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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十六日目 その四

ぞぬり。



不快な音を耳にして、

営倉に詰める3名の表情がこわばった。


一人は剣に手をやり、

一人は訳も分からず硬直し、

一人はただ仲間の表情を目で追った。



ぶちょり、ぐじゅり。



それが何かは判らないが、

隣室で何かが起きている。



ずぬり、ずずず……



3名の兵たちは恐怖と義務とのせめぎ合いで

あらゆる行動をためらい、息を潜め堪えていた。



……



音はそれきりしなくなった。

兵たちの表情には安堵と後悔が浮かんでいた。

何故即座に小窓を覗かなかったのか、何故即座に

報告へと走らなかったのかと。強い責任感ゆえに強い

自責の念にさいなまれつつ、兵たちはなすべき

務めを果たすことにした。


剣の立てる金属音に僅かに冷静さを取り戻した一人が

構えを取りつつ仲間へと目配せし、硬直していた一人が

壁の手槍を得て隣室への扉を警戒し、残るもう一人が

慎重に、異様な程もどかしくゆっくりと

隣室への隠し小窓を覗きこんだ。すると、



そこには、誰もいなかった。



「!! 居ないぞ……」


「何、確かか」


許しがたい失態。まず誰よりも自分が許せぬ失態に、

別の一人が小窓を通り抜ける勢いで中の様子を窺った。

中には確かに誰も居らず、人の頭程の大きさの排水口の

周りには湿った不定形の肉片らしき何かがこびりついていた。


「クッ、排水口から逃げたのか!?」


小窓を覗いた一人は声を裏返らせ震わせつつそう言った。


「何だと? 一体どうやって……」


剣を手にした一人が事態に訝しみ声を掛けるも、

茫漠たる重圧に似た恐怖と緊張に満ちた異様な空気が

それ以上の一切の思考を許さなかった。


「……報告を」


3名のうちもっとも冷静に近い剣を手にした一人が

営倉の外へ向かおうとしたその時、今一人がまさに

隣室への扉へと手を掛け、中へ踏み込み直に確かめようとしていた。


「待て! 開けるな!」


慌てて制止しようとしたが既に遅く、兵士は隣室への扉を


「!? 開かないぞ!!」


開けることはできず、ガタガタと扉を揺らし、鳴らしていた。


「な、何だと……?」


次々と起こる理解を超えた出来事に、

遂に誰もが正常な判断力を失ってしまった。

3名の兵たちは目を血走らせ表情をこわばらせ不自然に

身体を引き攣らせながら、必死で扉を引っ張っていた。

しかし扉は岩壁の如くびくともせず、

3名はほぼ自暴自棄となって扉へと体当たりを開始した。



ドンッ、ドズンッ!



屈強な体躯を誇る第一戦隊教導隊が三人掛かりで

ぶつかれば、いかな扉とてもつはずもない。

にもかかわらず扉は破れず、3名はさらに勢いを付けて

気合もろとも扉にぶち当たった。



ドゴシャアッ!!



3名を拒み続けた扉は何の抵抗も見せずに割れ飛び、

3名は勢いそのままに隣室へ倒れ、なだれ込んだ。

余りの呆気なさに呆けつつ


ゆっくりと顔を上げた



その先には




がばりと裂けた巨大な腹と、

ずらりと並ぶ無数の牙があった。

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