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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十七日目 その十七

「ぬぅ…… あの細っこいナリでよくもまぁ……

 俺の知る限り、そういうことをやっちまうのは

 ごく一部の化け物だけだぜ。城砦騎士っていうんだがね」


頭格の職人は半ば以上呆れて唸るようにそうこぼし、

杯を仰いで喉を湿した。


「おぉ、サイアスさんもいよいよ騎士に……

 ってもうカエリアの王立騎士だけど」


「成程、おかしなヤツだとは思ってたが、

 ついに人外に…… 何だか感慨深いな!」


ランドやシェドは顔を見合わせ頷き合った。


「サイアスが使ってた槍、穂先はどんなだったね?」


職人は顎に手をやり思案していた。


「えっと、ごく普通の形状をしていたと思います。

 少なくとも気になるような形じゃなかったかな……

 槍自体は細身で軽そうだったかな? 

 それでも持ってるの面倒になって台車に投げてたけど」


いざ戦闘となって指揮を執る際には

サイアスは何度も手にした槍を掲げてみせていたため、

ランドには穂先を見る機会が十分あった。

それでいて格別形状が記憶に残ってはいないため、

こうした返答をすることになった。


「成程な…… 一般論でいうとだな。

 刺さり過ぎて抜けなくなるのを防ぐ手立てとしては、

 穂先の根本にストッパーとして鍔を宛がうってのがある。

 棒状だったり単なる輪っかだったりと鍔の形にゃ色々あるが、

 柄の3倍程度の直径をした円盤状の鉄板が多いな。

 東方の刀に付いてる鍔を、まんま付けた感じのヤツだ。

 槍で言えばオウルパイクってのがこれに当たる。

 もっともオウルパイクは刺突専用な歩兵の長槍だ。

 石突を地に付け踏みつけてつっかえ棒みたいにして、

 突っ込んでくる騎兵なんかにぶっ刺すのが主たる用法だ。

 ただサイアスは騎兵、即ちパイクに突っ込んでくる側だ。

 長さも重さも取り回しも、騎兵にパイクってのは微妙だわな」


職人は製図用の図面を用意しつつ

ランドやシェドにそのように語った。


「ランスはどうですか?」


「ランスってのは重騎兵用の特殊な槍だ。

 槍とはいうが穂先も刃も無ぇ。

 むしろ尖った棒というべきだな。

 こいつは馬鹿でかい馬にごっつい鎧を着せ、

 自身も重装して騎乗し突撃を仕掛け、

 全重量を乗せた衝撃で敵をぶっ飛ばすためのもんだ。

 問答無用の駆ける災厄って感じだぜ。

 喰らった敵は貫通どころか木端微塵、バラバラだ。

 ともあれランスを使うには鉄騎と甲冑が必須だ。

 サイアスには合わんだろう」


頭格の職人は苦笑してそう告げ、

次いで鋭い眼差しとなった。



「それにな…… 一突きくれて首を刈り飛ばすような

 出鱈目な技にゃ、隠し味の一つや二つありそうだぜ。

 聞いた話じゃ、あいつ剣聖剣技を使うそうじゃねぇか。

 となるとこいつはおそらく『旋』の仕業だ。

 旋は突と斬、両方の特徴を持ってるそうだ」


「おぉ、成程…… 

 というか随分剣技にお詳しいんですね」


「ハハハ! 当たり前ぇだ。

 用途も判らんで道具が作れるかね。

 剣技であれ槍技であれ、技は武器を使うためにある。

 そしてその武器を作ってるのは俺らなんだぜ?

 俺らは現存する大抵の戦技を把握してるぞ。

 まぁ、自分じゃ絶対に使えねぇけどな!」


頭格の職人や周囲で作業していた職人たちは

腹を抱えて身体を揺すって笑い出し、

ランドも頭を掻いて照れ笑いした。

シェドは再びカクカク動いてさらなる笑いを取った。



「あぁ腹いてぇ…… お前ぇ笑わせ過ぎだぜ。

 まぁアレだ。そういう特殊な事情を勘案するとだな、

 むしろ穂先に刃を追加して、さらに切れ味増しちまった方が

 都合がいいのかも知れんなぁ」


頭格の職人はそういって図面を描き出した。


「穂先はこんな塩梅でどうだ。んで柄だな……

 切れ味重視だと茎式が無難だが、細身となると

 強度も問題だな。いっそ総鉄身に……」


ブツブツと思考を口に出しつつ製図する様を

ランドは間近で覗きこみ、脇からこっそり描き込みを始めた。


「あん? お前ぇさん設計の心得ありかぃ?」


頭格の職人は、ランドの描き込みを一目見て

その才能を見抜いた。


「絵を描きます。あと兵器の設計と製作も……」


ランドは攻城兵器や台車を設計し組み上げたことを話した。


「こりゃたまげた。

 お前ぇいっぱしの職人じゃねぇか!

 まぁ鍛冶についちゃ素人らしいが」


頭格の職人はカラカラと笑いつつ

ランドの頭を拳でグリグリした。


「あ、あはは…… 痛いです……」


「まぁそういうことなら柄の構造はお前ぇに任すぜ。

 ちぃと頭捻ってみな」


「あ、はい。自分で捻るのでその、

 拳を捻り込むのは無しで…… 

 何なら僕の代わりにシェドの頭を捻っておいて頂けると」


「ちょっ!?」


「あいつは見とくだけに限る。接触は危険だわ」


職人たちは互いに顔を見合わせ頷いて大笑いし、


「何すか…… 何なんすか一体よぅ!

 この扱いには断固、断固抗議するナリ!

 我が怒りの踊りを喰らえぇい!!」


大いに激昂したシェドは

怒りを表現すべくより一層激しくカクカクと踊り、

ランドや職人たちは堪らず悶絶し笑い苦しんだ。

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