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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十六日目 その三十九

南より迫る異形に悠然と背を向け、

兵士らの敬礼を一身に浴びるサイアスは言葉を継いだ。


「戦術の策定に当たり各員に答申を願いたい。

 ランド。攻城兵器の射程と油玉の残数を」


「はい! 有効射程150オッピ。油玉残数4です。

 ただし加工前の素材を8つ分持参しています」


ランドはサイアスの問いにそう応え、


「加工にどれ程掛かる」


とのさらなる問いには


「手伝って貰えるなら数分内に!」


と請け合った。


「判った。 ……哨戒部隊長」


サイアスは続いて増援として駆け付けた

第二戦隊所属の哨戒部隊を率いる兵士長へと声を掛けた。


「ハッ」


「火罠を仕掛けたい。本陣より50オッピの位置に

 敵の到着より早く進路を横断する東西の溝を掘り、

 可燃物で満たして火の壁を張る。できますか」


かつて城砦北の戦闘において、第二戦隊長にして剣聖たる

ローディスの命により、第二戦隊兵士らが瞬く間に

大盾や杭を用いた即席の遮蔽陣を構築してのけたことがあった。

第三戦隊の専門の工兵顔負けのその能力を今発揮できないか、と

サイアスは問うているのであった。


「東西に10オッピ。幅と深さは拳二つ程。

 この程度でよろしければ確実に。

 ただ、掘った溝を満たすだけの可燃物があるかどうか……?」


哨戒部隊は機動力重視の軽装歩兵であり、

溝を掘る作業自体はいかようにもこなせるものの

陣地や罠を構築するような資材に持ち合わせはない。

哨戒部隊長のこの主張は当然で、資材に関しては

サイアス小隊次第と言えた。


「油は4樽。木屑と小麦粉が4袋ずつあるぜ」


と兵士長の発言を受けてラーズが手早く台車の資材を検め、


「既にある油玉4つも火計に使うとしよう」


とサイアスがさらに提案した。


「十分な火力ですな。お任せください」


兵士長はこれに頷き再度敬礼してみせた。



「よし。では戦術の通達と下令をおこなう。

 オッピドゥス閣下! 本陣と敵を結ぶ直線上を南下し、

 およそ100オッピの位置にて戦闘態勢で待機願います。

 目的は敵に錯覚させることです。

 

 地形を無視し奇岩群を強引に薙ぎ倒してひたすら直線的に

 迫ることからみて、敵は視力が低いか或いは視覚以外の方法で

 本陣を補足し移動していると推測されます。

 

 ゆえに進路を本陣の構造物に勝るとも劣らぬ

 閣下の巨躯で塞ぐことによって敵の距離把握に錯覚を起こし、

 本来より遠い位置で戦闘態勢を取らせ、足止めさせる。

 これが一手目の策となります」


サイアスの智謀は宴の一夜目に大いなる魔の一柱たる

貪隴男爵を翻弄し、史上初の宴での魔の撃破をもたらしている。

比類なき勇将たるオッピドゥスもこの点を大いに評価していた。


「ほぅ。つまり敵が俺の位置を

 本陣だと錯覚するように、ってことだな?」


「然りです。また閣下の巨躯を目隠しとして、

 哨戒部隊が着実に罠の設置を行えるよう、との意図もあります」


「了解した。敵が仕掛けてきた場合はどうする」


オッピドゥスはサイアスの策を了承し、

さらにそのように問うた。これに対しサイアスは


「『大口手足増し増し』とは言わばまゆであり、

 我々にとっての馬車や貨車のようなものであると推測します。

 よってアレ自体が積極的に戦闘を行う可能性は低いでしょう。

 そのため本陣に迫ったと錯覚すれば動きを止め、おそらくは

 内包する大口手足を放出し、戦闘に用いるものと思われます。

 

 罠が完成するまでにこれらが迫ってきた場合は

 逐次排除を願います。そして後方の罠の設置が完了次第

 南西へと流れ、東西に拡がる溝と共に、大口手足増し増しを

 中心とする弧を形成するようにして、放出された大口手足が

 迂回して本陣へと迫るのを防いでください。

 

