サイアスの千日物語 四十九日目 その四
「では編成を行う。此度の作戦では役目に合わせ
隊を四つに割る。一隊目は哨戒と遊撃を担う騎兵だ。
作戦全体の本隊である工兵部隊らの進路を哨戒し
障害を適宜排除、本隊の作業地点到達を見届けた後、
機動力を活かして各地点を遊撃せよ。
デレク。8騎を率いてこの任に当たれ」
「了解」
デレクは短く応じ羽ペンで剣礼した。
「二隊目は北往路側のくびれで作業にあたる工兵と
作業地点の警護を担う北往路側における本隊だ。
作業地点の北側に盾と鉄柵で野戦陣を構築し
防備を固めて応戦する。
サイアス、ニティヤ、デネブを除く小隊構成員と
兵士8名をここに据える。この隊の指揮は
このベオルクが執る」
「了解!」
ロイエやディード、兵士らが声を揃えてこれに応じた。
「三隊目は北往路側の本陣を囮として、
寄ってくる敵を背後から襲う伏兵だ。潜伏能力が
鍵となるこの役目はマナサと供回り2名、
そしてニティヤに任せよう。存分に暴れるがよい」
「判ったわ。フフ……」
マナサは目に危険な色を宿したまま、
その傍らにすっと沸いて出たニティヤと薄く笑んでいた。
「四隊目は南北のくびれではなく、北往路の隘路付近、
すなわち魚人が暗躍していた地点に陣取って、
そちらに敵の注意を惹きつける囮だ。
サイアス。お前に任せる。
デネブ及び剣聖閣下が派遣する護衛と共に
派手に歌って敵を誘え。
戦闘においてはひたすら回避に専念せよ。
トレアドールとトルバドールを同時にこなすのだ」
「了解しました」
サイアスは抑揚なくベオルクに応じ敬礼した。
「以上のように3箇所の戦場を4つの隊で支配する。
現地に到達して以降、各隊は独立して行動する。
戦場間の連絡が必要な場合はシェドを用いるとしよう。
またどの隊も移動自体は騎馬や馬車を用いる。
騎兵を除く馬は北往路側の本陣で預かるぞ。
休憩、治療、物資補充等別働隊は必要に応じて
適宜本陣を利用せよ」
「了解!!」
毅然と応じる兵士らの声が営舎の詰め所に響き渡り、
サイアスはすっと小さく手を前に差し伸べ頷いた。
戦隊員らはそれを合図に一斉に立ち上がった。
ベオルクはそれら一人一人の引き締まった表情を
しかとその目に、そして脳裏に焼き付けた後、
ドン、と床を踏み鳴らし、その手を払って大声を発した。
「第四戦隊、出るぞ!!」
「応!!!」
充ち満ちた戦意と英気を鋭く唱和させ、
兵士らは一斉に行動を開始した。
城砦北門の外部、門より東手の防壁沿いには
攻城兵器及び資材やその他の工作用機器各種を満載した
多量の台車と人の群れ。そしてその北にはこれをぐるりと
覆うようにして揃いの装備に身を固めた兵士の集団があり、
作戦開始の時を待っていた。
外郭北西区画、城門内側西手の第四戦隊厩舎を経て
城門内部に到達した第四戦隊の面々は、資材部と防具工房が
共同で用意した自立型の大盾と組み立て式の鉄柵を積み込んだ
台車数台を受領し、換え馬を数頭まとめて輓馬代わりとした。
城門内側で四戦隊を待っていたのは物資ばかりではなかった。
「ベオルク閣下、参謀部のロミュオーです。
こちらは同じくクラリモンド。祈祷師3名と共に
指揮下に入ります。宜しくお引き回しくださいませ」
ロミュオーは参謀部の軍師には珍しい男性であり、
フードを下ろして冠で髪を束ね、
薄紫のローブの上に薄手のチェインメイルを羽織って
さらに金で刺繍された白と紺のサーコートを纏っていた。
腰にはショートソードとメイスを吊っており、
軍師というより僧兵といった様相だ。
一方のクラリモンドは淡い紅色のローブに黒い裏地を持つ
鮮やかな真紅のケープを羽織り、右手には肩口までの長さの
宝飾を施した木の杖を持ち、左手には撒いた羊皮紙の束を
つめたバスケットを抱いていた。フードからは眩い金髪が
こぼれており、翳る乳白色の肌に薔薇色の唇が笑んでいた。
「……お前たち、本当に軍師か?」
精悍な漆黒の名馬「ヘルヴォル」にまたがるベオルクは
両者を見下ろし顔をしかめた。
「どーみても僧侶と魔女だなー」
ベオルクの愛馬に勝るとも劣らぬ青毛の名馬「フレック」
にまたがるデレクは遠慮なくそう告げ苦笑した。
「お望みとあらばそのように」
クラリモンドは艶やかな、
どこかからかうような声でそう応じ、
「やっべ美女や、色っぺぇ美女や!」
とシェドが興奮して雀踊りを始め、
ひょっとこ面で舞う奇妙な踊りに周囲から笑いが漏れた。
「やぁ君、そのお面
すっかり馴染んでいるようだね」
ひときわ目立つ軍師2名の背後から、
祈祷師の一人が声を掛けた。どうやらシェドを哀れんで
火男の面を与えた人物らしい。
「おぉ、我が救世主な人!
めっちゃ役に立ってます! ありがとうありがとう!!」
シェドは叫びつつさらに軽やかに跳ね回り、
さすがにうざくなってきたため
ランドに台車へと摘まみ上げられた。
「我ら5名は参謀部の馬車で移動いたします。
施療台も兼ねておりますので」
ロミュオーはシェドの踊りにまったく動揺を見せずそう告げた。
「ふむ。此度は作戦領域が複数に分かれておるのでな。
お前たちにも二手に分かれて貰わねばならん」
ベオルクは漆黒の馬や甲冑に負けず劣らず艶やかな
自慢の黒ヒゲを撫で付けた。
「了解しました。私と祈祷師1名が別働いたします。
そちらの指揮官はどなたになりますでしょうか」
「最上官は資材部の棟梁スターペス殿だ。
武官としては第一戦隊兵士長ガーウェインがおる。
表に居るだろう」
ロミュオーの申し出にベオルクは頷き、
ロミュオーと他1名は敬礼して城門の外へと向かった。
資材部や工房といった生産部門の棟梁は騎士格として
扱われていた。ただし非戦闘員であるため実戦においては
第一戦隊ガーウェイン中隊を率いる兵士長ガーウェインが
戦闘指揮を担うこととなっていた。架橋作戦における指揮系統は
総大将ベオルク。副将格にスターペス。各部隊長としてマナサ、
デレク、サイアス、そしてガーウェインといった様相となっていた。
「っしゃあ!!」
ロミュオーが南側に、クラリモンドが北側にまわると判明し、
シェドは拳を固めてガッツポーズをした。それはある意味
その場の全ての男性兵士の熱意を代弁していたが、
「とりあえず失礼だぞお前」
とデレクが愛馬フレックの尻を台車のシエドに向け、
フレックは空気を読んでシェドの顔を尻尾ではたいた
「ぶふぉあ! ぺっぺっ! きちゃねぇ!!」
とシェドは呻き喚き、それを面白がったか怒ったか、
フレックはさらにペシペシと尻尾でシェドをはたき、
実戦前の緊張を欠片も感じさせぬその様に
周囲からは苦笑が漏れていた。




