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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
486/1317

サイアスの千日物語 四十七日目 その十六

俯瞰すれば東西南北に頂点を持つ正方形を

成している中央城砦の本城。

その一階部分を十字に走る大路で四分したうちの

北東の区画は、その殆どが武器工房となっていた。

元来武器は消耗品であり、荒野では敵が敵だけに損耗も激しい。

そのためここ武器工房や階下の防具工房、さらには

目抜きの大路を挟んで西の資材部などは、昼夜の別なく

常に盛況な状態にあった。


その武器工房の最奥、巨人族の末裔たる工房長インクスの

体格に合わせて設計された特大かつ特級の炉の側で、

インクスやサイアス、そしてデネブは楽しげに笑っていた。

すると工房の中ほどから、自分たちのものよりも

遥かに大きな笑い声が聞こえてきたため、

サイアスらは互いに顔を見合わせ、一体何事かと声の出所を探った。


サイアスらのいる場所から筋2つ程手前、

これも平原の基準でいえば特大な部類に入る

大きな炉の側には人だかりができており、手空きの職人衆が

寄って集って拍子を取り、音頭を取りつつ楽しげに騒いでいた。

喧騒の合間には激しく打ち込む鎚の音や掛け声

そして奇妙な声まで聞こえてくる。

流石に気になったサイアスらは、近くまで様子をうかがいに出向いた。

すると人の輪の中心には4名の男がおり、

そのうち2つはサイアスのよく見知った顔だった。




サイアスやデネブが工房最奥に陣取るインクスの下へと

出向き、八束の剣の顛末やその他諸々を話し込んでいた頃。

ランドとこれに引きずられるシェドは

工房なかほどの大きな炉へと作業の見物に出向いていた。

丁度そこでは1振りの剣身の打ち込みが終了したところであり、

出来を確かめ頷いた頭格の職人が別の職人へと剣身を手渡し、

額の汗をぬぐって杯に手を伸ばしていた。


「おぅ兄ちゃん。どうしたぃ」


戦斧を担いで斬り込めば随分様になりそうな

いかつい頭格の職人は、やたら目をキラキラと輝かせ

周囲を興味深げに見回しているランドに苦笑し声を掛けた。


「あ、あのすみません。少し手前の職人さんに

 何かお手伝いさせて貰えないかって聞いたら、

 こちらで相槌をさせて貰えるって話だったので……」


ランドはシェドを放りだし、恐縮しつつそう告げた。


「相槌? 構やしねぇが結構きちぃぞ?」


職人は苦笑したままランドを見上げ、


「ほぅ、なかなか腕っぷしは良さげだな。

 一戦隊の兵士かね?」


と杯をあおりつつ問うた。


「いえ、四戦隊です。

 サイアス小隊のランドといいます。

 こっちは同僚のシェドです」


「ほほぅ、あのサイアスの部下って訳か。

 ちゃんと野郎の部下もいたんだなぁ」


職人はそう言ってカラカラと笑った。


「あはは、いますよちゃんと、3人も!

 まぁ、女性の方が多いですが……」


ランドは苦笑し、

シェドはお手上げといった風に手を拡げていた。



「昨日まで下の防具工房に一戦隊から応援が

 入っててな。てっきりそこから流れてきたのかと。

 わざわざここまで来るってこたぁ

 あんた、鍛冶に興味があるのかね」


「はい、とっても!」


ランドは大変元気よくはきはきと返事した。

童心に帰ったかのようなその様に、

シェドは首を傾げていた。


「ははは! そうかい。

 こうも朗らかに言われちまうと、

 すげなく追い返す訳にゃいかねぇな。

 よっしゃ、さっきので今日はあがりなんでな。

 一息入れたらお前ぇの好きなモン打ってやろう。

 もちろんお前ぇも手伝うんだぜ?」


職人は屈託のないランドの態度が気に入ったようだ。

工房の職人の多くはその日のノルマを果たした後も

大抵は工房に留まって、或いは習作として、

或いは余暇の小遣い稼ぎとして、別途

装備等の製作に励むことがあった。

この職人も御多分に漏れずそのつもりであったため、

ある意味渡りに船な状況といえた。


「やった! ありがとうございます!!」


職人の厚意に大いに喜んで

文字通り雀踊りしそうなランドは


「シェド、聞いたかい!? 

 何を打ってもらおうかな…… うーん。

 あぁ、自分で使うものでなくても平気か。

 じゃぁサイアスさんのにするか。昨日剣折れちゃったし。

 剣は今日用意して貰うみたいだからいいとして、

 そうだなぁ槍かなぁ? 昨日使ってたのは投げちゃったしね。

 サイアスさんは剣が得意だけど、槍も結構使ってるからなぁ。

 あぁでもどんな槍が良いんだろ……」


ランドは何やら自分の世界に入り、ブツブツと悩み耽っていた。

形だけ話し掛けられかつ放置されたシェドは、ランドを

問い質すように首を突出し、反応がないので諦めて

くるりと職人に向き直り、お手上げポーズ、かつ、がに股立ちで

首を職人へと突きだしたまま、その首だけを高速で左右に

カクカクと揺らしてみせた。職人はそのひょっとこ面と

奇天烈な動きに思わず噴き出した。


「ぶふぉっ! げっほがっほ…… なんじゃこりゃぁ!!

 あぁ、お前あれか! フラれ饅頭ガニってヤツか!?

 うぅむ、まったくとんでもねぇイキモンだな……」


職人はむせながら大声でわめき、

周囲の職人が慌てて振り返り、

そして動揺し同様に噴き出した。


「ちょっ、何でこんなとこまで広まってんだよ!?」


シェドは何やら憤慨していたが


「そりゃお前ぇ、鏡でも見ながら考えてみろ……

 はぁ、びっくりし過ぎて疲れが吹っ飛んだわ」


と職人は杯を置き、手ぬぐいて口元や汗をぬぐった。


「お前ぇ、えぇとランド、だったよな。

 ショックで名前ど忘れするとこだったぜ。

 サイアスは槍をどんな風に使ってたのかね。

 ちょっと思い出してみな」


「あ、えっと……」


ランドは職人に言われるまま、

先日の戦闘でみたサイアスの槍技、即ちミカと共に突進し

できそこないの首を串刺しにしつつ吹き飛ばした妙技を

身振り手振りを交え、どこか誇らしげに語って聞かせた。

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