 その後は戦局に応じ雑魚を潰すか本体を狙うか、臨機に判断頂ければ」


とルジヌが顔をほころばせるほどの流麗さで詳説してみせた。


「おぅ。承知した!」


オッピドゥスはしかと頷き、装甲を激しく鳴らして敬礼した。



「ランド! ラーズを除く小隊の面々と

 速やかに油玉を完成させ、射撃に備えてくれ。

 そしてオッピドゥス閣下が南西に流れたのを合図として

 壁の向こう目掛け、あるだけ油玉を打ち込むんだ。

 

 大口手足に限らず眷属は火を苦手とするものが多い。

 生まれたてならなおさらだろう。炎の壁の向こう、

 100オッピから150オッピの範囲を爆撃し、

 敵を火の海に沈めその戦意を根こそぎ奪い取る。できるな」


「お任せを!」


ランドは勇んでそう応じた。


「ラーズ! グラニートに騎乗、積めるだけ矢を積み

 本陣と前線の狭間を自由に移動し適宜狙撃を。

 用いるのは通常の矢で構わない。ただしランドが射撃を開始したら、

 火矢を用いて油玉を爆散、炎上させてくれ」


ランドを定位置からの爆撃に用い、

ラーズは機動力を活かして狙撃に用いる。

これがサイアスの二つ目の策であった。


「任せて貰おう」


ラーズは上機嫌で頷き、短く応じた。

サイアスの采配の妙味と自分に対する信頼が

嬉しくて堪らぬといった風であった。



「哨戒部隊各位は、まずは罠の設置に全力を注いで貰いたい。

 オッピドゥス閣下の供回り2名は彼らの護衛をお願いする。

 罠が完成後は二手に別れ、一方は燃料を補給し火の壁を維持。

 もう一方は閣下と同様南東に回り込み、伏兵となって

 敵の迂回を妨害、迎撃を」


「御意!」


先刻確認を取っていたこともあり、

哨戒部隊20名は一片の迷いなく一斉にこれに応じ、

第一戦隊の兵士長2名も甲冑を鳴らし敬礼で応えた。

と、その時サイアスの下令を見守っていた軍師ルジヌが


「兵団長閣下。シェドさんが東の哨戒部隊へも

 援軍要請を発したとすると、遠からずこちらに到着するかと

 思われます」


と情報を補った。


「了解、補佐感謝いたします。では東方に隊の姿が確認でき次第

 私がこれを引き取り、伏兵と共に機を見て敵陣に斬り込みましょう」


サイアスはルジヌに謝意を示し、

これも策の一手として採用することにした。

そしてサイアスは最後に自身の身内らを見やり、


「ロイエ、デネブ、ディード! 

 君ら3名は防衛線を突破してきた敵への備えだ。

 協力して本陣の守備にあたってくれ。

 ニティヤはベリルと軍師殿を保護しつつ、機をみて3名の援護を

 軍師殿は督戦しつつ情報支援。ベリルは負傷者の治療に備え待機だ」


「了解!」


サイアス一家と軍師ルジヌは声を揃えてこれに応じた。



「兵団長閣下。敵が300オッピの距離にまで迫っております。

 敵、本陣到着まで10分。第二戦隊哨戒部隊の増援までおよそ15分。

 騎兵隊到着まで概ね20分といったところです」


ルジヌはサイアスへと答申した。


「了解した。では以上で通達と下令を終える。

 騎兵隊の合流時刻までおよそ20分。

 すなわち20分耐えきれば我々の勝利だ」


そう言うとサイアスはデネブへと目配せした。

デネブはその意を汲み、台車に預かっていた槍をサイアスへと放った。


サイアスは右手で槍を掴むとひょうと風を薙いで一旋させ、

馬首を返して敵へと向き直り、そして槍を掲げた。


「総員、掛かれ!!」 

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