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サイアスの千日物語  作者: Iz
第四楽章 辺境狂想曲
708/1317

サイアスの千日物語 七十七日目 その十六

城外の二の丸がほぼ完成したことで

哨戒部隊の出入り以外ではほぼ閉じたままの

城砦北門。その裏手になる城砦外郭の広場は

しっちゃかめっちゃかにとっちらかっていた。


先刻まで、この場に集う即席の試験小隊は

方々に器具や物資を広げ、あまつさえ炉まで

こさえて御幣餅を焼き、和やかに食事会を

催したりと、およそやりたい放題であった。


そしていざ実験が始まると。

到底ありえぬ勢いでシヴァとサイアスは

一気に上空へとカッ飛び、さらにこれを追わんと

セラエノが全長1オッピに程近い雄大な翼を

全力ではためかせ、爆風を巻き起こして

スッ飛んでいったため、広場一帯はさながら

台風一過の田畑の如き荒れ模様となっていた。


とそこに城外から哨戒に出ていた二戦隊の

小隊が帰還。まるで奇襲でも受けたが如き

広場の荒れっぷりに蜂の巣をつついたが如く

大騒ぎし、それを試験小隊を遠巻きに警護

していた歩哨らがすわ敵襲かと勘違いして

色めきたち、とにかく大変な騒ぎとなった。





一方大騒動を引き起こした張本人らは

その後シレっと戻り来て何の事やらと

のほほんとしていた。



「精々羽牙程度だと思ってたけれど

 随分高く飛べるみたいだねぇ。


 羽牙の頭上を取れるのは大きいね。

 あいつら自分たちが上から攻められる

 のにはまるで慣れていないから。


 まぁ例の件含めうまくやっといて頂戴。

 こっちはこっちで伝手(つて)当たってみるからさ」



広場の中央でくつろぐシヴァとサイアスに

傍らの中空からセラエノが助言していた。


「了解しました」


サイアスは手短に応じ、

シヴァもまた頷いた。


シヴァはセラエノが近侍する事に対しては

特段気にする様子を見せていなかった。



「あとさっきもちらっと言ったけど。

 翼が無い君らは滑空ができないから、

 宙に在るうちは常に気力を消耗し続ける

 ことになる。なので下りの事を考えて

 普段は高度制限を設けておいた方がいい」



翼を有するものは水平方向に翼面を向けて

気流を上下に歪めて分かち、揚力を得て

空を滑る。しかしながら人も馬も、翼を

持ち合わせてはいなかった。



「羽牙の好む高度は地表より2から3オッピ。

 翼手と胴部の組み合わせから言って

 まず5オッピは超えない感じだから、

 君らは4から6オッピ辺りで良いんじゃない? 


 こと戦闘に関しては、それより高く飛ぶ

 必要がないから。6オッピは丁度オッピ城の

 天辺辺りだよ。良い目安になるだろう」



翼手とは文字通り手が翼となったもので、

大きく開いた5本の手指の狭間が飛膜となって

翼の主部を形成する。要は腕と手を薄く平たく

延ばしただけのものであり、純然たる

飛行専用の鳥の翼に比して、速度や高度で

遅れをとっていた。


また羽牙は胴部が巨大な肉食獣の頭部であり、

前方に突出した口や顎そして巨大な牙は

アンバランスなシルエットを成して

飛行性能を低減させているかにみえた。



「ふむ……

『四枚羽』に関してはどうでしょうか」


サイアスは因縁のある

件の上位眷属について尋ねた。



「アイツはカペーレの腐った巨体ごと

 本城上層に飛んでくるくらいだから、

 完全に別扱いだね。おそらく

 20オッピは飛べるんじゃない?


 あとはさっきも話した奥地の連中だね。

 こいつらとやり合う際は高度制限解除って

 ヤツさ。遠慮なく存分にやっちゃえ」



「御意。楽しみだ」


サイアスは薄く笑んでみせた。


「このふてぶてしさは親譲りかねぇ」


セラエノはクスリと笑んでくるりと宙返りし、

そのままストンと地に降り立った。





試験体の開発を担った参謀部や開発部の人手は

試作の魔宝を用いたサイアスの言を受け

周囲の状況をよそに議論を開始し、暫時の後

一応の結論に達していた。


もっとも参謀長と兵団長の会話を妨害する愚を

犯すことなく一段落つくまで大人しく待ち、

セラエノの着地を受けこれを機と見て

報告に出向くことにした。



一方サイアス小隊から隊長の共回りとして

同行していたクリームヒルトら3名は、

こうした諸々とはまったく別の次元で

深刻な問題に突き当たっていた。


彼女らの眼前にはしっちゃかめっちゃかに

吹き飛ばされた小物を片付け直した

小さな台があり、台には皿が。そして皿には

羽ばたきの突風によって辺りにばら撒かれた

出来立てホヤホヤであった御幣餅が

拾い集められ盛られていた。


「隊長、いや副官殿……

 どう思われますか」


盾使いの一人が元護衛隊の長であり

今はサイアス小隊の副官である

クリームヒルトに問い掛けた。


「やめておいた方がいいでしょう」


クリームヒルトは謹厳実直に首を振った。


「しかし出来たてホヤホヤで

 誰も手を付けておりません。

 みすみすこれを廃棄するなどは」


盾使いの一人は上告した。

どうやら御幣餅の行く末について

憂慮している模様だった。


土埃つちぼこりや雑菌がたっぷりでしょう」


その心情は察するものの、

衛生面から言って勧められない。

それがクリームヒルトの見解であった。



「落ちて10秒以内ならセーフでは」



盾使いは食い気のために食い下がった。


「まぁ急いで拾い上げはしましたが、

 10秒以上は経っていますよ」


謹厳実直ゆえ無視はしないクリームヒルト。


「拡張ルールを採用して

 20秒までセーフでも良いのでは」


「際限がないのでやめなさい」


拡大解釈については厳に戒める風であった。


「しかし元一戦隊の肉娘として、

 それで良いのですか!」


今一人の盾使いが熱弁をふるった。

一言でいえば、食いたい。

だがそう言えぬ悲哀がこの盾使いには在った。


「我々は既にサイアス小隊員ですよ」


クリームヒルトはこれをたしなめ、


「……そうでしたね。

 しかも隊長だけお嫁さんに……」


ネチっとジト目を返された。


「い、今はそれは関係ないでしょう!?」


明確に狼狽するクリームヒルト。


「そう、確かに関係はない。

 重要なのは所属や所帯ではなく魂の在り様。

 肉娘としての誇りです!」


どうやら演劇好きらしいこの盾使いは

身振り手振りを交え熱く語った。


さっきまであんなに一緒に食い倒れたのに

なぜ今はそうも冷徹になれるのか。

貴方は食いしん嬢仲間ではなかったのか、と。


この頃には歩哨や哨戒部隊らも

なんだなんだと観客に。


しかしクリームヒルトはそうした感情論や

名演や周囲の様子に対しては、微塵も

動じることなく実に冷徹に



「貴方は重大な勘違いをしている」



と核心的な指摘をした。


「!?」


盾使い2名は次なる言葉を待ち、

クリンは無慈悲に宣告した。




「あれは肉ではない」




「!!!!」


「諦めなさい」


「ハイ」


そういうことになった。

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