サイアスの千日物語 三十一日目 その六
「それで、私は何をすれば良いのでしょうか」
サイアスは自分から切りだした。徐々に時間も気になりだしたからだ。
「……引き抜きをやって貰いたいのだ」
ベオルクはそう述べ、マナサは頷き、ブークは果実酒割りを口に運んだ。
「……剃ったほうが早くないですか」
サイアスは怪訝な顔でベオルクに問うた。
「……ヒゲ抜きはやって貰わんでいいのだ」
ベオルクはそう述べ、マナサはコロコロと笑い、ブークはぶほっとむせた。
ブークはツボに入ったらしく、しばらく息も絶え絶えになっていた。
「おいサイアス。ブーク卿を殺す気か? さすがにそれは罪に問われるぞ」
「それは、って」
サイアスはベオルクの物言いに突っ込んだ。
「兵士なら『戦死』で平気よ?」
「うむ」
マナサはそう言いベオルクは頷いた。
「えっ」
「えっ」
サイアスとブークは異口同音に問うた。
「……冗談よ?」
「うむ」
「……」
「……」
とりあえずブークの笑いは止まったようだった。
それを見たベオルクは、頃合と見て話を始めた。
「第四戦隊は本来、員数が50程とされていてな。
現在はその半数に満たない状況だ。そこでサイアスへの処遇と
セットにする形で、訓練課程の見習いから6名、
有用な人材を最優先で選抜してよいとのことになったのだ。
選抜兵はそのままサイアスの組下とする。これぞと思う者を選ぶがいい」
「選考基準はありますか?」
サイアスは暫し考え、そう問うた。
「そうだな……
補充兵は数が多いとは言え玉石混交、そして大半は有象無象だ。
一目で判る逸材など、居ないと思ったほうがいいだろう。
ゆえに能力や技能よりも、心の強さに着目した方が良いかもしれんな。
もう気付いていると思うが、魔や眷属との戦闘において
最も重要なことは、怯まないことだ。
平時と同様に判断し動くことができれば、
活路を見出せることもある。ダメな場合の方が多いがな……
まぁそれで無理な場合はどの道無理だ。はなから気にする必要がない」
ベオルクは続けた。
「平原での、人同士の戦でもそうだ。自他ともに認める強者や
広く内外に名を知られた者が、実戦の狂気と興奮で我を失い、
格下と見られる者になす術なく屠られ、物言わぬ屍となるなどは
実にありふれたものだ。荒野での戦闘はそれがさらに顕著になる。
人外相手に正気を保てる者など、そう多くはないのだから」
「なるほど……」
サイアスは神妙に頷いた。
「要は、だ」
ベオルクは一呼吸置き、やや声の調子を変え、まとめに入った。
「素直で従順だがふてぶてしく、呆れかえる程に動じない、
そういうヤツを選べばよい。まずは鏡で確認しておくのだな」
ベオルクはそう言うと、サイアスを見やり、ニヤリと笑った。
マナサは目を細めて妖艶に微笑み、ブークは溜息混じりに苦笑した。




