姿勢を保つサイアスに

安心感を得たのか、周囲で大人しくしていることを選んだようだ。


サイアスが馬耳東風を体現しつつ前方の第三戦隊の営舎を

見つめていると、その営舎から供回りの兵10数名を引き連れた

威圧感の塊が飛び出してきた。


先頭を進む一人は、ずば抜けて巨大な鎧武者だった。その巨体は

地表に立って営舎の2階に届くほどであり、縦だけでなく

横にも大きく、ほぼ後方を見えなくしていた。

ズシンズシンと地響きを立てながら、ズンズンこちらへ進んでくる。


その後方には二人の特徴的な色合いの男が居た。

一人は装飾の無い漆黒の鎧に銀髪をたなびかせた壮年の男で、

鎧の表面では無数の小傷が陽光を反射し煌いていた。

今一人は銀と緋色のラメラーを纏った第二戦隊の長ローディスだ。


二人の後ろからは、まずはゆったりとした彩り豊かな布の服に

左右非対称な板金の装甲を追加したコートオブプレートを纏った

第三戦隊の長クラニール・ブーク。


最後に、プレートメイルを着込んだ上に、二の腕辺りまでの

短めのマントと胴を前後に覆う長い垂れが一体となった外套、

サーコートを羽織った第四戦隊副長たるベオルクが続いた。


5名のうち漆黒の鎧姿な壮年の男が指揮壇にあがり、

他は指揮壇の左右に2名ずつに分かれて控えた。

10数名の供回りはさらにその後方にずらりと控えた。



広場にひしめく人の群れは、ざわざわと小声で感想らしきものを

漏らしながら成り行きを見守っていた。小声であれ200余名分とも

なれば相当なもので、さながら荒磯にこだまする潮騒のごとくに

周囲を低音で塗り固めていた。


「おぉー、なんか凄いのきたぁー」


サイアスの横の男も何やら興奮して騒ぎだした。

ただし元々騒いでいたので全体として大した変化はなく、

サイアスは格別に対処を変えることはなかった。



と、壇上の男が右脇に控える巨漢に対して目配せをした。

巨漢は頷くと、一際大きく息を吸い込んだ。



巨漢の脇に居るローディスが、そして

壇を挟んで反対側のブークとベオルクが、両の手で耳を塞いだ。

それを見たサイアスも慌てて耳を塞いだ。


直後、城砦全体を震撼させるがごとき大音声が響き渡った。





「静まれィいー!!」




200余名の荒磯のごとき騒音は一瞬でかき消され、大音声が去った後も

周囲の空気はビリビリと痺れていた。広場の補充兵たちは度肝を抜かれ、

中にはへたりこんで動けなくなったものもいた。


「な、なな、なんじゃこの大声ぇえ」


サイアスの横に居た男が、顔と声を引き攣らせて喚いた。

サイアスはベオルクやブークが未だ耳を押さえたままなのを見て、

次の衝撃に備えていた。




「集まれィいー!!」




再び爆音が響き渡った。腰を抜かして動けなくなる者がさらに増えたが、

巨漢は200余名の全てが指揮壇の前方に集結し終えるまで何度も何度も

大音声で吠え続けたため、補充兵の群れはあるものは這い進み、

あるものは倒れたものを引きずるようにして、

可及的速やかにサイアスたちの左右及び後方に密集した。

一通り全ての人々が終結したのを確認した巨漢は、

ようやく叫ぶのをやめて壇上の男に頷いた。

壇上の男は苦笑しつつそれに頷いた。


直前までの、地獄の底でのたうつがごとき音の鳴りは完全に消え去り、

代わって耳が痛くなるほどの静寂が200余名を縛りあげた。

そして静寂の中、壇上の男がよく通る低い声で宣言した。




「諸君。人智の境界へようこそ。これより入砦式を執り行う」

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