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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十七日目 その六

報告書の内容を要点のみ掻い摘んで話した

サイアスは一息入れ、デネブに何事か告げた。

デネブは小さく頷いて居室を後にし、それを見送った後

サイアスは、今度は話題を向こう数日間の予定へと移した。


「宴は今夜で4夜目となる。

 百頭伯爵にとっては3夜目で、戦歴から判断すれば

 此度の宴で顕現し暴威を振るうことのできる最後の機会となる。

 

 流石に見誤ると取り返しがつかないので、

 城砦としては数日様子を見た上で次の行動に移ると思う。

 特務は基本外周りだから、向こう数日間は

 第四戦隊うちの出番もない。よって待機任務と言うことになるね」


「ふむ、今は籠城策を取っているのですね」


「そのようだね。既に魔を二柱討伐するという

 史上例のない大戦果を挙げていることから、

 このまま宴を大勝で終えるべく、不用意なことはしない方針だね。

 個々の戦闘と違い、大戦には勝ち方負け方というのもあるから。

 百頭伯爵の性質を踏まえ、さらに宴の後の作戦にも

 備えて籠城が最適だとの判断に至っているようだよ」


ディードの問いを受け、

サイアスが自身の観測を加味しそのように語った。


「ほへー、ややこしや…… 

 まぁ俺っちには関係ねぇや。

 伝令は思索せぬ! 常に前向き全力疾走!」


「ッハハ、判りやすくて良いやな」


シェドの言にラーズはニヤリと頷き同意した。



「なぁところでよ。百頭伯爵て

 結局どんなヤツなん? ほれ、見た目的に」


指令室で映像を確認したサイアスを除き、

この場の誰も、百頭伯爵の外観について

詳細に知ってはいなかった。サイアスはシェドの問いに頷くと、


「人や眷属の大小様々な、そして表情だけは皆一様に

 怨嗟や憤怒や悲嘆で染まった無数の頭部が、

 呪詛を口走りつつネバネバと糸を引き、

 引っ付いたり離れたりしながら高速で迫ってくる感じ。

 

 呑まれたものは頭部を残し溶かされて、

 新たな百頭伯爵の頭部として加わる。

 屍や生者を際限なく取り込んで自らを強化し、

 ゆくゆくは魔の王に至る、そういう相手だね」


と説明した。


「うげぇ…… なんじゃその、地獄の人面納豆……」


シェドは心底気色が悪そうな声を出した。


「納豆…… って何? 

 いや、やっぱりいい。多分私の敵だ」


サイアスはふと抱いた疑問をすぐに打ち消した。

得る知識は取捨選択すべきだとの判断だった。


「あぁうん、あんたとは絶対合わない気がするわ」


納豆なるものを知るらしきロイエが

すぐにサイアスの判断に賛同してみせ、

ニティヤが頷きディードが苦笑していた。

女衆のそうした態度に自身の判断の正しさを確信し、


「まぁともかく、百頭伯爵は対処法が未だ確立されて

 いない相手でね。迂闊に手を出し火に油を注ぐよりは

 と全力で無視しているところだね。

 移動速度は速いけれど、日中潜伏の必要性から

 アレそのものが平原まで突っ走るとは考えられないし、

 この辺りの眷属は奸知公爵が根こそぎさらった上

 奥地からの増援も妨げているので他の攻め手も来ない。

 というか人も眷属も魔すらも見境なく呑みこむからね。

 あらゆる存在に敬遠されているのではないかな」


と、サイアスは伯爵に関する一通りの説明を終え、

シェドに苦笑してみせた。


「……うぉぃ! こっち見んな!!」


サイアスの視線にシェドは抗議した。


「シェドはまだマシじゃない?

 男子衆には基本的に人気があるし、

 女子衆も近寄らなければ生命活動停止勧告までは出さないよね」


ランドはランドなりの誠意でさりげなくシェドをとりなした。


「そんな勧告出されてたまるか……

 俺っちは自由に大空を羽ばたくの! ですよねディードさん!」


シェドは新顔ゆえ自身に優しく接してくれる

可能性を夢見て、ディードへ媚びるように同意を求めた。


「近寄ったら殺します」


しかし現実は非情であった。

ディードは触れられるくらいなら死を選ぶ程の

筋金入りの男嫌いであり、冷徹な視線を投げ返した。


「ファッ!?」


「手伝うわよ」


「フィッ!?」


「部屋汚さないでね」


「フォッ!?」


ニティヤとサイアスが次々に無慈悲な主張をおこない、

シェドは素っ頓狂な声で反応した。

さらにランドが


「うんうん、オチを自在に操ってるねぇ。流石シェド」


と微笑んでみせ、


「好きでやっとるんちゃうわい!」


とシェドが一声叫んできっちり綺麗にオチが付いたところで

サイアスの命を受け退室していたデネブが

台車と共に居室へと戻ってきた。台車には人数分の特製果実酒。

サイアスからのささやかなねぎらいとのことだった。


「流石に酒宴はマズいけれど、

 この程度のお祝いは、ね」


サイアスは小さく小首を傾げウィンクし、

皆に特製果実酒を勧めた。


「おぉ凄ぇ! さっすが隊長信じてた!!」


「調子いいわねアンタ!

 でもまぁ今は許す!」


大きなガラスの杯に細かく砕いた氷をふんだんに盛り込み、

色彩豊かな種々の果実酒を何層にも分けて注いで虹のごとく

煌びやかに輝かせ、その上さらに果肉や氷菓までトッピング。

スイーツの達人たる第四戦隊営舎厨房長による特盛特製果実酒が

それぞれの下へと配された。一同は大いに喜び、暫し至福を堪能した。

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