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サイアスの千日物語  作者: Iz
序曲 さらば平原よ
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サイアスの千日物語 三十日目 その二

中央城砦の第二戦隊は300前後の員数を持ち、城砦周辺の哨戒と

迫撃及び強襲を主任務とする、攻撃力の高い戦闘集団であった。

守備邀撃を主任務とする第一戦隊が敵を正面から受け止め

間隙を縫って第二戦隊が敵を討つという役割上、

機動性・敏捷性を重視した軽装歩兵が中心であり、装備面では

鎖帷子か、煮詰めた革の鎧に両手武器といった姿の者が多かった。

武器は槍や戦斧、長柄に湾曲した刃を取り付けたグレイブなどが好まれ、

兵士は特定の武器の扱いに秀でた者が多かった。


また第二戦隊は他戦隊に比して、隠密性の高さにも特徴があった。

宴において側背攻撃や奇襲を担うためであり、また宴の後、手傷を負った

魔を追跡し潜伏箇所を特定して、魔の弱っている日中に強襲をかけ

仕留めるのも、この第二戦隊の役目であった。


そうした役目上、第二戦隊は死傷率が非常に高く、

その結果他戦隊に比べ新兵の数も多かった。

新兵は訓練課程を終えたばかりの戦力指数が安定しない存在であり、

専ら平時の哨戒任務を経て実地で鍛え上げることになるが、

今回現場へ急行することになった偵察部隊もまた

そうした新兵を中心とした一隊であった。



「はぁ…… 遠いな」


「狼煙はあんなにはっきり見えるのに、

 こっちは全然近づいてる気がしないぜ」


「つか歩きずくめは流石に堪えるわ。

 一晩防壁周りをぐるぐるした後なんだぜ」


「そこの川で水浴びしてぇ」


「お前の裸なんか見たくねーよ。自重しろ」


「……まぁ、景色に変化があるのは救いだわな。

 昼間ならそれなりに楽しめたかも」


兵士たちは口々に小声で駄弁っていた。ほぼ全ての兵が

訓練期間を終えて実戦配備されたばかりの新兵であり、

魔や眷属との戦闘経験が乏しかった。


愚痴をこぼしつつ進む兵士の列。そのやや後方に騎馬が一騎いた。

騎馬の左右には一名ずつの歩兵。この者たちは他と異なり

比較的重武装だった。


「相変わらず新兵どもはお気楽ですな」


騎馬に随行する兵士の一人が馬上の騎士に話しかけた。

鎖帷子の上に外套を羽織り、頭には羽付き兜、

手には槍と大盾といった装備具合だ。


「そうだな。 ……徐々に湿原が右方から迫ってきた。現場も近い」


馬上の男はそう答えた。鎖帷子と板金を組み合わせたプレートメイルを

着込み、頭には羽付き兜、手にはグレイブといった格好で

大柄の馬に跨っていた。


進路妨害の現場は北往路の西の外れに程近く、城砦からは軽装歩兵の

速歩で一刻半というところだった。東から来た輸送部隊が斥候を放たず

直に現場まで進み、その後障害物を嫌って引き返したならば、

確実に道中で日が暮れる。そういう狙いのある配置だった。


「引き締めますか?」


「いいさ。恐怖と眠気を必死で紛らわせているのだろう。

 俺たちも新兵の頃はそうだったろう?」


「そうでしたな」


重歩兵はやや笑った。


馬上の騎士はやや馬足を増し、隊の前方へと回り込んだ。


「お前たち、そろそろ現場が近い。狼煙が上がっている以上、

 現場には敵がいるだろう。時間的に眷属のみだとは思うが、

 油断はするなよ」


「ヴァンクイン殿ぉ、眷属って夜中に出たヤツっすか?」


兵士の一人が騎士に尋ねた。


「あぁ。あれは羽牙という種だ。先刻は数が少なくて助かったが、

 連中は三体一組での連携攻撃を得意としている。防壁の側なら

 援護射撃を受けられるが、ここではそうもいかん。回り込まれて

 首を食い千切られんよう、各自注意しておけ」


兵士たちはどよめき、慌てて兜をかぶる者もいた。


「今回の任務は時間外の追加案件だ。戻ればきっちり勲功が出る。

 それに敵を仕留めれば、さらに別枠で勲功が出るぞ。羽牙なら、

 一体あたり400点というところだ。稼ぎ時だな」


勲功は任務外での貢献に対して出ることが多かった。

また魔や眷属との戦闘任務であっても、撃破は別枠で扱われる。

勲功に関しては、第二戦隊は稼ぎやすい部署といえた。


「おぉ、一匹400てことは有給四日分か。五匹も仕留めりゃ

 アウクシリウムで羽伸ばせるんじゃね」


「ばーか。人数割りすんだよ」


「んじゃ五十匹くらい出て貰わないとな」


「無茶言うな。そんな出たら全滅するわ」


「それにアウクシリウムで休暇ってのは

 移動がかったるいわ。俺ならこっちでひたすら寝るね」


「ばっかあっちの酒場にゃ綺麗なお姉さんがいるだろうよ」


「あーお前訓練期間中散々言ってたな。迷惑考えろっつの」


新兵たちは楽しげに野次を飛ばしあっていた。

騎士ヴァンクインは軽く笑って後方へと下がり、重歩兵に話しかけた。


「俺の思っていた以上にお気楽な連中だった。

 育てばふてぶてしい良い兵士になるんだろうな」


「そうですな…… そうなって欲しいところですが」



荒野の東方、人の住処である平原の彼方から、陽光が徐々に世界を

白く染め始めた。哨戒任務から急遽偵察に派遣されることとなった

騎士ヴァンクイン以下17名。城砦騎士1兵士長2、残りは

新兵といったこの第二戦隊の小隊は、未だ全員が健在だった。

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