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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十五日目 その四十三

本城中央塔3階大広間の一角にて。

たらふく飲み食いした城砦騎士団幹部4名が

そのままゴロゴロとソファーに転がり

怠惰の窮みを満喫していると、


「自堕落、ですね……」


と脳裡に声が響いてきた。


「平原の存亡を賭けた大戦の最中なのに……」


恨めしそうな声はさらに続き、


「見ちゃだめよーシラクサ。

 これは駄目な大人の見本なんだから」


と肉声もまた、響いてきた。


「あぁ?」


ソファーに踏ん反りかえったままウトウトしていた

チェルニーは、すこぶる物騒な面構えで声のした方を見やった。

そこには御立腹なファータと恨めしやなシラクサが立っていた。


「軍師衆か。腹が減っては戦はできんのだ」


食い過ぎで戦ができそうにないチェルニーは

その様に横柄に主張した。


「だからってガン首揃えて

 食っちゃ寝はないでしょーよ」


時折真人間に戻るファータはジト目でさらに非難した。


「ふん、トリクティアの連中に言われたくはないぞ。

 貴様ら最初から寝そべって飲み食いするではないか」


チェルニーは舌打ちしてめんどくさそうに言い返した。

ベオルクは完全に無視を決め込んで

腕組みし黙考する姿勢でウトウトとしており、

サイアスに至っては近場のソファーに移動してこれを占拠。

剣を抱え身体を伸ばしてスヤスヤと安らかに寝息を立てており、

その上では首に掛けていたはずのユハがとぐろを巻いて

外敵を警戒する素振りを見せていた。


「帝政下の貴族の話ですね、それ……」



帝政下のトリクティアにおいて、地上の栄華を極め

あらゆる享楽に満ち満ちた裕福な王侯貴族たちは

多量の上等な寝台を連ね、それに大挙して寝そべって

給仕されるまま食っては眠り飲んでは騒ぎ、

文字通り食っちゃ寝を一晩中繰り返す享楽的な会食を

楽しんでおり、他国からは堕落の象徴と揶揄されたこともあった。



「ド腐れ饅頭ガニめ! 庶民なめんな! ぷんすか!」


無論そうした会食は庶民層には無縁であり、

トリクティアの平民出なファータはキレまくった。


「誰がド腐れ饅頭ガニかこのすいーつ(笑)めが!

 ……っといかんいかん、食後は安静にせねばな、うむ」


チェルニーは身を起こしクワっと怒鳴り返そうとして、

途中で切り上げゴロリと丸くなった。


「駄目人間過ぎる……」


シラクサが冷たい声を脳裡に響かせた。

流石に脳裡に声が響くのは気になるものか、

サイアスが薄らと眠りから覚め、


「立場や職分の違いだね。理解しろとは言わないけれど。

 これでもやるべきことはちゃんとやっているよ。

 まぁあくせく働くのは任せる。食っちゃ寝は任せといて」


と、いけしゃあしゃあとのたまった。


「おぉ、流石はサイアスよく言った」


「うむ。兵団長の言い分は全面的に正しい」


ベオルクとチェルニーは

サイアスの言に大変共感し満足したようだった。


「君も立派な指揮官になってきたねぇ」


サイアスの隣のソファーで同様にひっくり返って

デザートの果実を齧っていたセラエノもまた、

クスクスと楽しげに笑ってそう言った。


「汚いなこいつら汚い」


風の症例による極度の分裂気質なファータは

呪文のように呟きつつも既にそれを忘れ、

ニコニコしつつユハを撫でていた。


「……頭にきた……」


シラクサは許し難しとサイアスの頬や腹を突っつき、

サイアスはうるさがりつつもさらに寝ようとした。

その様を見てセラエノがニヤニヤとしつつ


「おやおや、シラクサが自分から人に絡むとはねー。

 さすがは魅惑の兵団長。モテモテじゃん」


と茶化すと、


「えっ…… いえ、その」


とシラクサが慌てて手を引込め動揺を示したが、

サイアスは全く意にも介さず


「どうでもいい、寝かせてくれ……」


こぼしたために


「……!?」


と怒りを露わにしてくすぐりはじめ、サイアスは堪らず身を起こした。

護衛気取りのユハはというと、ファータと遊ぶのに夢中だった。



「それで何か報告でもあるのかい」


そうした様をクスクスと笑いながら見つめていたセラエノは

話題を進めることにした。


「あー、そうだった! 

 大量の反射板をまとめて操作して、

 この広間の半分程の広さを遠方まで

 直線的に照らす仕掛けを設計しましたよぅ。

 数台並べて運用すれば戦域図の1マス分程度を

 明るくできますよ。追従性が低いので、

 動くものを追っかけるのは無理ですがー」


「へー、なかなか良いね。

 小型で追従性の高いものを組み合わせれば理想的か」


ファータの説明を受け、

セラエノは満足げに頷いた。


「そうですねー。そちらは現状、

 兵士の手持ちに勝るものは用意できていません。

 とりあえず試作の裁可を! ほれ急げやれ急げ!」


「はいはい」


苦笑しつつセラエノは許可し、

ファータやシラクサにも果実を勧めた。


「うむ、くるしゅーない! いっただっきまーす!」


急かしていたファータはしれっと掌を返し果実をかじりだし、

さらに通りかかった給仕に声を掛けた。


「私ブルーベリーラッシー! シラクサは?」


「……ストロベリーラッシーで」


「あ、私もそれにしよ。サイアスは?」


「カエリアンフローズンラッシーでお願いします」


「ワシはチョコミントアイスラッシーにするぞ。団長は?」


「マンゴーラッシー・チェルニースペシャルだ。速やかに用意せよ」


一同はそれぞれ激しく自己主張し給仕を走らせた。

ファータはシラクサ共々サイアスを隅に寄せてソファーに腰掛け、

上官共を真似て任務を留保。暫し休憩に入ることとした。



「ちなみに試作をすっ飛ばして今すぐラインを動かせば、

 夜中までに数台仕上がるって話ですがー」


たっぷり一息入れた後、

眠そうにあくびをかみ殺すサイアスを

ツンツン突っつきつつファータは語った。

それを受け、やや胃もたれが解消したチェルニーは


「やってよし! 試作分含め作れるだけ作れい!」


と気前よく許諾をあたえた。


「さっすが~、団長は話が判るぅッ!」


とフェルマータははしゃいでみせ、


「フッ…… 惚れるなよ」


チェルニーはニヤリとドヤ顔を決めた。


「ぅわやだキッモこのオヤジ真に受けてるし……」


「最悪ですね…… 身の程知らずにも程がある」


一瞬で素に戻ったファータは人格含め全否定し、

シラクサは汚らわしいものを見る目でチェルニーを一瞥した。

チェルニーは盛大に顔をしかめて


「さっさといけ!」


と吠え、


「あはは、はいはーい!」


「ではまた後程……」


と軍師二人はすっかり上機嫌で参謀部へと戻っていった。

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