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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十六日目 その五

それは、悪意に満ちた戯画の如き姿だった。


強引に巨体を支える足からはグズグズとした

肉片がこぼれ泡を浮かべて悪臭を放ち、

胴の肉塊は自重で激しく下膨れとなり、

スケイルメイルの張力で辛うじて垂れ落ちるのを防いでいた。


そして膨れ上がった腹部は装甲ごとバックリと上下に裂け、

どす黒い空隙には糸を引いた無数の歯があった。

手首や首から覗く肌からはそれまでの艶やかさが

嘘のように消え失せ、汚泥に似た鈍色をしていた。

一言で言えばそれは死肉、いや腐肉だった。



異形と化したカペーレは、緩慢な動きで

転倒し見上げる3名の兵士へと巨体を進めた。

そして腹に裂けた大口が体躯を引きずるようにして

覆いかぶさるように3名に喰らい付こうとした。が、

それより早く3名の身体は足から後方へとすっ飛んでいった。



「打ち込めッ!」


鋭い力強い声が響き、3名の重装兵が

第一戦隊専用の重盾メナンキュラスを構えて体当たりを敢行し、

異形と化したカペーレの巨体を壁際へと吹き飛ばした。

壁に衝突したカペーレは重々しくも水っぽい不快な音を立て、

すぐに態勢を立て直し、咆哮した。

身の毛もよだつ咆哮をメナンキュラスを掲げて凌ぎつつ、

2名の重装歩兵を両翼に従えた第一戦隊教導隊長ルメールは

放心した兵士の足を引っ張り引きずる3名と共に、

ゆっくりと慎重に後退し、屋外へと脱した。

すんでの所で救助された3名は既に起き上がり、

恥じ入る余り泣きそうな表情をして態勢を立て直していた。



「クッ、隊長、申し訳ありませんッ」


救助された3名はひたすらに自らの失態を詫びた。

ただの眷属であればここまでの恐怖に憑りつかれることも

なかったであろう。なまじ人だと、ただの新兵だと

高をくくっていた事が心に隙を生んだようだった。


「気に病むな。化生けしょうを相手に恥も何もない。

 さぁ、盾を掲げ戦列に加われ。

 お前たちの命を救った戦友を、今度はお前たちが護るのだ」


ルメールは兵士らの心情を察し、

力強く励ましてすぐに役目を与えた。


「ハッ!!」


3名は歴戦の教導隊兵士に立ち戻り、即座に陣形に加わった。


「距離を取れ! 無理に掛かる必要はない。

 これは織り込み済みの事象だ。重囲してじわりと追いつめよ!」


「御意!!」


ルメールの檄に応じ、兵士たちは営倉を重囲し

新兵カペーレであった異形の襲撃に備えた。




「囮、ですか?」


サイアスは怪訝な表情をして、セラエノに問い返していた。


「おそらくは。少なくとも私はそのように見ているよ。そして

 おそらくは、こちらが囮だと推測することを奸知公爵も推測している。

 そして囮だと見做したこちらがどの様に扱うかを予測し、

 その結果起こるであろうことを目的としている」


セラエノは遠い目をしてその様に語った。

虚空を見つめる瑠璃色の瞳は姿なき敵を捉え

その姿を映し出しているのだろうか。

サイアスはそのように感じていた。


「ふむ、読みあいですか……」


徐々にサイアスにも、

奸知公爵の意図なるものが朧げながら見えてきた。


「無数の選択肢から特定のもののみを正解として残し、

 それを追えれば生き、追えなければ破滅する。

 公爵殿はそういう遊びを用意してくれているのさ。

 これで少なくともあちらが何を思い、

 こちらが何を成すべきかはっきりした」


「……?」


史上に冠絶する観測技能10の持ち主であり、

100年に渡り荒野で魔と戦い続けた参謀長にして

城砦軍師長セラエノの深謀に、

サイアスは付いていくことができなかった。


「……俺たちはカペーレを間者と見做し、

 本城や内郭には入れず外郭の一画に軟禁。

 人手を割いてこれを監視している。

 本隊が出陣し敵と対峙した今、カペーレに注力する分

 他所の備えが手薄になっているわけだ」


平原と荒野を合わせ100戦に臨み不敗を誇る

城砦騎士団長チェルニーがセラエノの言葉を継ぎ、

サイアスに頷いてみせた。


「……奇襲、なのですか? だとすると狙いは…… 

 敵本陣は城砦の南西に仮の布陣。そしてその対角の位置にカペーレ。

 カペーレの位置はあちらの慮外かもしれないが……

 いや違う。間者に気付いたこちらは気付いていない振りをする。

 つまり可能な限り動かさず、最も近い位置にそれとなく

 軟禁し監視することを意図する。だからあの位置すらも

 奸知公爵の狙い通り、か。ふむ、そうなると……」


サイアスはひたすら思索に耽った。

その様をセラエノやチェルニーは目を細めて見守っていた。

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