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サイアスの千日物語  作者: Iz
序曲 さらば平原よ
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サイアスの千日物語 三十日目 その十八

「それじゃサイアス。簡単にではあるが、軍議を始めることにしよう」


デレクは結びなおしたローブをまた解き、先端から少しずつ、

口を開けた二つの革袋に順番に突っ込みながら話し始めた。


「宜しくお願いします」


サイアスはそう答えて一礼した。


「うむ。敵は大ヒル1体。1体のみで確定だ。

 水深や川幅からいってそれ以上は有り得ない。そこは安心していい。

 大ヒルは見ての通りの巨体で、膂力も相当なものを持っている。

 その反面、天敵がいないせいもあって守備はそこまで高くない。

 動きも素早い方ではない。とはいえ水中にいる間は手が出せないから、

 なんとか引きずり出す必要がある。こちらに攻撃するときは

 水から飛び出すから、そこを狙えばいいわけだ」


デレクはそこで一息いれ、サイアスを見つめながら続けた。


「具体的には、攻撃直後の硬直を誘う。

 ヤツの攻撃は縦に持ち上がっての打ち下ろしと

 全身を使っての横殴りな体当たりだ。技としての速さはどちらも

 さほど脅威ではないが、縦への打ち下ろしは

 乗り出す部位が少ない上戻りも早い。

 一方横殴りな体当たりは仕掛け後の硬直が長く戻りも遅い。

 そこでこの体当たりを誘い、

 直後の戻りを一気に攻めて仕留める手でいく」


「判りました」


サイアスは頷き、続けた。


「私が囮をやります」


デレクは目を細め、頷いた。


「頼む。仕留めるのは任せてくれ」


死ねと命ずるがごとき内容を、

サイアスは躊躇なく請け負い、デレクも躊躇なく任せた。


「サイアス、あれは音と臭いを頼りに攻撃している。

 目視して襲っているわけではない。左右に間断なく不規則に動けば、

 小柄なお前に狙いを絞りきることはできない。十分かわせるはずだ」


「はい」


「大ヒルから見れば、お前は地面に生えた草のようなものだ。

 十中八九、まずは縦へのうち下ろしでくる。数発回避してやれば、

 業を煮やして横薙ぎにくる。そいつをなんとか誘って貰いたい」


「横薙ぎの一撃は面攻撃だ。かわせないこともあるだろう。その時は」


デレクは一拍置いて続けた。


「跳べ。跳び上がって強撃を放て。剣を叩きつけて衝撃を殺し、

 浮かせた身体でそのまま吹き飛ぶんだ。舞い落ちる木の葉を切るのは

 難しいだろう? お前の華奢な身体をあんな巨体で薙ぎ払っても、

 地に足付けて踏ん張らなければ盛大に吹っ飛ばされるだけで済む。

 着地はまぁ、自力でなんとかしてくれ」


後半の投げやりさはともかく、

明確な指針ができたことでサイアスは随分気が楽になった。


「判りました。やってみせます」


サイアスの言葉にデレクは満足気に頷き、さらに続けた。


「あれの表皮は川の淀みと粘膜に覆われていて、

 打撃や斬撃は通りにくい。

 そのため、『目』を見抜いて斬るという手は使えない。

 だが、それでもやり方次第でぶった斬れるってのを、

 一つお前に見せてやろう」


デレクはそう請け負うと、ロープの全部位を二つの革袋に突っ込み終え、

一方の端に短剣を、もう一方の端に小石を拾って入れた

革袋二つをくくり付けた。


「さて、軍議は終わりだ。そろそろ行くか」


デレクは左手に松明、右手に短剣付きロープ、

背中にハルバードという出で立ちで馬に乗った。

そして足のみで巧みに馬を操り湿原側へと移動した。


サイアスは抱えたままのディードの頭を

そっと枕がわりの白布へと戻した。

その時ディードの唇が動き、小さくかすれた声を発した。

サイアスは微笑み、流れた涙の筋を拭ってやった。


サイアスは立ち上がってディードに向き直り、

もはや身体の一部となったカエリア王立騎士団の帯剣を抜いた。

そして切っ先を天に向け、腕を剣樹の紋章の刻まれた胸甲に引き付けた。


「護ります」


そういい残すと、北東へ向かって駆け出した。

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