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サイアスの千日物語  作者: Iz
序曲 さらば平原よ
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サイアスの千日物語 三十日目 その九

朝。地平の傍らをゆるりと昇りゆく太陽が

ようやく世界を明明と照らし、平原の人々も眠りから醒め、

夢から現へと心の在り処を移そうとする頃、

荒野の中央には夢幻のような光景があった。


次々と襲い来た恐怖の果てにあった偵察小隊の生き残りには、

それはまさに夢にまで見た光景であったし、

向こう見ずにも突っ込んでくるただの一騎を

我先に喰らい殺さんとする羽牙の群れには、

それはまさに悪夢と言える光景であった。


ベオルクは抜き放った長剣を高らかに掲げて頭上で旋回させ、

錐のように尖って殺到する羽牙の群れを、裏刃で左、表刃で右と

薙ぎ払った。明滅する刀身からは、青白い光が冷たく燃え盛る

地獄の底の炎のように溢れ、残光を残して敵の群れを侵食した。


見惚れていたのか、竦んでいたのか。

錐のように殺到する羽牙の群れはロクな抵抗も見せぬまま

魔剣の切っ先に捉えられ、微かにでもその剣閃に触れたものは

青白い燐光を発して燃え尽き、周囲を未明の青さに染め上げた。


ほんの一瞬の交錯で、羽牙の群れは半壊した。ベオルクの二振りで

実に12体を失った羽牙の群れは、絶叫しながら上空へと、剣の届かぬ

安息の空へと逃げ出した。そしてそれを待ち詫びたかのように、

弓弦の音が次々に響いた。


南方から飛来した矢は立て続けに4体の羽牙を貫き、地に落とした。

落下した羽牙はまだ生きていたが、ベオルクに続く9騎の馬蹄にかかり、

見るも無残な肉片と化した。残る7体はさらに上空へと逃げ、

その後湿原へと飛び去った。


ベオルクは進路の南方、湿原に沿った右手の先から

デレクが駆けてくるのを見た。デレクはなんとか先陣に追いついた後、

偵察小隊の残存兵に当てぬよう、射線確保のために南方へまわりこみ、

川へ向かって弓を構えたのであった。


「あちゃー、七匹逃がしちったよ。まあすぐ殺すけど」


そう呟きつつ馬足を落とし、

同様にゆるりと進むベオルクの側まできた。


「副長ー、その剣おっかないんで早くしまってくださいよー

 あとはこっちでやっとくんでー」


「……フ」


デレクの訴えに軽く苦笑し、ベオルクは剣へ語りかけた。


「また呼ぶ」


剣は徐々に輝きを弱め、ゆるりと鞘へ戻っていった。

ベオルクの手は単に添えられているだけで、

剣が自らの意志で戻っていくようにデレクには見えた。


「ふー、良かった良かった。

 これでいつものチョイ悪中年ヒゲ親父に戻りましたね!」


デレクは肩をすくめてそう言うと、

ささっとベオルクの手の届かない位置に逃げた。


ベオルクは舌打ちしつつそれを眺め、


「……まぁいい。それより、多少は生き残りが居るようだ。

 換え馬で運んでやるとしよう。 ……デレク」


「はい? なんです?」


ベオルクは低い声で言った。


「この戦いを、虎視眈々と見つめている者がいる。

 剣がそう言っていた。」


「またサラっと怖いことを……」


「私は心当たりを探ってみる。伏兵には十分注意しておけ」


「心当たり、あるんですか…… ま、了解ー」


ベオルクはそう告げるとデレクと離れ、

9騎を伴って南方へと進み始めた。


「ちょっと、全部連れていかなくても! 酷い!!」


デレクは喚いたが、


「すぐに後続が来る」


ベオルクは笑ってそのまま行ってしまった。


「はぁ、しょーがない。行くかー」


デレクはぼやきながら隘路へと進んでいった。

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