サイアスの千日物語 五十一日目 その五
「ロイエとは旧知だったり?」
昨日派遣されてきただけにしては
やや親しさが勝るように感じ、サイアスが問うた。
「よく判ったわね!」
「はい」
ロイエとクリームヒルトは同時に応じた。
クリームヒルトはまたしても気まずい感じで
黙りこくった。が、ロイエはまるで気にしなかった。
「中央城砦に来る前、アウクシリウムで
タチの悪い連中を縛り上げた話、前にしたでしょ?
今ここにいるのはあの時一緒に動いた面々よ。
ここに着いてからも暫くは一緒だったんだけど、
私はほら、あんたに一目惚れされちゃったからね!」
「成程……」
ここは絶対に異議を申し立ててはならない。
そうサイアスは、強く自らを戒めた。
クリームヒルトらは無言でこくりと頷いた。
「まぁせっかく閣下がこの娘たちくれるって言うんだし。
流石に6人全部とは言わないけど、ちゃんと
1人くらいは引き取りなさいよね!」
ロイエは得意げにそう言って笑った。
クリームヒルトらは無言でこくりと頷いた。
「……まぁそれはそれとして。
オッピドゥス閣下なり上層部なり副長なりからの
軍務に関する指示とか、預かってない?」
サイアスは厄介事から目を背けるべく
手早く話題を変じた。
「山ほどあるわよ!
どれから聞きたい?」
「……軽めなヤツからで……」
サイアスは薮蛇を目の当たりにして嘆息した。
「はぃはぃ、まずは……
あんた黒の月の間、城外出動禁止!」
ロイエは子供を叱るがごとくピシャリと告げた。
「……誰から?」
予測済みであったものか、
サイアスは無表情のままそう問うた。
「騎士団長チェルニー・フェルモリア閣下。
……シェドがそのまま偉くなった感じの人ね」
ロイエはチェルニーが聞いたら卒倒しそうな評価を下した。
「魔が活性化する黒の月の間は、城砦内にいろって話。
クリンたちの任務期間もその範囲だし、まぁ妥当よね」
これにはクリームヒルトらが大いに頷いた。
「追記もあるわよ。
『暫く大人しくしてろ。まぁ退屈なら……』」
「『歌唱奏曲に励むが良い』とか?」
「あら。 ……あんたあの閣下と仲良いの?」
「どうだろう……」
ロイエの問いに苦笑しつつも
サイアスはチェルニーの意図を悟った。
要は囮を継続せよということだ。
化身めいた存在を実際に引き摺りだしたところから見ても、
奸智公爵にサイアスという囮が頗る有用なのは実証されている。
ならば守りを固めた城砦でその注意を惹き、出城と集積所から
注意を逸らせしめよ。とまぁ、そういうことらしい。
「……白状しなさいよ」
「はいはい……」
サイアスは詳らかな説明を強いられた。
「ふぅん? 成程ねぇ」
ならクリンたち「表」の護衛以外にも
相応の手勢がサイアスに付いているのだろう。
アウクシリウムでならず者らに対し取った
自身の策を踏まえ、ロイエはそのように理解した。
「次! オッピドゥス閣下から。
『暇ならそいつらを鍛えてくれ』だって。
……そういやあんたら、みんな剣装備ね。
クリンって槍使ってなかったっけ?」
「はぁ。恥ずかしながら……」
ロイエの回避不能な指摘を受け、
クリームヒルトは申し訳なさそうに説明した。
「第一戦隊正規仕様の甲冑は装甲が非常に厚く重く、
これを装備するのに最低でも膂力13を必要とします。
また精兵部隊等の専用盾メナンキュラスをはじめとする
金属盾が、両手武器より厳しい膂力3相当。
第一戦隊兵士は予備隊を除き、
皆膂力が15以上に達しているのですが
新兵は武器を装備するどころではない有様で」
人より強大な眷属の一撃を、それでも1度や2度は凌げる程
頑強な甲冑は、受けて耐える「盾」である一戦隊の全兵士に必須。
手にする盾は一般的な木や革主体の軽めのものを用いるとしても、
新兵はこの2品でほぼ膂力の限界に達するのだとか。
「甲冑と盾さえ装備できれば、部隊行動に何ら支障はありません。
護衛の任も問題なく果たせます。あくまで付記ということで」
盾は上級者ほど攻防一体の用い方をする。
そもそも第一戦隊長オッピドゥスからして、
「双璧」すなわち両手に盾な、盾格闘の達人である。
クリームヒルトの言には強い信憑性があった。
「成程ねぇ……
まぁそれならうちの三人衆もついでに鍛えてやれば?
不相応にご立派な剣持ってるし」
ロイエはさりげなく三人衆を巻き込んだ。
剣の件は把握しているぞ、という脅しでもあるらしい。
「じゃあ取り合えず剣術にしようか。
心得自体はあるみたいだし、実戦域にはすぐ届くだろう」
クリームヒルトの剣術は既に2らしい。
そう見て取りつつサイアスは応じた。
「んじゃ次! セラエノ閣下からね。
あんたらが隘路で倒した未知の大型眷属。
戦力指数の算定が済んだって。40だそうよ……
陸に乗り上げてる分やや弱まって30後半だろうって。
あのイソギンチャクと同じかそれ以上ね。キモいキモい」
ロイエはうんざりして肩を竦めた。
サイアスとしては算定方法が気になったが、
これはセラエノ当人に確かめる他、ないだろう。
「それで。戦闘した部隊に勲功20万点が追加されたわ。
また無茶苦茶な稼ぎ方したわねぇ……
指揮官はあんただから、分配してくれって話。
命名とは別件で早めにお願い、だそうよ。
このあと三戦隊と二戦隊にも書類回さないといけないから。
今すぐこの場で決めちゃって」
「第二戦隊から抜刀隊9名と騎士2名。
デレク様率いる騎兵隊が9名で合計20名。
この20名に対し1人1万点ずつで申請しておいて」
サイアスは言われるままに即決した。
「ん」
ロイエはちょいちょいとサイアスを手招きした。
「ん?」
そしてひょっこり寄って来たサイアスを
ガバリと捕まえギリギリと締め上げた。
「何をする……」
「『自分の取り分は要らないとか言ったらシめれ』
って閣下から」
「ぇー」
サイアスはうんざりと声を発した。
「ぇー、じゃないわよ! 上がきっちり取らないと
下が余計な気ぃ使うでしょうがこのお馬鹿!」
「ぬぅぅ……」
ほとんど駄々っ子のごとく叱り付けられ、
サイアスは呻きつつデネブに救いを求めた。
しかしガン無視された。
「ほらさっさと決めなさい!
さもないと……」
ロイエはサイアスをくすぐり出した。
「ま、待て! 考えるから、ちょっと!」
サイアスはもがきつつクリームヒルトに救いを求めた。
「民事不介入であります」
「!?」
助けて欲しくば嫁に引き取れとでも
言わんばかりにクリームヒルトは短くそう告げ、
サイアスは暫し悶絶しつつ必死に思案した。




