表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
383/1317

サイアスの千日物語 四十五日目 その十八

「さて、少し話を戻すと、魔は本来実体のない存在なんだよ。

 ただ、特定の条件が揃った場合には実体化し、

 自ら殺し喰らって回るんだ。人だろうと眷属だろうと

 お構いなしに、片っ端から、ね。その条件とは以下の三つ。

 

 一つ、黒の月であること。

 一つ、活動周期にあること。

 一つ、受肉に足る憑代よりしろがあること。

 

 今重要なのは三つ目だね」


セラエノは一呼吸置き、さらに話を続けた。


「実体の無いものが実体を得るには、

 憑代となるべき肉が要る。それもかなりの量が必要だ。

 それが宴で死んだ多量の人と眷属の屍なのさ。

 つまり荒野に実体を持って顕現する魔は、

 ナマの死肉で出来ているわけだね。

 

 だから魔は一か所に多量の屍が溜まるように眷属を動かし、

 こっちは一か所に大量の死体が溜まらないようにすぐ焼く。

 もっともどこかに実体化させないと、黒の月が終わるまで

 毎晩大戦を繰り返す羽目になる。眷属の軍勢と戦える兵は

 平原中からかき集めても1000。一度にこれ以上は揃わない。

 籠城すれば粘れなくもないが、溢れた眷属が平原に向かうのを

 止める手立ては、ちょっと思いつかないね……

 

 だからこちらとしては、都合の良い場所を選ぶんだ。

 自陣の外の開けた場所をね。今回の場合は

 それが座標7-12という事になる」


「成程、だから二戦隊があのような形で奇襲し、

 そちらの死体は放置した、と……」


サイアスは先に抱いていた疑問が氷解するのを感じた。


「そうだね。城門真南の座標6-15や

 野戦陣内部の座標6-12で顕現されるよりは

 遥かに良いとの判断だよ。攻城兵器で狙い易くもある」


セラエノは斜面の天井の映像や戦域図を見やり、

そしてサイアスを見てほのかに笑んだ。



「さぁ、騎士団長はそろそろ南門に着いた頃かな。

 もう少しだけ話をしよう。先も言ったように、

 顕現した魔は死肉でできた身体に宿っている。

 死肉は腐る。太陽に熱量が乏しい荒野であっても、

 魔自体が持つ膨大な熱量によって、死肉の腐敗は急速に進む。

 顕現した魔は概ね数日中に実体としての活動を停止し、

 そのまま朽ち果て霧散して、再び概念として『眠り』につく」


「ふむ?」


「連中、顕現は意図的にできても、

 自力で元に戻る術を持たないのさ。なので死肉が腐敗し

 自然に消えゆくまで安静にしていないと、元の概念的な

 高次の存在に戻れなくなってしまうんだ。つまり、

『殺す』ことができるわけだね」


「おー」


かつて資料室でヴァディスに聞いた話と

セラエノの説明が繋がり、サイアスは感嘆の声をあげた。


「だから我々は魔が顕現した場合、

 黒の月が引っ込み太陽が昇ってくる夜明けまで必死で粘る。

 大前提として、顕現した魔は夜しか動けないんだ。

 魔が活性化状態にあるのは黒の月の光のお蔭だから。

 なのでひとたび顕現した魔は、日中はほぼただの死肉に

 成り果てるわけさ。そこを襲えば倒せる見込みはあるってこと」


第四戦隊の主たる役目は宴の後にあるというのは、

おそらくはこれのことだろう、とサイアスは大いに納得した。



「もっとも魔はこちらより遥かに強い上、頭が良い。

 まず、戦える相手が限られている。魔と対峙し得るのは

 本能的に魔を恐れない者、すなわち騎士だけさ。

 恐れはそのまま魔の糧になる。強敵が回復しながら

 戦い続けるってのは反則どころじゃない。

 だから魔が出たら騎士以外は遠ざけ騎士だけで戦うんだ。


 さらに手傷を負ったり夜明けが近づくと、

 魔は余っている眷属を適当にこちらにぶつけて

 自身はへ撤退しどこぞへ潜伏する。

 戦闘状態にあるこっちが到底追い切れない程深く遠いところか、

 あるいは護衛となる眷属が大量に巣食う場所にね。


 魔は同時に複数顕現することも多い。仮に宴で手傷を負わせても、

 残る魔や眷属の対応で精いっぱいで追撃にまわれず、無事に

 元の高次存在へと戻られてしまうことが大半だね。

 この100年間で倒せた魔は10にも満たない。とはいえ

 魔の数は増えないと言われているから、こうした英雄的行為の

 積み重ねがやがて荒野から魔を駆逐し、平原に平和をもたらすだろう

 それに」


セラエノは深い色を湛えた瑠璃色の瞳でサイアスを見つめ、微笑んだ。

100年間無数の戦士たちの生き様を見つめてきたその瞳は

万感の想いと共に、サイアスの姿を映していた。


「現状最後の一柱を仕留めたのは

 君の父さんである武神ライナス・ラインドルフその人だ。

 次に魔を倒すのは君かも知れない。私は本気でそう思っているよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