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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十一日目 その三

「さて……」


ベオルクは白い布でヒゲ周りを丁寧に拭き、話し始めた。

4名は一通りくつろぎ終わって本来の目的に移ったところだ。


「サイアスの今後についてなのだがな。

 当初の予定とかなり異なった方向に変化することとなった。

 まずは当初の予定を確認しておこう」


「それは私から話しましょう」


ブークが引き継いで話し始めた。


「本来なら君は、今日の午前の入砦式を境に城砦兵士「見習い」となり、

 二十日前後の訓練課程を経て城砦「兵士長」に就任。

 その後いずれかの戦隊に配属される、という話だったね」


「はい、そう伺っています」


ブークの説明にサイアスは頷いた


「全体の流れや二十日後の君の状態に然程変わりはないのだが、

 少々厄介な事情があってね…… 君は現時点を以って兵士長だ」


「……?」


サイアスは事情が飲み込めないといった様子だった。

ブークはさらに話を続けた。


「君は現時点を以って城砦「兵士長」となり、第四戦隊へと配属になる。

 そのためこの部屋を引き払う必要はない。ただし、

 第四戦隊は特務を担う際他戦隊から選抜兵を招集することがある。

 その際第四戦隊の騎士や兵士は選抜兵の指揮監督を担うことになるため、

 他戦隊より一段上の階級として扱われることになる。

 そうした事由で、城砦「兵士長」たる君は、

 第四戦隊においては城砦「兵士」ということになる。 

 ……ここまでは良いかな」


「はい。第四の兵士の皆さんが精強な理由が判った気がします。

 皆実際は兵士長だったからなんですね……」


「あぁ。ここで兵士長だと他で騎士扱いか、といえばそうではないんだが、

 そもそもうちはベテランしか取らないのでな。1~3戦隊の兵士長が

 スカウトされてうちの兵士になる、という形で回しているのだ。

 そのお陰で、兵士以上騎士未満な連中がゴロゴロしている」


ベオルクが補足した。サイアスはベテランという言葉に引っかかった。


「私は経験豊富なベテラン兵ではありませんが……」


「うむ、その辺りから話がややこしくなるのだがな……」


ベオルクはブークを見やった。ややこしい話は押し付けたいらしい。

ブークは待ってましたとばかりに引き継いだ。これも性格なのだろう。


「君は本来実戦経験のないただの村人で、志願兵として採用されるべく

 箔を付けるために物資輸送部隊と任務を共にし、

 結果、志願兵かつ従騎士として入砦する運びとなった。そうだね?」


「はい。すべてベオルク様はじめ多くの方のご厚意あったればこそです」


「うむ。その気持ちは大事なものだな。 

 ……続けると、志願兵として、さらにカエリア王立騎士団従騎士として

 入砦し、訓練課程終了後に兵士長として採用されることが内定した君は、

 兵士長として相応しい経験を少しでも得ておくためにと

 第四戦隊に引き取られ、数日間任務を共にしたわけだ」


「はい。その通りです」


「その結果、北往路の救援において魚人2体を単独で斬り伏せ、

 他兵士と共に残りの魚人をも殲滅した。さらには城砦騎士と

 対等に立ち回って大ヒルをも撃破し、瀕死の兵士長の命をも救った。

 そしてこの英雄的活躍によって、兵士ですら無い身で異名を得て、

 その名を城砦中に知られるようになったのだ」


「色々と大袈裟な気が…… それに対等などでは無いと思いますが」


「いやいや。デレク君は言っていたよ。

『サイアスと二人で軍議し、互いの役割を決め、共に命を掛けて戦った』

 と。彼は君を、攻防の一翼を担い得る対等の存在として扱ったのだよ。

 それゆえに囮を任せたのさ」


「はい……」


「そしてこれ程の武功を持つものを、

 規則だからと見習扱いするのは宜しくない、

 との判断を上層部が下してね。

 本日付で兵士長に就任させることにした、というわけだ」


「サイアス。昨日ローディス閣下にお会いしたろう? 

 実はあの方は「軍師の目」をもお持ちでな。

 あの時実は剣術に関してだけでなく、戦力指数をも算定されていたのだ。

 結果は3.23。既に兵士の水準を超えていたのだよ」


と、ベオルクは説明した。


戦力指数とは余りに強大な魔の戦力を、それでも

何とか観測するために設けられた指数であり

具体的には平均的な城砦兵士を1として算定する。


もっとも兵士の能力には幅があるため、実際の

城砦兵士の戦力指数は1以上3未満とされていた。


つまりサイアスは入砦式前日にして既に

城砦兵士の域を超え兵士長と見做すべき水準に

達していたということになる。


「とりあえず話の三分の一ほどが済んだ。

 少し整理する時間を取ろう」


そう言ってベオルクは果実酒割りを口にし、

サイアスは考えこみつつ一息入れた。

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