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サイアスの千日物語  作者: Iz
序曲 さらば平原よ
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サイアスの千日物語 三十日目 その二十四

マナサの語った一言に、

ベオルクとローディスは思わず顔を見合わせた。


「ククク…… マナサよ、前言撤回だ。詳細に話せ」


ローディスは笑みはそのままに鋭い眼光を放ってそう言った。

ベオルクはヒゲを撫でつつ顔をしかめ、

マナサは肩を竦めてため息をついた。


「丘陵のほぼ中央に巨大な擂鉢上の大穴が掘られている。

 作業に当たっているのは眷属の大群。「縦長」「大口手足」に「死神虫」

 それに「できそこない」が少なく見積もって300は居た。

 大穴の中央には一際深い部分があって、

 岩を組み合わせて屋根を作ろうとしている。おそらくは魔の座所で……」


ローディスは手を掲げてマナサを制し、その言を遮って


「300だと…… 逃げるぞ」


と言い捨てすぐさま登攀口を降ろうとした。

それをベオルクが慌てて捕まえる。


「ローディス殿! せめてもうちょっと聞きましょうぞ」


マナサはお手上げと言った風に手を広げた。


「クッ、放せベオルク。俺たち第二戦隊は強襲専門。

 襲いかかるのは大得意だが、襲われるのは超イヤなのだ」


そういうとローディスは自分を掴むベオルクの脇腹を、

小突いたりくすぐったりし始めた。


「まぁそう言わずに。部下も見てますから……」


ベオルクは必死でなだめたが、マナサら部下たちはしれっとしていた。


「この男はいつもこうよ? もう見慣れたわ……」


ローディスはなおも逃れようとげしげし小突いていた。


「致し方ない。マナサ、後で報告書を上げてくれ。

 一刻も早くここから立ち去った方が良いのは間違いないしな」


ベオルクは脇腹を執拗に攻め立てるローディスに辟易して手を放した。

ローディスは飛ぶ様に登攀口を降って馬に乗り、

部下たちに指示を出して撤退準備を進めた。そして


「遅いぞお前たち! 死にたくなかったらさっさと降りて来い」


とベオルクらに叫んだ。逃走する気は満々だが、

それは自分個人がではなく、部隊として、ということらしかった。


「お前たち、随分と苦労をしてそうだな……」


ベオルクは脇腹を擦りつつ、溜息とともに呟いた。


「まぁ、異様に切り替えが早いだけだと思えば平気よ。

 歌声だけは救いようがないけれどね……」


「あぁ、歌うと人が死ぬという、噂の」


「あれを聴かされる位なら、荒野で野宿する方が数倍マシ。

 寝入りに聞こえてくるだけで、大勢が悶え苦しみ悪夢を見るわ。

 そういう理由もあって、私は第四戦隊の営舎に入り浸っている。

 どうか、大目に見て欲しい」


第二戦隊の営舎は城砦の南東、

第四戦隊の営舎は城砦の北西にあり、丁度対角線上、

最も遠い位置にあった。そこまでしてでも逃れたいということなのだろう。


「噂の蜘蛛女はお前か……」


ベオルクは深い溜息をついた。かねてから営舎にまつわる

怪談染みた噂があったのを思い出したのだ。


「まぁ、部屋は余っている。好きにしてくれ」


ベオルクとマナサ、そして兵士たちは程なく登攀口に戻り、

その場の総てが馬上の人となった。そのとき北西に一際白い狼煙が上がり、

兵士たちは喜びにどよめいた。


「ふむ、状況を終了せり、か」


ローディスは呟いた。そして一向に告げた。


「ここのことは一旦忘れろ。当所の予定通り北往路の警護に向かうぞ」


第二戦隊、第四戦隊の騎馬の群れは、北往路を目指して荒野を疾駆した。

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